1話 魔王さんが来たよ(過去形)
読み直してあまりのひどさに改稿しまくりんぐ。
初期作品って怖いっ!
ペース遅めになりそうです(汗)
これは
バナナと練乳と、ある男の物語。
男がバナナを食べさせたり、食べたりすると、
あんなことやこんなことが起きたりします。
練乳を飲ませたり、飲んだりすると、
あんなことやこんなことが起きたりします。
物語はそんな男を主人公に進みます。
もちろん『バナナ』と『練乳』は食べ物です。
本当に食べ物です。
勝手になにか別の比喩だとか……そんなことは想像しないでください。
ここはアリエヘンの国。
城下町に住まう俺は今年18歳になったばかりの……まさに『ヤングなう』な若者の男だ。
さて――
なんとなく察してしまってかもしれないが中身は『日本人のオッサン』である。
気が付いた時には、このヤングなうな若者の身体を乗っ取ってしまっていたようなのだ。
乗っ取ってから、この若者……名は『ヤベエ』としてアリエヘンの国で過ごして、もう6年にもなろうとしている。
このアリエヘンの国は、前の世界、日本とはまったく違う世界。もろに剣と魔法の世界だった。
街を離れればスライムやホーンラビットなどのモンスターがいる。
そう魔法にスライム。
まるで慣れ親しんだゲームの世界だ。
しかもどうやら、このアリエヘンの国の立ち位置はゲームでいうところの序盤のチュートリアルの国のようで、周りにはゆるいモンスターしかいない。
若者を乗っ取り、現状を把握し、自分のステータスを確認する事が出来て『レベル』なる表示まで確認できた俺のテンションは上がりに上がった。
『これはレベル上げて無双とかしちゃったらいいんじゃね!?』
当然考えた。
最高潮のテンションと盛り上がったやる気につられるように家にあった包丁を持ちだし、早速外に出てモンスターを追い回してみた。何せ弱いと評判のモンスターだ。怖い事など無い。レベルを上げる糧になってもらおうじゃあないか。
だが実際に遭遇してみると、モンスターが逃げる逃げる。
まぁ……よくよく考えると弱いモンスターが自分から襲ってくるわけがない。
兎や鼠が立ち向かってくるか? そんなこと有り得ないだろう?
スライムも死肉を漁ったりだとかコソコソ畑から野菜を盗むくらいが精一杯だ。
だが、俺はへこたれなかった。
若い肉体をフルに活用し、フルフル震えるスライムとかホーンラビットを何匹か狩ってみた。
するとレベルが上がるじゃないか。
弱いモンスターでもレベルが上がる。これは良い! この調子でいけば無双無双できるかもしれない。
そんな希望にニッコニコになりながら家路につくと、なにやら近所のおばさん達がヒソヒソとこっちを見ないようにして話をしている。
その姿に一抹の不安を感じたのだが、その不安は夜に現実の物となった。
その日の夜に、ご近所の人にチクられたのか、身体『ヤベェ』の母親らしき人に
「うちの子……スライムとかを……殺しまくってたみたいなんです。」
と、精神病院っぽい所に担ぎ込まれたのだ。
「え? モンスターじゃないの?」
と混乱しまくる俺。
なんとか頭をフル回転させて「とりあえず様子を見ましょう」と帰宅する事が出来たのだが、翌日には、家に『スライム愛護団体』を名乗るオバさんと『ホーンラビット愛護団体』を名乗るオバさんが押しかけてきて母親が終止頭を下げ続けていた。俺はとりあえず震えて膝を抱える事しかできなかった。
その日の夜には、母は少し疲れたような顔で
「アンタの父親は勇者だったからねぇ………アンタも勇者になっちまうんだろうか……」
と、目元をぬぐった。
記憶に無いとは言え、仮にも母親の涙を見てしまった俺は、心底エライ事してまったと激しく後悔し
「大丈夫っ! 俺もう変な事しない! まっとうに生きるからっ!」
と、母に強く約束し、その後はとにかく何かする前に行動がおかしくないかを確認してから動くようにした。そしてその成果もあって、6年も過ぎた今、見事なまでの一般人に成長できた。
今現在の俺は『木こり』となり、今日もせっせと森で木を切り倒す事に精をだしている。
ぶっちゃけガチムチ肉体労働者だ。
だがこの生活も悪いものではない。
誰かの役に立っているし、体を使うから今日食うメシもウマイ。
俺は流れる汗をぬぐい、木陰から差し込む太陽を見る。
「ふぅ……レベルは上がらないが、今日もいい汗流してるぜ!」
肉体労働の喜びをかみしめた。
だが、その時、汗を拭い空を見上げていると、おかしなものが目に入った。
空に何か点のような物が見えたのだ。
そしてその点がどんどんと大きくなってくる気がする。
『すわっ! 隕石か!?』
日本の知識を持っている俺は、空から石が降ってくる事が十分に有り得る事を知っている。
慌てながらも、木々の陰から垣間見えるソレの行方を必死に見ていると、なんと更にどんどん大きくなってきているではないか。
「アカーーン!!」
そう叫んだ時には、それはもうすでに超スピードで目前に迫っており、森の木バキバキバッキバッキ折り薙ぎ倒し轟音を立てた。
俺は木の陰に隠れ衝撃波から身を守ることに必死になる。隕石だったらアウトーな事は分かっているが、死にたくない。頼む。超人的なアレなアレで誰か何とかしてくれ!
そんな事を対ショック姿勢で体を小さく折りたたみながら考えていると、不思議と静けさが戻っていた。
ゆっくりと目を開くと、視界は砂煙や葉っぱ、木くずがもうもうと舞い踊り、何も見れたものじゃあない。
口を服で覆い、目を細めながら粉塵が収まるのを待ちつつも隕石の落ちた方の様子を伺う。
すると、自分のいた所ギリギリの距離までに木々が薙ぎ倒されている事に気づいた。
「ちょっと間違えたら死んでたぞっ!」
ガクブルしている内に大分粉塵も収まり、隕石らしき方を改めて見る。すると……なにやら動いている感じがした。
未だ晴れない視界と砂煙にむせながらもソレの様子をうかがっていると、どうにも人影のようにも見える。
……というかなんかこっちに向かって歩いてきてる。
人型ではあるが、どう見ても人じゃない。
『やべぇやべぇ!! 超やべぇ! 逃げなきゃっ!!』
そう思い肉体労働者のスペックを最大限に発揮して逃げようとした。が……なにやら空気が固まったように凍り付き、一切体が動けそうにない。
異常事態に戦慄を覚えつつも、どんどん近づいてくる人影。
「あ~うぜぇ!」
人影から声が聞こえ、そしてその影が拳を天に突きあげたようなポーズになった。
するとまるで竜巻のような上昇気流がおき、砂煙をまとめて吹き飛ばしてゆく。
風圧に目を閉じながら弱まるのを待ち、なんとか目を開く。
そこにはオッサンがいた。
「え?」
オッサンはコッチの反応など気にする素振りも無く、フランクな感じで喋り始めた。
「あ~……わりぃわりぃ。
俺は魔王の『メンドイ』っつーもんなんだけど……お前の父親の勇者『マジデ』をな、そのなんだ。ヤっちゃったわ。サクっと。」
「…………マジで?」
「おう。マジデな。」
…………
うん。
よくわからん。
実は『お前の父親』とか言われても、親父の名前なんて今初めて聞いたのだ。
母に親父の事を聞こうとすると、周りの温度が氷点下まで冷え込んだような感じになるから怖くて聞けていないのだ。
『メンドイ』と名乗った魔王は、まぁ~面倒くさそうにこっちの悩みを無視して続きを話し始める。
「せっかくさぁ、ようやく勇者に殺されて天国行けると思ってたのによぉ、あんまりにも弱いからコレに負けるのねーわ。ってなっちゃて、つい……な。まぁ許せ。コッチの予定もまるっと狂ってるんだからお互い様って事でさ。」
まるで『ゴメンなーお前の冷蔵庫のプリン食っちまったわ。許せ。どうでもいいけど。』と言わんばかりの雰囲気。
「いや……まぁ…………親父って言ってもほぼ他人みたいなもんだから……俺は別にいいけど……」
「お? 話わかるじゃね~か。よし気に行った。俺お前に殺されてやるわ。
ホレ、コレ使っていいぞ。なんか俺の城の裏の隠れた祠にあった『選ばれし者のみが使える剣』とかいうヤツらしい。」
そう言ってこっちに何やら納刀された日本刀を投げてくるメンドイ。
いつの間にか動くようになっていた身体が反応し思わず受け取る。ずっしりとした刀の感触。つい本物か見て見たくなり確認する為に少しだけ刀を鞘から出してみる。
だがその瞬間、鞘から少し抜いただけにも関わらず赤いオーラ―みたいなもの漂って腕に絡まり、まるで実態を持っているかのように、うねうねと腕に馴染んでゆく。
ちょっと見るだけだったのに、身体が勝手にその刀身を鞘から引きずり出していた。
…………あからさまにヤバイ刀だ。
というか……よくよく考えると刀の前に、メンドイが、なにか頭がおかしい事を言っていた気がする。
「え~っと……ゴメン、さっきなんかおかしな事言ってたよね?」
「何がだよ? ほれ。ちゃっちゃと殺せや。」
聞き間違いでもなんでもなかった。
「いやいやいやいやっ!! 無理無理っ! 俺、殺すとか無理だからっ!」
俺の様子を見たメンドイは交渉を諦めたのか両手をバっと俺の方へ向けた。すると体の自由が一切利かなくなり、それどころか勝手に動きだし始め、鞘をすて、刀を正眼に構え、ジリジリとメンドイへと近づいてゆく。
「ちょちょちょちょちょちょちょーーー!」
明らかに操られている。そしてその目的は魔王殺害だろう。
嫌だ! 俺はもうスライム愛護団体とか、精神科医とか、そういった人達のお世話になりたくないんだ!
だが、一言も話さず両手を動かすメンドイに逆らう事などできず、正眼に構えていた刀が、上段の構えに変わってゆく。もうメンドイが目前だ。
「まってまってまってー!!」
「まちません。」
「あ」
一言交わした後、俺の手の刀はメンドイに切りかかっていた。
袈裟切りに振るわれた刀をメンドイは満足そうにその体で受け止め……そして倒れた。
流れる血。
明らかな致命傷と思える深手。
メンドイは意識が薄れていっているのだろう。
口元に微かな笑みを浮かべながら倒れた。
「あ~……やっと寝れるわ~……
マジ寝てないもん300年……
マジで寝れないの……つらかったわ~……」
一言そう呟いた。
そして静かになった。
その瞬間、身体が一気に自由を取り戻す。メンドイが死んだのだろう。
うん…… なんかお疲れ様……
いや違うっ!!
俺切っちゃったっ!!
俺が切っちゃったっ!!!
現状を受け止めきれず、ただただ狼狽えるばかり……
だがその狼狽えの中、延々と信じられない速さでレベルが上がり続けていくのを感じるのだった。
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