少年編 - 7話
「そういえばバルドも剣を持ってるみたいだけど、どれくらい戦えるんだ?」
「どうだろう......僕はずっと鍛練はしてきたけど、実戦経験は殆ど無いし比べる相手がいなかったからよくわかんないかな。とりあえずアレクスを見つける前にゴブリン4匹と戦ったけど、そのくらいなら余裕を持って倒せそうかな」
「なるほど、よしバルド、手合わせしよう!オレもバルドがどれくらい戦えるのか見極めておきたい。そうすればすぐに二人で倒せるか逃げるべきかの判断もできるしね。」
自分の実力が今どの程度なのか知りたい。実のところ、クロードさんがどの位の強さなのか知らない僕は、全く測れていないのだ。
「そうだね。あ、ちょっと待ってて!」
そう言って木陰に隠れてローブから木剣を二本取り出して戻り、アレクスに一本渡す。
「木剣?これはどこから?」
「ははは、とりあえずそれは内緒ってことで!ちなみに魔法は使ってもいいかな?」
「魔法も使えるのか!それなら戦闘力を知る目的だし、お互いの剣以外の全部を使っていいことで!バルドの出せる限りの力を見たい」
そう言って木剣を構える。アレクスは騎士のように美しい構えでこちらを見据え、僕は獣のように低い姿勢で様子を伺う。
アレクスがニッと笑ったかと思うと、ものすごい速さで間合いを詰めてきた!だが、クロードさんの時のような、圧倒的な力の差を感じない。速いが、受け切れない威力は無さそうだ。
「はっ!」
アレクスの木剣をこちらの木剣で受ける。やはり、クロードさんよりも速いけど馬鹿力というわけではない。剣を押し返し後方へ飛び間合いを作り、木剣に土属性を付与し、身体強化を発動する。
「付与と身体強化も出来るのか、いいね!」
そう言うとアレクスも身体強化をかけ、木剣が白い輝きを帯びた。
「あれは、光属性......?」
「いくよバルド!」
そう言って先ほどの倍近くの速さで間合いを詰めてきた!すかさず横に飛んで躱す。瞬間、彼の剣が異常な速度で切り返して襲ってきた!
ぎりぎり剣で受ける。土属性の付与で重さを増した剣でなんとかアレクスの剣を押し返し、また間合いを取る。
このままでは厳しいか。膂力は互角程度だが、アレクスの方が速い。剣戟では分が悪い。
次はこちらから打ち合いに行く。低い姿勢でアレクスに接近し、下から彼の顎めがけて振り上げる。それを躱して後ろへ跳んだ所に、左手で土塊を発生させ腹部めがけて数発打ち出す。
アレクスはそれを異常な剣速で全て弾きそのまま剣戟に持ち込みに詰める。やっぱり。彼は剣技に自信があるのか拘っている。それがわかれば話は早い。両手で思い切り剣を横薙ぎに振り、受けたアレクスとの距離を無理矢理作る。
「バルド、すごいな!オレの剣にこんなに打ち合える人はなかなかいない。楽しいよ!でも次で終わりだ。実力もわかったしね!」
そう言うとアレクスの木剣の輝きが増し、刀身が白に染まっていく。神々しいその輝きは、木の棒を聖剣と見間違える程だ。
「光属性の付与は大きな魔力を使う代わりに、付与対象にかかる負担を補う。この剣の重さは勿論、剣を介した衝撃や力も、込めた魔力に比例して小さくなる!」
なるほど、それなら異常な速さの切り返しや土属性の付与に対抗出来る威力も納得がいく。要するに10の力を剣に打ち付けても、アレクスに届くのは6や7といった具合に負担が減るのだろう。
「ずるいねそれ!」
付与だけでも圧倒的な性能をもたらす光属性に少し嫉妬しながらも、どうやって勝つか考えることに高揚を隠しきれず、笑みが込み上げる。
アレクスが腰を落とした。来る!すかさず地に手をつき魔力を込める。
「ウォール!」
数メートル前に土壁を立ち上げ、アレクスの行く手を阻む。その隙に、ローブの収納魔法に手を置き魔力を込める。
その瞬間、ドバアッ!!と大きな音を立てて土の壁が吹き飛んだ。
「そんな物じゃ、今のオレは止まらないよ!!」
土埃の向こうに、光剣を振り払った姿勢で仁王立ちするアレクスが見えた。その光り輝く木剣は土壁を簡単に吹き飛ばし、その力を阻むには脆すぎた。
......でもどう見ても立ち止まってる。
アレクスは余裕を持った表情でこちらを見ている。その慢心が負けに繋がる。クロードさんに教えてもらった事だ!
取り出した煙幕を地面に打ち付ける。特製の煙幕はすぐに完全に視界を覆い尽くした。
「なっ、煙幕!?どこだ!」
そんなの教える義理は無い。普段なら僕も見えないので逃げる為に用意したものだが、今のアレクスの位置はすぐわかる。居場所を知らせるかの如き光の塊を持っているから。
煙が晴れるまでが勝負だ。鋭利な石の矢を複数生成し、アレクス目掛けて放つ!至近距離で初めて認識した筈のそれは光速の剣で弾かれる。だが、大量の矢を全て防げないようで、手足を少しずつ掠めていく。
「そこか!」
場所に気づいたアレクスは猛スピードで接近する。煙の中飛んでくる石の矢を恐れず急所だけ弾きながら、一直線で。予想通り、アレクスは遠距離戦があまり得意ではないみたいだ。
あと少しの所に差し掛かった時、アレクスは足を滑らせ、体勢を崩した!水魔法でぬかるませていた地に踏み込んだのだ。
「はあっ!」
すかさず、アレクス目掛けて木剣を思い切り振る!土属性を付与したこの剣は、いくら彼でもあの体勢では絶対に受け切れない。勝った!!
「くっ、こんなのっ!おらあっ!!」
アレクスは完全に崩れた体勢を捻り、なんと力ずくで足をぬかるみに膝まで突き刺して無理やり支え、僕の剣を受け止めた。
「......バルド、すごいな!危うく負けるとこだった。でも、これが最後の作戦だろ?ここで終わりにしとこうぜ、負けを認めな!............って、おい、やめろ!えっ?熱っ!!」
何か言ってるアレクスを無視して、ぬかるみを熱で蒸発させて固める。追い討ちに土を寄せてガッチガチに膝まで固定した。それが終わると彼の剣は驚異なので距離を取って近くの切り株に座る。激しく動いてお腹が空いたから、ローブの裏から干し肉を出して食べる。
「アレクス、”負けました”って言えたらそこから出して干し肉あげる」
にやっとしながら干し肉に齧り付く。アレクスのお腹がぐうう〜っと鳴るのが聞こえる。
「...........勝てはしなかった!」
こっちを見ずに不貞腐れながら言うアレクスを見て笑う。それにつられてアレクスも笑い始めた。そうして笑い合って少し経つと、アレクスは笑顔でこっちを見て言った。
「オレの負けだよ。悔しいし、慢心してなかったら......なんて正直思うけどさ、それも実力だよな!オレはバルドを認めるよ、君は強いんだな」
「ありがとう!このままじゃ次やっても負けちゃうから、僕ももっと強くなるよ。」
「次勝ちたいんだったら、さっきよりもっとずるい作戦考えた方がいいぜ!」
こうして、僕にとって初めての親友が出来た。