表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/58

2話 勇者になっちゃったよ

 どれくらい時間が過ぎたのか脳内でのバグったようなレベルアップファンファーレも鳴りやみ『綺麗な顔してるだろ』的な魔王の死体にも見慣れてきた。


 とりあえず人型の死体とその殺害を行ったであろう凶器の刀を放置するわけにもいかない。

 考えに考えてみる。


 結果


「私がやりました。」


 とりあえず自首する事にした。

 アリエヘンの城下町にの衛兵に目を伏し、静かに両手を差出しながら正直に事の顛末を話した。


 衛兵は訝しげな顔をしながらも、すぐに俺は詰所(つめしょ)に連行された。

 母親にも連絡が行ったようで、変なジジイと一緒に真っ青な顔をしながらやってきて「とにかくこの人に正直に話すのよ!」と言われたので、そのジジイに再度、正直に事の顛末を話した。


 俺の供述をジジイの隣で聞いていた母親が「身体が自由に動かず、勝手に動き、気が付いたら刀で切っていた」という俺の言葉を聞いた時、両手を顔に当て声を上げて泣き始めた。


 また親不孝をしてしまったようだ……だが不可抗力だ。信じて欲しい。


 そう思って母親に声をかけたのだが、どうやら母親は俺が殺人犯、いや、殺魔王犯になってしまった事を嘆いているわけではなさそうだった。


 ……どうやら母親の嘆きの原因は魔王殺害によるレベルの上昇。『勇者』になってしまった事の方が原因らしい。


 『勇者』


 力を得し者。

 こう言うと響きは良い。

 だが実際のところは『誰も逆らえない程の強大な力に物を言わせ、好き勝手やってるヤツの事』らしい。


 『魔王を倒す』とか『戦争』とか、そういった厄介事、有事の際には頼もしいので、その傍若無人な振る舞いであってもみんな我慢して当たり障りなく接する。

 というか戦って勝てる相手ではなく存在が暴力なので、被害が自分に及ばないように腫物はれものに触れるように扱う事しかできない。そんなヤツの事だ。


 呆然としていると魔王メンドイの死体を確認してきたらしき衛兵が、かなり慌てながら取り調べ室に入ってきた。

 聞き耳を立てていると俺の供述が正しく、間違いがなかった事がジジィに伝えられていた。

 同じく聞き耳を立てていた母親の泣き声は一層大きくなっていた。


 上がりきってカンストしたレベルのことなど伝えるまでも無く、衛兵の一部が『うわぁ……ヤベェよコイツ。頼むからここで暴れないでくれよ』という顔になっている。


 どうやら俺は長年君臨していた魔王を倒してしまった事で歴代最強クラスの勇者となってしまっているらしい。


 『息子がヤクザになった』的に泣き続ける母と、現状理解が追いつかず口角をヒクつかせる事しかできない俺、そしてただ黙々と思案にふけるジジイ。

 そのジジイが思案を終えたのか、静かに口を開き喋り始めた。


「のうヤベエ…………いや、ヤベエ殿よ。

 御主がアリエヘンの国において、節度のある行動をとると言うのであれば……母上殿には貴族街で、何不自由ない暮らしを約束しようと思うのじゃが……いかがじゃろうか?」


 『ん? なんだそれ』


 そう思いつつも、ジジイの言葉にピタリと泣き止んで顔を上げ、ジジイを見ている母親の姿。

 それを見て言葉の意味を思案する。


 俺 勇者 力があるらしい。

 アリエヘンの国 大人しくする。

 そしたら 母親 贅沢できる。


 考えるまでも無かった。


 母親の顔が期待に溢れているような気がする。

 現金過ぎんだろ。


「あ~……要するに、母親が人質ってことですか?」


 ジジイが少し焦りながら口を開いた。


「いやいやいやいや滅相もない。ただの提案じゃよ。提案。

 母上の護衛には美青年剣士や……そうじゃのう、熟練した男前の格闘家なんかもいたな。あと、怪我をした時にすぐ治療できるように美少年僧侶も付けようじゃあないか。」


 『美少年、美青年、美中年の監視役付きかよ。あからさまな色攻めだなオイ』


 なんてことを思いつつ母親をチラリとみると、何やらキラキラした顔になっていた。乙女……いや、肉食獣の顔だ。

 その顔を見てしまうと肩の力が抜けてしまう。


 なんだかんだ6年一緒に過ごし、苦労もかけた。

 片親でも頑張って育ててくれた恩もある。


「わかったよ……アリエヘンの国では節度のある行動をとります。」


 そう約束すると、母親が喜びまくり、心から嬉しそうに俺に抱きついてきた。

 さっきまでヤクザになった的に泣いてたのに現金過ぎんだろ。


 ……まぁ、まだ母親も30代の前半。

 美形共と青春をしたい気持ちを持っても悪くないだろう。


 ジジイは母親が正気に戻る前に贅沢漬けを開始するつもりなのか、すぐに衛兵に言付けして母親を別室へと案内させた。

 母親はウキウキキラキラしながらこっちに手を振り、スキップでもしそうな雰囲気で衛兵たちについていった。


 その笑顔に、なんとも言えない切なさと寂しさとやるせなさが俺の胸に残った気がした。


「さて、ヤベエ殿よ。

 この国では節度ある態度をと言ったが……」


 ジジイの言葉に現実に引き戻される。


「例えばの話……隣国のアリエナイの国では好き勝手して頂いても構わんのじゃぞ?」


 ほう?

 詳しい話を聞こうじゃありませんか。ジジイ殿。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ