12話 姉妹が仲間になったよ
勢いに任せて色々してしまったけれど、とりあえず現状を踏まえつつ、これからどうするかを考えてみる。
数々の魚強盗に及んできた2人は女に変化した。その姿からは元の世紀末兄弟など想像できるはずもないだろう。だけれど、いかんせん話し方に特徴がありすぎる。そして何より美人だから目立つ。
女体化魔法が存在するのだから、もしかすると勘づくヤツが居たりするかもしれない。
チラリと目を向ける。
うん。美人姉妹。
これは殺害などできるはずもない。
ならばどうするべきだろうか。
「あ~……一応女になったからわかんないだろうけど、もしかすると『名前』とかも変えた方がいいかもしんないよね? もし良かったら俺が名前付けるけど……」
そう二人に投げかけてみると、二人は一度顔を合わせてから同時にこちらを向きコクリと頷いた。
「ん。じゃあ主人之命的強制改名、
姉は『アンネ ナンデス』
妹は『イモート ナンデス』
とかで、どう?」
自分の発した言葉に、物凄く違和感があった。
魔法を使う気が無いのに勝手に魔力が動いた感。
例えるなら屁をするつもりが無かったのに屁が漏れたような感覚だ。何かが出たのがしっかりと分かった。
そんな違和感を気にする間もなく、姉妹が揃って目を閉じ、一瞬、光りをその身体から放った。
そしてゆっくりと目を開く。
目を開いた二人は何やら戸惑っている。
いや、俺も戸惑っている。
「なんか……オレっち。
もともとその名前だったような気がするッス……」
「自分も……そんな気がするでガス……」
偽名を付けたはずなのに何かがオカシイ。
とりあえず二人に向けて『鑑定』をかける。
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名前:アンネ ナンデス
種族:ヒト(キレイ)
職業:女勇者(主:ヤベエ)
レベル:20
HP:181/102(+200)
MP:32/99(+200)
物攻:68(+200)
物防:55(+200)(+1)
魔攻:63(+200)
魔防:52(+200)
速度:35(+200)(+1)
幸運:21(+200)
装備:綿の服 皮の靴
スキル:勇者(小) 勇者(超越)の従者
ステータス:疲労
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名前:イモート ナンデス
種族:ヒト(カワイイ)
職業:従者(主:ヤベエ)
レベル:15
HP:62/95
MP:89/99
物攻:35
物防:41(+1)
魔攻:51
魔防:48
速度:21(+1)
幸運:24
装備:綿の服 皮の靴
スキル:勇者(超越)の従者
ステータス:疲労
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「ンッー。」
偽名どころか名前そのものが完璧に変わっていた。
あまりの事態に一度天を仰ぐ。
いやもう職業がオカシイ。
さらにおかしいスキルもついてる。
『勇者(超越)の従者』て……俺の従者って事だとすれば、俺は『勇者(超越)』とかいう存在なの?
俺は混乱しながらも自分が一体何をしたのかを思い返す。
「どうかしたッスかご主人様?」
「どうしたでガスかご主人様?」
二人も自分が自然に発していた言葉がおかしい事に気が付いたようで固まった。
「なんスかコレーっ!」
「なんでガスかーっ!」
「しらんわーっ!」
3人で状況を確認しつつ、俺の辞書くらいありそうな能力や魔法欄を漁ってみる。するとあったよ。
能力に『主従之契約』ってのが。
内容を確認すると『相手の心を折り服従行為を取らせた後、心が揺れ動いている時に改名させる事で発動する』能力で、その効果は『発動するとその者を従者として従える事が出来るようになり、従者となった者は契約者を主人とみなし、命令には強制的に従うようになる』という能力だった。
相手の心を折る。
が
デコピンと刀素振り。
服従行為
が
練乳干し魚を食わせる。
心が揺れ動いている時
が
練乳バナナウマー。
改名させる
が
まんま。
ということだろう。無意識&自然にアカン能力を発動させてしまったらしい。
少し頭を押さえつつ二人を見る。
金髪のロングヘアー。
長身細身のスレンダーなアンネ。
金髪ショートカットで背は低いけど、ボンキュっボンのイモート。
この二人が従者になった?
……従者?
美人姉妹が従者?
……悪くないじゃないか。
また自分の顔がニチャっと崩れてしまう。
その瞬間にアンネとイモートが微妙にビクっと身体を震わせた。
ニチャニチャしたまま鼻息荒く問うてみる。
「なんか? なんか? 俺が命令すると? 命令を絶対聞いちゃうっぽいけど? そこんとこどうなの? ねぇどうなの?」
「い、いや、もう全然わかんないッス。」
「そ、そうでガス。」
「ぇえっとぉ……じゃあ? 実験しよ? 実験。ね? アンネに命令。『上着脱いで』」
命令を聞いたアンネの顔が焦りに染まる。
イモートもまた狼狽えに狼狽える。
「……あれ? ……あっ、あれっ!? なんかわかんないけど! 脱がなきゃいけない気がしてきたッスっ! なんで!?」
頭の中で必死に抵抗しつつも上着を脱ごうと動き始めているアンネの身体。
その様子を見ていた俺の顔がまた、にちゃちゃっと崩れる気がした。
すると、アンネがビクーンと反応した。
「イヤッスっ! なんかその顔イヤッスっ! 脱ぎたくないっ! 脱ぎたくないのに脱がなきゃいけない気がするッス!! ああああああ! わけわかんないっスよぉおっ!!」
脱ごうとする体を意思で押さえつけているのか、ガクガクと激しく体が震え始めるアンネ。
流石に痙攣のような動きはまずい気がしたので、とりあえず命令を止める。
すると痙攣が落ち着き、アンネがしゃがみこんで服を正し始めた。
そして涙目でこちらを睨みつける。
「……な…んか……もうオレっち……イヤな予感しかしないッスよ!」
「いや、大丈夫だって! 俺イヤな事しないから! 今のもただ実験だし、うん。実験。な? 変な命令しないように気を付けるから! な? ね?」
「……ほんとうッスか?」
上目使いで不安そうにコッチを見ている。
なにこれカワイイ。
可愛いは正義だよな、ほんと。
「大丈夫! オレ紳士だし! ちゃんと面倒も見るし! 魚だって食べさせるから。」
カッコつけてニッコリとほほ笑む。
ニッコリとしたつもりなのだが……やはりおかしい笑顔なのかビクリと反応する二人。
だが面倒見るというのと魚を食べさせるという言葉は、しっかりと聞いていた。
「だったらご主人様と認めるッス!」
「うん! ご主人様でガス!」
なんだこいつら、ちょろいんな。




