18、幻想即興曲 2017年4月25日 20時
坂原は池橋たちに聞いた後、桜木亭に向かった。すると既にコンサートは始まっていて、双葉のソロピアノを1時間蕎麦を食べながら聞いた。
「・・・さすが、生き別れとはいえ、ピアニストの娘だな・・」
双葉の後には別のアーティストが控えていて、坂原はしばらく鑑賞していた。その間に楽屋に戻った双葉は桜木にある依頼をされていた。
「川原ちゃん」
「はい」
「明々後日の28日なんだけど」
「はい」
「出張演奏、頼める?」
「あー、28日? 何時ですか?」
「朝、午前中」
「・・・大丈夫です」
「水野医療センターのロビーなんだけど」
「え?やっぱ無理です」
「大丈夫ですって言ったじゃん」
「ずるいですよ桜木さん」
「いいじゃないか。普段、看護助手してる病院でピアノなんて演奏したら、ギャップでモテちゃうぞ!・・・あ、結婚してるか」
「そうです。そういうのいらないです」
「・・ダメ?」
「・・・仕方ないですね。分かりました」
「ありがとう!」
「今回だけですよ」
桜木は次のステージの準備の為に部屋を出ていった。その直後、坂原はその部屋に入った。
「うわ。誰ですか。ここ関係者以外立ち入り禁止ですよ」
「失礼します。川原・・・いえ、有住双葉さんですね」
「・・・はは。違います」
「僕、探偵の坂原涼です」
坂原は名刺を差し出しながら言う。
「ああ・・・探偵・・」
「はい」
「あ・・・、あなたもお金積まれたんだ」
「え?」
「メイド1人いなくなったくらいでお金積まなくてもいいのに」
「あの、違いますよ」
「は?」
「有住さんからの依頼じゃなくて」
「は・・・だったらあなた誰ですか?」
「坂原です」
「それは分かってますそうじゃなくて」
「ああ、はい。白野礼子さん・・・」
「え・・・」
「ご存知ですよね?」
「・・・あの人が?」
「あ、いや。白野さんの主治医からの依頼です」
「・・主治医・・?」
「はい」
「すいません、意味分かりません」
「白野さんは、もうあとどのくらい生きられるか分からないそうです」
「え?だってあの人」
「すい臓がんだそうです」
「・・・・関係ないんで」
「・・・」
「ていうか、探偵って本当に何でも分かるんですね。あたしと白野礼子の関係なんてもうなんの書類にも残ってないのに」
「あなたの家族から教えて貰いました」
「冗談を。そんなこと」
「僕の部下を、有住家に送り込んでいます」
「・・・?」
「あなたの代わりのメイドとして」
ここまで話すと双葉は急に笑い始めた。
「ははは。本当に何でもやるんだ。何?その主治医さんは白野礼子に娘探してくれーって言われて、あんたの部下があの家に?・・・ははは!あー酷い。こんな、会う気も無い娘探すためにねえ・・・・・・・。その部下の方」
「はい?」
「殺されなければいいですね」
「・・・」
「あの家・・。自分たちを守るためだったら何でもやりますから。ああ、部下さんが本当に可愛そう」
「君は・・」
「どうしよっかなあ・・・。またか・・・。」
「・・・」
「一瞬の夢だったなぁ・・・」
「え?」
「ここまでバレてしまうと、もう捕まるしかないんで」
「捕まる・・?」
「両親に」
「それは」
「無理ですよ。いいんです。これがあたしの人生」
「・・・」
双葉はふいに時計を見る。
「あ」
「何ですか?」
「時間、やばいですよ。この後、ここに桜木さん帰ってきますよ。早く出た方が良いですよ」
「本当に、会わないんですか?」
「・・・あんな人、逢いたくないんで」
坂原は双葉に追い出されるように部屋を出た。桜木と鉢合わせしないように急いで地上に向かった。