13、知ってしまった秘密 2017年4月24日 20時
咲楽をメイド室に連れ込んだ凛久は誰も来ないことを確認して鍵を閉めた。すると咲楽は凛久に1枚の写真を差し出してきた。
「この家、写真無いでしょ?」
「そうですよね。気になってたんですよ」
「敬語、辞めてください」
「でも一応・・」
「お姉さんもそうだったから。ここでは辞めてください」
「じゃあ・・写真、ちょっと見ていい?」
「はい」
凛久は写真を見た。ごく平凡な家族写真・・・。長女がメイド服を着た地味な女性であること以外は。それにしてもこの長女・・どこかで見覚えが・・・。
「あ!」
「どうしました?」
「この人、あたし知ってる」
「お姉さんですか?」
「川原さん!」
「え?いや・・有住双葉」
「そう!双葉さん!」
「伊沢さん。両親に聞こえます」
「あ、ごめん。つい興奮して・・」
「まさか、お姉さんに会ったことあるんですか?ていうか川原さんってなんですか?」
「川原・・いや、双葉さんは神戸にある病院で看護助手をしている人・・」
「神戸・・?ていうか川原って」
「双葉さんは、結婚してる」
「まさか。それはありえないですよ」
「でも現実そうなの」
「両親が認めたはずない」
「未成年も書類さえ役所に通れば結婚できるの」
「そうなんですか?!」
「文書偽装は犯罪だけどね」
「なんで・・・付き合ってた人とか居ないはずだけど」
「出でいったんだよね、お姉さん」
「はい。」
「恐らくだけど、戸籍、変えたかったんじゃないかな」
「戸籍・・・?」
「戸籍っていうか、苗字?この家が嫌で変えたかったんじゃないかな」
「・・・よく分かりますね」
「前にも居たのよそう言う人。実際にはそれで実家と縁が切れるわけでもないし特に意味は無いんだけど、本人にとっては気持ちの問題なのね」
「伊沢さん・・何者ですか?」
「それは知らない方がいいのかも」
「それじゃ何も教えないです」
「・・白野礼子って知ってる?」
「いえ」
「私・・・いや、私たちは白野礼子さんの娘を探してる」
「警察?!」
「ううん。・・・探偵。私は助手だけど」
「お姉さんを助けに来たわけではないんだ・・」
「・・そうとも限らないよ。全ての真実を明らかにすることが彼女を助けることになるかもしれない」
咲楽はハッとした表情で凛久を見る。凛久は持ってきていた坂原の名刺を渡す。
「神戸の探偵事務所から潜入捜査で来たの。ちょっと予想外のことも起こってるけど・・。咲楽さんが知ってること、全部教えてくれる?」
咲楽はじっと凛久を見つめる。そして決意したように話し始める。
「お姉さんは、両親の本当の子ではありません。母は昔、不妊症で悩んでいたそうです。その時、父は別の女性ともお付き合いしていました。いわゆる妾さんです。誰かは私は知りませんけど。その女性に子どもが出来たそうです。それがお姉さんです。父はその子を有住家の長女として出生届を出しました。」
「それは・・!」
「そう。犯罪ですよね、恐らく。しかも協力者がいたはずです。詳しくは分かりません。お姉さんが生まれた3年後、母に子どもが出来ました。それが私です。母はこれ見よがしにお姉さんを要らない子にしました。」
「・・・」
なんと残酷な話だろう。生まれたくて、その母親の元に生まれたわけじゃない。それなのになぜ、「要らない子」にならなければならなかったのだろう。
「お姉さんは傷つかずに生きるのが上手な人です。傷ついてることに気づかないふりが上手な人です。本当は一番安心できるはずの家の中で、奴隷的な扱いを受けていたのに・・。本当にとても優しかった。私には優しかった・・・」
咲楽は泣いていた。
「お願い。もうなんでもいいです。助けてください。あなたがここに来たのは運命かもしれない。家の中に他人がいることなんてほとんどないから・・。これが最後のチャンスかもしれない。お姉さんを助けてください」
そう言って凛久に抱き着いた。