4、坂原探偵事務所 2017年4月22日 10時
翌日、俺は結局ここに立っていた。坂原探偵事務所は水野医療センターからほど近い路地裏のビルの一室だ。
「坂原、いるのか?入るぞ?」
そう声をかけたが返事が返ってこない。こんな朝から出かけているのか?
「おい。坂原。いないのか?」
「・・・ん?なんだ。来宮か」
「お前・・・もう少しちゃんとしたらどうなんだ・・?」
坂原は事務所のベッドで寝ていた。ぐちゃぐちゃのスーツにぼさぼさの髪、どう見ても3日は風呂に入っていない。
「風呂入れよ。汚いぞ」
「今、何時なんだ」
「お前、本当にクズじゃないか。仕事は?」
「無いけど。お前何しに来たんだよ」
俺は依頼を辞めて帰ろうかと思ったが、他に頼る当てもないので思いとどまる。
「お前に頼みがある」
「へえ。来宮が?珍しいね。」
「探してほしい人がいる。白野礼子っていうピアニスト、知ってるか?」
「さあ?そっち関係疎いし。でも、ピアニストでしょ?すぐ見つかるよ」
「違う。ピアニストはいるんだ。その娘」
「うん。まあ、見つかるんじゃない?」
「何か事情があるらしい。出産した瞬間に手放したらしい」
「・・・そんなことあるんだ。」
「俺も良くわからない。正直情報は白野礼子というピアニストの娘ってことしかないんだ」
「名前は?」
「分からない」
「これは白野さんの依頼なの?」
「違う。俺からの依頼だ。」
「それはどうなのかな」
「分かってる。でも、いざという時の為に探しておいて欲しい」
「・・分かった。りっちゃんにも伝えとくから」
「凛久・・あいつ大丈夫なのか?」
「大丈夫って何が?」
「いや・・・」
りっちゃんこと伊沢凛久は坂原の助手で池橋の患者だ。池橋が、最近凛久が診察に来ないと心配していた。
「大丈夫かって言われても、りっちゃん居ないと事務所回らないし。」
「ここには来てるのか・・・」
「見つかったら、お前に連絡すればいいのか?」
「ああ。当り前だろ。頼んだぞ」
「当たり前ねえ。俺に頼めって言ったの、斉藤さんだろ」
「え?何だよ」
「お前が患者のプライベートまで首突っ込むなんて滅多にないだろ。あるとすれば斉藤さんに言われたくらいかなーと」
「失礼だな。俺だって患者のこと」
「こっちはいつ告白すんのかなーってずっと思ってるんだけど」
「・・あいつは、俺のことは」
「はあ。意気地なしだなー。」
「お前に言われる筋合いはない!」
「まあいいや。この後11時から、来客あるから」
「・・帰るわ。とにかく頼んだぞ」
まったく。坂原も勝手なことばかり言いやがって。でも、これで白野さんの娘が見つかればそれはそれでいいのだからと自分に言い聞かせて病院へ向かった。