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35、決意の朝5 2017年4月27日 10時45分

 凛久と池橋は編集長の運転で、隠れ家のような喫茶店で頭を抱えている院長を見つけ出した。編集長に車で待ってもらい2人は店内に入った。


「水鳥医療センターの院長ですね。」


凛久がそう話しかけると顔を上げ振り返った。


「・・・君は?・・・池橋くん・・?」


池橋は気まずそうな表情で会釈した。


「ニュース、ご覧になりましたか?白野礼子さんが真実を話してくれました」

「ああ・・・。」

「院長先生は逃げていらしたのでは?なぜこんなところに?」


凛久は淡々と追い詰めるように問いかける。


「・・・自分が、何をやっているのか、分からなくなってね・・・」

「・・・」

「自分でも意外だけれど、俺には人間の心が残っていたみたいだ。有住に痛い所を突かれたよ・・・。そこにあの演説と来た。もう、何をどうするべきか・・」

「答えは・・一つしかないのでは?」

「有住に、『覚悟も無いのに金を受け取ったのか、見損なった』と言われたよ」

「覚悟?」

「人としての道を外れる覚悟だよ」

「そんなものは」

「そう。持てる人間の方がおかしいんだよ。でも俺は・・・そんなことに気づくのが遅すぎた。あれから18年も経ってしまったんだ・・・。俺には守るべきものがある・・。でももうそれを守ることすらできない」


 斜め後ろに腰かけたまま黙っていた池橋が口を開いた。


「遅すぎることなんて無いと思いますよ、院長」

「・・・池橋君」

「あなたは確かに罪を犯した。それは事実です。でもこの18年間、医師として患者と向き合ってきたことも事実でしょう?だから人間の心を失わなかったんじゃないですか?今、その時が来たってことじゃないですか?18年たって真実を語るその時が」

「・・・」


 院長は池橋の言葉を聞き終えると再び凛久に向き直る。


「院長先生。覚悟が無いと言われたのなら、覚悟してやればいいんです」

「・・・どういうことだ」

「病院へ戻りましょう」

「それは!」

「これが本当の覚悟です。」

「・・・」

「正しい道でやり直す覚悟をするために今、責任を取ってください」


 凛久のその言葉が決定打になったか院長は2人と共に店を出て共に車に乗った。誰が指示するわけでもなく編集長は病院方向に車を走らせた。数分後、病院の近くまでやってくると予想を大きく超える人だかりが出来ていた。仕方ないためその近くで車を降り近づいてみると中から聞き覚えのある声がしてきた。


『皆さん聞いてください!私が、有住双葉です!』


 その声を聞いて4人は驚いた。


「ちょっと・・・!どういうこと・・?双葉さん?!」


 双葉は凛久の声に気が付きこちらを見て院長の姿も確認したようだ。


『後ろを見てください!この病院の院長です!』


 野次馬の視線が院長に集まる。


『綾香さん!見てください!院長ですよ!』


 届いているのか分からないが病院に向かって叫ぶ双葉。病院内でも騒動に気が付いたのかガラス張りの入り口付近に患者などが集まっていて、その中で来宮にナイフを向けたままの綾香が外を見て呆然としていた。


 その場に居た野次馬たちは思惑通りこぞってSNSに投稿し始めたらしい。どういうわけ近くにいるであろう警察は止めに来ない。双葉は院長を引っ張りだした。


『さあ。今度はあなたの番です』

「・・・」


 院長は覚悟を決めたように話し始めた。


「白野さんが言っていたことは全て事実です。私は18年前、出生証明書を偽装しました。そして・・・その事実を隠ぺいするために斉藤先生の殺害を黙認しました・・」


 院長が堰を斬ったように話し始めた頃、院内では綾香がやりきれない思いを抱えていた。


「・・・どうして。・・・どうしてこうなっても有住は出てこないのよ!あの男が・・」


 来宮は綾香に話しかける。


「なあ。お前の想いが届いていると思わないか。みんなが真実を話し始めている。これだけでもうお前の想いは」

「分かってるの」

「じゃあ」

「でもね。ダメよ。だって本当に殺した奴が逃げてるもの。ここに出てこない限りうやむやにされて終わるのよ。そうよね、磯山さん」


 磯山は返事をしなかった。それが答えを示していた。


「・・・ごめんね先生。分かってるよ。ここまで明らかになったこと事態奇跡だって。でもね、これは私の覚悟なの。有住が出てこない以上、辞められない。」


 そうしている間に外では警察が集まっていた。拡散しようとする野次馬を止めに行こうとする若い刑事を深川は制止する。


「何考えてるんですか深川さん」

「・・・時が来たんだよ」

「は?」

「けじめを付けるときが」

「何言ってるんですか?」

「こんなことな、いつかバレることだったんだよ。」

「・・・上に背くんですか・・・」

「まあ。そうなるな」

「らしくないですよ。」

「かもな。でも、いつかはこの腐った組織をどうにかしないとと思ってはいたんだ。時を待っていた。間違いなく今だろ。見てみろよ。磯山の顔。向こうの双葉と院長の顔。」

「・・・・・・・知りませんよ」


 若い刑事は上司である深川に背くことは出来ず持ち場に戻った。


 院長の告白の途中、凛久は坂原の元へ向かっていた。


「坂原さん。有住、探しましょう」

「・・・どうやって」

「目星はついてます。」


 坂原は凛久を見る。凛久は強い表情で頷く。坂原はそのまま池橋の元へ。


「池橋」

「ああ。坂原。」

「院長と双葉を頼む」

「は?」

「・・・有住を捕らえに行ってくるよ」

「・・・・・・・」

「終わらせるにはそうするしかないだろ」

「・・・・・・ああ」


 坂原と凛久は池橋に全てを託し記者の待つ車に飛び乗った。


「おじさんお願い!有住の居場所、特定して!」

「そうくると思ってたよ」


 編集長は待ってましたと言わんばかりに車を発進させた。


「え、あなた、何者ですか?」


 坂原が思わず聞いたが凛久も編集長も笑うだけで答えない。その頃有住達は大通りから外れた駐車場に潜伏していた。GPSがすでに作動していないことを知り、放った部下も双葉を取り逃がしたと分かり、その上で白野礼子の演説をテレビで目撃し有住のイライラと怒りはピークに達していた。そこにはもう人間ではない鬼と化した有住しかいなかった。


「咲楽」

「・・・はい」

「お前・・・従うふりをして俺を陥れたんだな」

「・・・」

「分かってるよな。俺はどんな状況でも全てを手に入れなければ気が済まない男なんだよ。」

「・・・・」

「お前がどれだけ思案しようとも俺は必ず双葉を捕らえるしお前も逃がさない」


 有住が淡々と咲楽を追い詰める。しかしそれに対抗して咲楽は何も答えない。その時、駐車場に凄い勢いで入ってきた一台の車が入り口を塞ぐように停車した。その車から降りてきたのは一人の見慣れない男と、わざと逃がした凛久だった。気づいたときには既に入り口を塞がれ逃げ出す隙も与えずに二人は有住に近づいていった。二人にドアを叩かれ、有住はとりあえず窓を開ける。


「よくもまあ俺の前に顔を出せたもんだ。職場放棄しておいて」

「状況はご存知ですよね?」


 脅されても全く動じず凛久は強い口調でそう有住に尋ねる。


「・・・状況?」

「わざとらしい返事ですね。」

「あんたは?」

「申し遅れました。探偵の坂原です。あなたの罪は既に世に知れ渡っています」

「・・ふん。証拠も何もないのによく言えたもんだな」

「そうですね。証拠は18年前のあなた方によって全て消されたのでしょう」

「ああ」

「でも・・。甘く見ないでください。一つほころびが出来れば、完全犯罪なんて、簡単に崩れるんですよ」

「・・・何?」

「あなたも、覚悟を」


 坂原がそう言うと有住は少々焦ったような表情を見せた。凛久が続ける。


「これでもまだ、斉藤綾香に謝罪する気はありませんか?」

「・・・」


 有住は予想に反してにやりと笑った。


「無いね。どうせやつはこの後逮捕されるんだ。そんな奴の為になぜ自白しなければならない。俺はこの先もまだまだ稼ぐ。奴よりもよほど価値のある人間だ」

「あなたね・・!あなたはもう人間じゃない!・・野蛮な鬼よ」

「ははは!野蛮な鬼か。いい言葉だ」

「・・・」


 凛久が呆れてものも言えなくなったとき、坂原は車に残っていた編集長から合図を受けた。テレビを見るように指示している。


「咲楽さん!テレビ付けて」

「え・・?はい!」

「おい!何を勝手に」


 咲楽が有住を無視してテレビを付けるとそこには中断されたはずの医療センターからの中継が映し出されていた。


「どういうことだ。何を考えてるんだ奴らは!」


 有住は思わず取り乱す。そこには入り口の外に出て、来宮を人質に取り泣きながら有住への恨みを叫ぶ綾香の姿があった。坂原も凛久も咲楽もその様子に思わず息をのむ。有住もさすがに落ち着きを取り戻した。取り戻したというより絶望したに近かった。ニュースの中では綾香の叫びが一瞬途切れた。その時、綾香と来宮の後ろに女性が立った。気配に気が付いた綾香は菜穂を見る。


「・・・磯山さん?私を殺すの?」


菜穂の手には拳銃が握られていた。菜穂の目には突入を試みる深川たちの姿が写っていた。恐らく、人質がこの病院の医師であることから、人質を殺さない程度に危険にさらす覚悟で多くの患者やスタッフを助け出す方向に動いているらしい。しかし菜穂は出来れば来宮も無傷で助け出すために最後の賭けに出た。


「殺したくない」

「・・時間が、無いわね・・。あの男がすべて悪いのに・・」


 有住、そして咲楽・坂原・凛久は緊迫さを増したニュース映像を見ていた。


「警察に裏切られたな・・。奴らは俺を誰だと思っているんだろうな」

「この状況で何を言っているの?」


 凛久が有住をなじるが有住は全く動じない。しかしもう打つ手が無いことが分かっているのか行動しようともしない。


「・・・何も出来ることが無いと分かっているなら、早く行って謝罪しなさいよ!」


 凛久は有住のその様子にイラつきを隠し切れずに怒鳴る。その時、ニュース画面では思いがけないことが起こっていた。


「あっ!危ない!」


 坂原が思わず叫んだその一瞬の出来事だった。


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