15、メイドの決意 2017年4月25日 15時
密会から一夜明け、凛久は有住家のリビングを掃除していた。後ろで黙って見ていた奥様から突然声をかけられた。
「あなた」
「はい、なんでしょう」
「あなた・・双葉より掃除が細やかで気が利いて良いわ。これからもよろしくね」
予想外の言葉が返ってきた。
「あ、ありがとうございます」
「双葉はね、一生懸命に見せかけて手を抜くのが得意な困ったメイドだったから」
「そう・・なんですか?」
「うん。掃除した後を見ると端に埃が沢山残っているの。そういう時はねやり直しをさせるんだけどね、また手抜きをするから、今度は叩いて躾けるの。」
「はあ・・」
「でもあなたにはそんなことをする必要もないわ。」
良かった良かったと笑顔で奥様は去っていた。凛久は奥様の言動が仮にも母親をしている人のものとは思えず吐き気がした。その時、咲楽が帰ってきた。
「その話、半分本当で半分嘘です」
「半分・・?」
「お姉さんは手抜きなんかしません。埃も残っていません。母はとにかくお姉さんを叩く理由が欲しいんです。なんでもいいんです」
分かる気がした。
「双葉さんはずっと耐えていたの?」
「はい。・・・10年くらい前からずっと」
凛久は双葉に思いをはせた。10年間もこれに耐え続けた・・・しかも家の中で。この無駄に広く寒い、家の中で。
「咲楽さん」
「・・はい」
「どんな形になっても」
「・・・」
「必ず、お姉さんを助けると約束する」
「・・!」
「探偵助手の名にかけて、必ず守ると約束する」
咲楽の顔が華やいだ。凛久は胸が痛かった。坂原からの報告で、双葉が本当に山本部長を殺したかもしれないと分かっていた。だから正直、双葉を咲楽が望む形で助けることは非常に難しいと思っていた。でも、まだ若く人生をやり直せる彼女の心だけは救いたい、凛久は自分に誓っていた。