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14、疑惑の彼女 2017年4月25日 13時

「と、いうことらしい」


 坂原は来宮に相槌を打つ暇も与えないほどの勢いで凛久からの情報を喋った。


「・・へえ。なるほど・・・とは簡単には言えないな」

「そうなんだよ。ややこしいの」

「とりあえず、川原双葉=有住双葉ってことだな?」

「そうだね」

「あの看護助手・・」

「あと、有住双葉の両親は何故か山本産科部長を殺したのは双葉だと思っている」


 坂原と事実の整理をしていると突然事務所のドアが開いた。


「その会話、混ぜて貰おうかしら」

「誰ですか?!」

「お前・・・!」

「来宮先生。水臭いですよ!スパイ、お願いしたじゃないですか」

「いや、これはもともと関係ない話で・・」

「外で大体の話は聞かせてもらったんで」

「何してるんですか?!」

「こっちも正直切羽詰まってて。さっき上司から怒られちゃったんですよ。単独行動するなーって」

「まあ、刑事の基本ですよねそれ」

「だから早いとこ決着付けないと、この事件、本当に闇に葬られちゃいますから」


 菜穂の目は本気だった。俺と坂原は仕方なく座り直し、彼女を輪に入れて整理を再開する。


「坂原、既に何故かじゃないと思うぜ」

「え・・?あ、そうか。」

「白野礼子は有住達治の元愛人で子どもを産んだことがある。でもその子は書面上で有住家の正妻の子として生き、実態としては妾の子として生きている。」

「あなた・・えっとお名前」

「磯山菜穂です」

「磯山さん本当に全部聞いてたんですね」

「坂原、こいつにいちいち答えてると日が暮れるぜ。でも書面上で正妻の子として生きるってどういうことだ?普通、出生証明書は出産に立ち会った産科医が書くものだ」

「だから、その産科医がグルならいいわけでしょ」

「それは・・あり得ますね。だから・・」

「山本先生がその産科医ってことか?」


 二人は黙って肯定した。


「あと・・両親はこうも言ったんでしょ?『自殺になるように交渉した』って」

「一体誰にでしょうね」

「そりゃあ・・・」


 俺は言いかけて磯山を見て辞めた。こいつも一応組織の人間だ。


「警察上層部でしょ」

「磯山さん、あんまり・・」

「あたし、そういうの大丈夫なんで」

「有住に金を積まれて、自分を不幸な子にした実行犯に復讐した・・・」

「両親はその事実を再び金でもみ消した」

「しかも恐らく、子どものためではなく自分たちのために」

「なんて奴らだ・・・」

「奴隷的扱いに耐えかねて家を出て、結婚して戸籍と名前を変え、新しい人生を歩んでいる・・つもりなんだろうね」

「殺しさえしてなければ、新しい人生を歩んでるで正しいのでは」

「でも・・・一応文書偽装してるし」

「婚姻届の偽装が犯罪になるのは、役所から親告があった場合ですよね?しかもその役所も基本的に両親からの告発が無いと動かない」

「だから基本的に罪に問われない人が多い。でも、彼女の場合はどうかな」

「どういうことだよ磯山」

「だって奴隷的扱いだったんでしょ?その娘がちょっと犯罪者になったくらい困るかなあ?まあ、殺人はまずいと思うけど。婚姻届の偽装はやり方によっては『娘がすべて悪い、両親は同情すべき存在だ』って思わせることが出来るし、犯罪歴が付くことでますます双葉を縛りやすくなるんじゃない?」

「・・・」

「まあでも、山本先生を殺していればそんなこと関係なく犯罪者だけど」


 菜穂が正論を言い終わったところで全員が黙った。ただ、命短い患者の願いを叶えたいと思っただけ。それがこんなことになるなんて。


「私、署に戻ります。上司に報告して掛け合ってみます」

「あ・・・・はい」

「坂原さん大丈夫、上手くやりますから」

「お願いしますね」


 菜穂は出ていった。俺はことの重大さとややこしさに頭が重かった。


「おい、来宮、大丈夫か?」

「・・大丈夫だよ」

「・・良かったじゃないか。斉藤さんの疑惑が晴れそうで」

「・・・まあな。・・・いや、良くないだろ。もしこれが事実だったら悲しすぎる」

「・・・・とにかく。お前が今一番すべきことは白野さんに話をしに行くことじゃないか」

「・・・」

「彼女に聞いてみないと、双葉が本当に彼女の子かも確定できないぞ」

「・・・ああ」


 坂原にそう言われて俺は多少冷静になった。しかしこの事実を白野礼子にどう伝えるかはかなり思案した。

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