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不細工な僕と不細工なキララ

作者: 天川ひつじ

僕は生まれた時から顔面偏差値が低い。

それに気が付いたのは小学校の時。幼稚園までは、自分の容姿についてあまり思う事が無かったからだ。

ついでに、幼馴染のキララという可愛い名前の女子も、名前負けどころか逆にダメージを受けそうなぐらいの、僕とはまた違うタイプの低い偏差値だった。


親同士が仲良しで、僕とキララは小さい頃から遊んでいた。

そして小学校2年生の時、互いに真面目に相談した。どうやら、不細工を分かち合えると互いを判断していたのだ。互いにとって失礼なことに。


そして。

この時点で、僕たちはお互いの身の振り方を決めたのだ。


「僕はコツコツ頑張って良い学校行ってそれで公務員になったら安泰だからそれで人生やっていく事にする」

「私、大人になったら絶対整形する」


僕たちは互いに頑張ろうと頷き合った。

なお、キララの整形プランには、大金がかかると後に分かった。

その時、キララは『アルバイトを頑張るけど、無理だったらお金を貸して』と僕に頼んできたので、僕は大金持ちになってる予定なので良いよ、と答えた。


加えて互いに誓ったこと。それは性格について。


僕は『男は顔じゃない』と、両親どころか親戚や近所の大人たちからしみじみと言い聞かせられていた。

今から思うと、そうやって慰めていたのだろうが、僕は真面目に聞いてその通りだと思っていた。


人間は心根が大事。


だから僕は、強く優しくカッコイイ性格でいようと誓ったのだ。


ちなみにキララの方も同じことを言われてはいたが、同時にテレビの芸能人は皆整形しているという説を信じており、整形に全てを託すと言った。

美人は多少性格が悪くても許されるとの事。


それを聞いた僕は心配した。いつか整形するとして、それまではブスのままなのだから。

「性格の悪いブスは最悪だと思う」

「うるさい。私は性格悪くなんてないもん」


怒らせてしまったので、僕は神妙に頷いて少しの間黙った。

それでもキララがムッと怒ったままなので、僕はそっと提案した。

「性格の良い美人は最強だよ。だから一緒に色々頑張ろう」

「うん。分かった」

キララは納得して頷いた。


***


それから月日は流れ、同い年の僕たちは揃って中学生になった。

とはいえその頃には、僕とキララは同性の友人の方が大事で、それぞれのグループで過ごしていた。


ちなみに、不細工の僕は、不細工たちと友人になる。なぜだろう。

イケメンたちはイケメンたちで交友関係を持っている。


不細工な僕たちはそれぞれにイケメンを妬んでいた。

あいつらはズルイ。

例え不細工がテストや実技で好成績をあげたとしても、イケメンがほどほどの成績を見せたら皆そちらに群がる。

不平等だ。僕たちも女子にキャァキャァもてはやされたい。


例えばイケメンたちは、憧れのブランドのアイテムを簡単に持てる。

僕たちが持てば、『似合わない』と言われる事すらあるから、遠巻きに手を出せないでいるというのに。


いけない。性根を真っ直ぐに生きていこうと思ったのに、不平等にねじ曲がっていきそうだ。

一方で、僕と友人たちは、すでに自分たちの性格が真っ直ぐには伸びていないと気づいていた。しかしこの状況に、こうなって当然である。


小学校の時の健気な思考はほぼ薄れた。

僕たちはそれぞれにモテるための手を考えた。


僕はお笑いに手を出そうかと真面目に検討した。

一人は手品にのめり込みだした。

一人は筋肉に凝りだした。

一人は勉学に励もうとしたが頭がついてこないと途中であきらめたため、何か使えそうな資格はないかと通信教育にやたら詳しくなり始めた。


さて、僕は別にキララと仲が悪くなったわけではない。

違うクラスになったが、偶然会えれば普通に話をする。


僕はお笑いにチャンスを見出そうと思うとキララに報告した。


「・・・ユウちゃんにはお笑いは無理だと思うけどー」

「人の夢を潰すような事言わないでよ」


「だって、まずシャベリが遅いんだしさ。真面目にコツコツ公務員になってよ」

「それ、ひょっとして、例のプランに僕に金を借りたいから?」


「うん、そう」

キララは真顔で頷いた。そして僕が返答する前に僕の肩をポンとたたいた。

「ユウちゃんに期待しているから! 頑張れ!」

「うわー」

「同志だろ」

キララのすごんだ顔に、僕はコクリと頷いた。

キララも真顔のままでコクリと頷いた。


「とりあえず高学歴になってから芸人目指したって良いんだから公務員の道だけはまだ捨てないで」

「とりあえず、分かった事にする」


ちなみに、僕はまだ、公務員試験が難しいというところまでは分かっていなかった。

とりあえず頑張ることにしただけだ。


***


僕には、キララと幼馴染だということもあって、普通に何人も女子の友人ができた。

ただし彼女はできなかった。

好きになった子はいるけれど、皆イケメンに恋をしていた。


失恋が分かった時には、皆で泣きながらボーリングした。

友人たちも失恋し続けたので、僕たちはカラオケやバッティングセンターを利用しまくった。


途中で、性格の良いイケメンとも仲良くなった。穏やかで誰とでも仲良くできる良いやつだ。


ただし、それをきっかけに不細工な僕らは気が付いた。

イケメンがイケメン同士で仲間になり、不細工が不細工同士で仲間になる理由に、だ。


話が合わない、事が多いのだ。


ちょっと汗を光らせたら女子が惚れるイケメン。

ちょっと汗を落としたらギャーと非難を浴びる不細工。


同じ『暑いね、汗かいちゃうよね、参ったよね』という会話でさえなんだか感情が合わないのだ。


しかし仲良くなったイケメンがあまりにも穏やかで性格が良くて、僕たちは負けを受け入れた。

むしろ、このイケメンは異星人だと思う気分というか。


「この前歩いてたら道を聞かれて。教えたらお礼にってこの本をくれたんだ」

なにその奇跡。

話を聞くと、できる感じのキャリアウーマンだったとか。

イケメンは、結構日常に奇跡が転がっている。しかしイケメンはそれが日常である。


良いな、顔に恵まれたヤツは。

同じことをしても顔が良いだけで高く取り上げられるんだもんな。


これは妬みではなくただの事実だった。

そしてイケメンには性格の悪いヤツもいるけれど、ものすごく純粋で優しいやつもいるんだ。すくすくと真っ直ぐ成長している。

結構早い段階から、アサガオのツルみたいに曲がってきた不細工に勝てる要素がない。


***


久しぶりにキララと家の付近で会った日。

近くの公園で缶ジュースのみながら近況報告をする。

イケメンの友人についてしみじみと語ると、キララはポゥと憧れた。そりゃそうだろう。

「良いなー」


「僕が女でもヤナセくんに惚れるね」

「男子でもそんな事思うの?」

「ヤナセくんすごい純粋で、神々しい」

「ねぇ、男子で人気の女子って誰? 岩本さん?」

キララは話をいきなりぶった切り、自分の興味が向いた話題に変える。良いけどね。


「岩本さんより、小川ちゃんが急上昇中」

「なんで?」

「タッキーがねん挫した時にものすごく優しくて神対応でそれが広がってウワーッと人気が」

「それ周りに誰かイケメンいたよね」


「嘘、なに恐ろしい事いうの止めてくれる?」

「男子って馬鹿か。ものすごい人の悪口言うんだけど小川さん」

「・・・」


僕は黙って一口炭酸を飲んでから、断言した。

「悪口を一生言わないやつなんていないから、問題ない」

「顔が良いもんね」

「顔面補正」

「早く整形したいなぁ~」

「お金溜まってる?」

「ううん。アルバイト代、なんかあまりたまらなくて」


「食べてばっかりだからだ。ダイエットにまで金が必要になったら困ると思う」

「げ。本当だ。良い事言った、ユウちゃん」


二人でしみじみと缶から飲みながら、すこしだけ互いに思案する。


「ねぇ、ユウちゃんの好きになる人、いつも可愛いよね」

「うん」

「身の程をわきまえず。私だから言えるけど」

「うん。傷つく」


「お前もだろって突っ込めばオッケーよ」

「その勇気出ない」

「そういうところ優しいよね」

「うーん。人として?」

「さすが目指せ性格イケメン」

「頑張る」


僕はお返しに尋ねた。

「キララちゃんの好きになる人も、毎度イケメン」

「うん。やっぱりね。吸引力が違うよね」

「あぁ、分かる」

「だから私も、吸引力ある美人に、早くなりたーい」


「頑張れ」

「おー」


互いに励まし合う不細工の幼馴染たち。


***


大学生にはなれた。

その頃に、僕は少し悟りの境地に至っていた。


不細工の僕には吸引力が無い。

性格の良さで人を惹きつけろというけれど、イケメンの方が性格が純粋な気がする。そうじゃないのもいるけど。


僕はとりあえずお笑いは才能がないと早々に見切りをつけていたので、金持ちを夢見て競馬に手を出し、キララに怒られ、株に手を出そうとして経済が分からず本やネットを活用し、マーケティング関係に興味を持ってそれを仕事にできれば良いなと就職活動に意欲を燃やした。


ちなみに不細工幼馴染のキララは僕とは違う学校で短大に入った。

キララも失恋ばかりで、とりあえず金を貯めることに精を出すと言って、しかし不細工なので美人のようなオイシイ高時給のアルバイトには採用して貰えないというのでティッシュ配りとかコマメなところから手を出していた。


「ティッシュ配りもキツイ。かわいい子ならあっというまにさばけるんだけどさ」


ある時に電話がかかってきて不細工について愚痴られたので、僕たちは顔面偏差値が低いんだから、他の技術でやっていった方が儲かるんじゃないかと真面目に話した。

とりあえずキララは、顔面は関係ない、アンケート回答のアルバイトに精を出すことに。


***


結局、恋人とかいうそっち関係は何も得ることが無く僕たちは社会人になっていった。


僕は相変わらず、性格が優しくて、自分の顔面でも人柄を見てくれて、でもちょっと可愛い女の子を理想としており、キララにはフッと鼻で笑われる状況のままだった。

ちなみにキララだって同じなので人の事を笑うのは失礼だ。


「自分の顔面は棚に上げといて、恋人には夢を見てしまうのはどうしてだろう」

「だよね。人間は顔じゃないって信じてないからね。私たち」

「うん。顔が違うと人生変わるって見てきたからなぁ」

「仕方ないよ、私たちだって生きているんだもの」

「そのオチおかしいよね」

「うん。あ、でも!」

久しぶりに電話してきたキララは、声を弾ませた。

「私、今度、整形手術受けることにしたよ! 予約できた!」


おぉおおお、と僕は驚き、キララを祝福した。


世の中には、親からもらった身体を変えるなんて、整形なんて、という人もいる。


だけど、キララにとっては整形は悪い事でもなく、ただ変えるだけで人生変わるなら、それでいて、変えるのにはお金がいるけどお金さえあれば変えられるんだというのは、キララにとって夢であり目標になっていたのだから、僕自身は後遺症という話に怯えてとても踏み切れないけれど、キララについてはとてもめでたい一歩だと喜んだのだ。


***


こうして。

僕は不細工なまま。

キララは、その後も何度か手術をして、顔面偏差値を動かしていた。


ちなみに、キララは費用を僕に借りにきたりはしなかった。

自分になんとかできる金額の範囲で手術をしたと言っていた。


キララが送ってくる自撮り画像を見て、僕は羨ましいなと思いながらも、やはり勇気は持てず、ここに来て男は性格だなんて己に暗示をかけるように繰り返した。

不細工ゆえにひねくれたところはあるけど、できる限り『善き人』であろうとした。


***


キララが整形を何度かして、僕たちの間にはちょっとずつ距離ができてしまったように思う。

なぜならキララは不細工から脱出していったから。

不細工を共有できなくなったからだ。

それでも仲が悪くなったわけではないから、たまに会えば仲良く話をする。


だけど、互いに社会人になって働き出してからはたまに会う事も減っていき、加えてキララは転職して一人暮らしをするといって実家から出てしまったから、ますます会わなくなった。

親が仕入れてきたキララの情報を又聞きするぐらい。


それでも元気にやっているそうで、そりゃよかったと僕は思う。


僕も無事に元気にやっている。職場にも慣れて居心地が良い。

そんな暮らしだ。


***


キララが引っ越していってから、3年経った年の暮れ。

中学校の忘年会が催された。


参加したら、キララも参加していた。

みんな、初めはキララだと分からず驚いた。しかし、仲の良い友人はキララの目標を知っていた。ついに念願叶えたんだ、良かったねと酒を飲み合った。

なお、面影が全くないという事はない。


飲み会で、しかしキララは不細工時代のままに自虐ネタを皆に聞かせた。

「せっかく整形したのにさぁ、彼氏できたでしょ」

「おぉ!」

「でもなんか罪悪感で整形って打ち明けたら冷められてサァ」

「えぇ? というか真面目に言わなくても」

「だって結婚とかぁ、意識したら、言わなくちゃとか」

「真面目! タイミング読め!」


彼氏はできたが破局というのを5度も繰り返したらしい。

どうやら元々不細工なので、イケメンに過大な憧れを持ち、恋愛となると人を見る目が養えていない気がする。


ひょっとして自分たちも同じではと思うと、不細工たちは顔をひきつらせた。

なお不細工メンバー全てが未だに恋人無しという状態では無かったのだが。


僕たちは慰めの言葉をかけた。

「女は顔じゃない。性格だよ」

「うそー」

とキララ。

「うそじゃない。そして男も顔じゃない。性格だ」

「そだねー」

と男が返事をした。僕たちは慰め合い、それをネタに酒を飲んで笑いに変えた。


***


久しぶりに実家に泊まるらしいキララと一緒に忘年会から帰った。


「ユウちゃんには彼女ができた?」

並んで歩いている中でキララが聞いてきた。

「できたらいいなぁ」

「ご愁傷様です」


「どこかに可愛くて僕で良いっていう子落ちてないかな」

「拾うのに」

「両手で拾うね」

「だね。毛布でくるんで温めてかえるね」

「それ捨て猫。または犬」

「だね」


雪が積もっている道をザクザクと歩く。二人とも着込んでいるので寒いけれど大丈夫。


「ねぇねぇ、試しに聞くけど、ユウちゃんから見て私可愛くなった?」

「うん。目が大きくなった」

「二重。でも眼球の大きさは変わらないから限界があるんだよね」

「それは仕方ない」

「うん。金払ってもできないんだから仕方ない」


ザクザクと歩く。

キララは少し可愛い方向になったくせに、この会話は不細工のようだ。


キララは言った。

「料理教室も行ってみたしー。筆ペン講座もやった。英会話スクールも試したんだけど」

「すごいな」

良い女になろうとする情熱と金遣いが。

「でも、なんかなあ。ユウちゃん、私はどう? ちょっと可愛いからお買い得だよ」

「・・・それ真面目な提案?」

「うんそれも良いかなって」


僕たちは歩きながら互いを見た。

確かにキララはちょっと可愛くなった。見た目だけ。性格は悪い方に入っている気がしない事もないけど悪いヤツじゃないのはよく知っている。


僕は確認した。

「せっかく金をつぎ込んどいて、僕で良いの?」

「うん。ユウちゃんが丁度良いんじゃないかなぁって。すごい上から目線だけど。だって私が遺伝子的に不細工って知ってるでしょ。でもユウちゃんが憧れる子的にちょっと可愛くなったと思わない? どうかな?」

「うーん」


僕は恋愛については失恋のみしかない人生を思い返し、ちょっと可愛くて僕で良いと言ってくれる子って奇跡しかないからもうキララで良いんじゃないかと、僕も僕で失礼なことを考えた。

「付き合ってみる?」

「うんそうしようよ」


こうして、僕とキララは付き合う事になった。


***


もともとを知ってるので、特にケンカをすることがない。


僕はキララがちょっと可愛くなったのも嬉しいし、なんだかんだ話しやすいし、一緒にいて問題ない。

それは幼馴染という関係だけでも良かったのかもしれないけど、僕だって恋人は欲しいのだ。


キララは整形のお陰と本人は断言するけれど5人と付き合う事に成功していて、しかし短い期間で破局している。その結果、もう僕が安心できて良いなどと失礼なことをしみじみと言う。一方で、正直な本音だとも理解できる。

不細工はモテにくいので、別の女性に割り込まれたり横取りされたり邪険にされたりという可能性もない。

なるほど。相手が不細工の場合、確かにそこは利点だ。僕も納得。

そしてキララがそれを利点だと思っているなら本当に僕で良いんじゃないかと思っている。


***


そんなわけで。

僕とキララは、この度結婚に至る事になりました。

結構幸せになれそうです。

すでに今結構幸せです。

皆様今後ともどうぞよろしくお願いいたします。



END

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[良い点] 実際イケメンならスキンシップ、ブサメン好みじゃなければセクハラが通る世の中ほのぼのとしたいい話でした。
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