第2章
――灰色の雲が空一面を覆い隠し、雲の隙間から青空をほんの僅かすら拝むことのできない曇天で、今にも雪がちらつきそうな寒さの中、私は冴えない恋人と腕を組み、散歩をしていた。器量が決して良いとはいえず、また彼女自身そのことを認識しながらも、私とこうしてこれ見よがしに繁華街を歩くときには、心なしか自信に溢れるようだった。すれ違ったカップルの背中を見て「あんな女の子にも彼氏ができるんだね」などと言うのだった。もちろん、私といても現実に彼女に自信を持たせるような変化が生じるわけではなく、ただ私が無意識に放つ光の恩恵に与っているにすぎなかった。私が燃え上がる恒星たる太陽であるならば、彼女は光を反射するにすぎない岩石としての月であった。
「ねぇ、雪降ってきたんじゃない?ほら、やっぱり雪だよ!」
手の平を上にして、そこに埃のような雪を捕らえた彼女が言った。雪が降り始めたのを知ると、彼女は空ばかり見るようになった。雪を見つめる彼女の横顔を見た私は、寒さに赤らんだ血色のよい頬と慣れない口紅を塗った若々しい唇に触れてみたい欲求に駆られた。そこに不変は存在しなかった。それはただ時とともに衰え、廃れるほかなかった。しかし、彼女の頬や唇は滅びゆくことを知っていたのに、彼女自身は滅ぶこと消えゆくことを理解しなかった。彼女は「今」をしか求めなかった。
私たちは、しばらく歩いたのち近場の飲食店に立ち寄った。寂れた食堂であったが、その様はかえって、この店がかつては繁栄を目指し、結局は達しなかったという末期を美しく物語っているようだった。
「食べたいものがあれば注文しなよ。安そうだし金の心配はいらないだろう」
私は、彼女がともすればお金を気にして遠慮がちになるのを見越して「大人の対応」を見せた。まだあどけなさの漂う彼女は、こうしたパフォーマンスを非常に喜ぶのだった。