17話 おかえり。ほらバナナだよ
ニンニンが未だに、ふるり、ふるり、と時折身をくねらせ悶え、俺が魔バナナの威力と効果に感動していると、部屋の前が賑やかしくなってきた。
「ただいまっスー。」
明るい声が部屋に響き、前が見えにくいだろう程に、ごっちゃりと色々な荷物を持った二人が帰ってきた。
『え? めっちゃ早すぎじゃね? そんな時間たってたっけ?』
少し慌てる。
いや、やましい事はしていない。
いないが、アレだ。アレなのだ。
そんな事を考えている内に、アンネが顔を動かし、そして部屋の中を見た。というよりニンニンを見た。
ドサリと音を立て、アンネが荷物をその場に落とす。
後ろについてきていたイモートは身長差のせいか、荷物の多さで前がよく見えないのか、未だ置く場所を探している。
アンネは落とした荷物を無視しニンニンの側に駆け寄る。
俺はやましい事はしていない。いないが、なんとなく目が泳がないでもない。
いや、確かに魔力付与のバナナを食わせて人体実験をした事はしたのです。いや、はい。
アンネはニンニンの様子を見た後、俺にジト目で向きなおった。
「……二人きりになった途端にコレっすか? ご主人様。どこが紳士なんスか?」
立ち上がり、静かに移動して俺と一定の距離を保ちながら蔑みの視線を向けてきた。
『何その目線……ゾクゾクするんですけど』
ちょっとだけそんな事を思いながら、アンネの言った事が若干人体実験からずれているような気がして、何故そんな事を言ったのかを考えながらニンニンを見てみる。
快感に身体をひきつかせるニンニン。
見ようによっては『勝てなかったよ』ビクンビクン状態に見えなくもない。いや、実際魔バナナに勝てなかったよビクンビクンしているのだから間違ってない。
ん? いや、という事は何か? あれ? もしかすると俺がバナナ的ななにがしでニンニンを勝てなかったよビクンビクンにした的な誤解をしているのか?
その視点で見てみる。
「あ。」
納得。
心から慌てて弁解を始める。俺は紳士を崩してなどいない!
「ちが、違う! バナナ食べさせただけ! 俺は何もやましい事してないっ!」
「へ~え……バナナねぇ。バナナでしょうねぇ。ご主人様のバナナを食べさせたんでしょうねぇ。」
「違う違うっ! 本当にバナナ! てゆーかその比喩はやめてっ! ごっちゃになるとアレだから! アレだからぁっ!」
訝しげな視線のままのアンネ、俺は必至に誤解を解こうとする……が、ムリポ。
ムリそうなので、もうご主人様的に話を逸らそうと試みる。
責められ続けるのは流石にしんどい。
「てゆーかさ! めっちゃ早くね? ちゃんと色々種類買ってきてくれたの?」
アンネの落とした物と、イモートがわちゃわちゃとベッドに置き始めた物をサっと見る。
いや、まて。
明らかにおかしい。
渡した現金10万エン゛ッじゃ揃えられないくらいの、革、糸、布、絹。
さらに使えなくなった農具などの鉄屑。
特に絹がある事がおかしい。貴重な布のはずだ。
「え? ……強奪?」
思わずアンネが勇者をひけらかして強奪してきたことを想像し『ご主人様命令』が効かなかったのかと思いアンネに向きなおる。
「いいえ……ちゃんと買いましたよご・主・人・様。
原価割れするくらいには値切りましたけどね。」
あ~……なるほど。
確かに『強奪』はしてないね。うんうん。値切って買ったのね。
でもソレは流石にマズイだろう。
「それともなんですか? 早く帰ってくるとマズかったんスかねぇ。」
アンネは主従の立場など逆とでも言わんばかりに俺を見下しながらイヤミを言ってきた。
「だから違うから! 本当にバナナなんだって!! ホラっ!」
俺はもう実際に見せるしかないと考える程に追い詰められていた。なんせ美人姉妹が誤解しているのだ。俺は紳士なのだ。
すぐさまバナナをもぎ取って『頼むからもうちょと聞き分けよくなってよ』と思いながらバナナに対して魔力付与の魔力を流し込んで魔バナナを作り出す。
やはりバナナは光輝き始めたので、それを剥いてアンネの前に手早く差し出した。
「え、ちょ! なんなんスかこのバナナ! なんかパねぇんスけど!」
「いいから食ってみろって!! 分かるから! 分かるからぁ!」
俺は慌てながらも、命令に逆らえきれずに開いたアンネの口に問答無用で俺のバナナを突っ込んだ。
「っ!!? しゅごいのぉぉぉぉぉおぉおおおおっっ!!」
アンネはゴックンと俺のバナナの全てを飲み込んだ途端に叫び声を上げ、ニンニン同様にビクンビクンと恍惚に満たされるように震え、パタリと力なく倒れこんだ。
一部始終を見ていた荷物を置いたイモートが『うっわ……』という顔でこっちを見ている。
明らかに冷めた目だ。
いや、黒目が失われている。アカン。
ええい、もうヤケだ。
もう一つバナナをむしり取って魔力付与し発光させる。
そして俺はバナナを持ちながら、無言でイモートに近づいてゆく。
イモートはそんな俺に対して恐怖の籠った目で、ただイヤイヤと首を振っている。
だが構わない。
構うものか。
「口を開けろ。」
ご主人様命令を出す。
冷たさすら感じる声が出ていた。
イモートは命令に逆らえず、嫌がりながらも意思とは別にゆっくりと口を開く。
俺は、イモートの口に、漲るバナナを突っ込んだ。
イモートは神気すら感じるバナナの味を味わった瞬間、舌を激しく俺のバナナに絡ませた。
なぜバナナを噛まないのか一瞬考えたが、命令で口を開いているので閉じることができないのだ。
俺が納得している間にも、その舌で天上のスッウィーツといっても過言ではない俺の魔バナナを必死に舐めまわして味わっているイモート。その顔は、甘露にとろけそうな表情に変わっていた。
舌を、そして噛めない口を必死に動かし、噛めないながらも一生懸命バナナをしゃぶって味わい続けている。
「よし。食べていいぞ。」
イモートはその言葉を言った途端にむしゃぶりつき。
白く輝く俺のバナナの全てゴックンと飲み込んだ。
「あひぃいーーっ! 体がアツイのぉぉっ! おかしくなっちゃぅうぅぅぅう!!」
やがてアンネ同様、力なくベッドに倒れこんだイモート。
その表情はやはりニンニンやアンネ同様、恍惚とし、快楽に満たされていた。
俺はとりあえずアンネとイモートもベッドに運んで寝かせてから、二人を鑑定してみる。
するとやはりステータスが変わっていた。
HPとMPはニンニン同様に上限突破し、アンネは俺が雑念を持ちながら魔力を込めたせいか【並列思考】というスキルが新たに加わり、イモートは【見習い】というスキルがそれぞれ追加されていた。
再度思う。
魔バナナ
パねぇ。




