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カース・ブレイヴ  作者: ラーミナ/半叢刃
6/10

少年編 - 5話

どれくらいの文字数が読みやすくて読み応えがあるのかわからず、毎回バラバラですいません。

 「おいバルド!起きろ!!」


 「んーー......もう少しだけ寝ます」


 「そうは言ってらんねえ。もう時間がねえ!」


 眠い目を擦りながら起き上がる。小窓から差し込む明かりは太陽のものではなく、まだ月が照らしていた。何か起きたのだろうか。


 ふと耳を澄ますと、街の方角からいつもは聞こえない様な音が聞こえてきた。


 「予想よりはええぞ......!早くても夕刻ってはずだったんだがな。だが逃げられねえほどじゃねえはずだ、急ぐぞ!」


 そう言って階段を降りて地下室へ向かい、中で荷物を整理する。クロードさんに貰った装備品を身につけ、ローブの収納魔法に煙玉や回復薬、予備の武器や道具を仕舞っておく。


 「よし、これから結界を解く。そんですぐに全力で森を北に抜けるぞ!そんだけだ。森の奥まで入れば撒ける!」


 「わかりまし......うわっ!」


 突然、凄まじい風切り音が地下室に響き渡る。それに追随して、小屋が倒壊した音が耳に入る。


 「なんだ!!!」


 クロードさんについていきながらすぐさま地上へのぼると、小屋の半分がまるで抉られたように消失していた。ふと街の方に目を向けると、一直線上にあった木々は倒壊し、数百メートルの道が形成されていた。


 「やべえぞ!よりにもよって......!!」


 「王国軍の人ですよね......?クロードさんの知り合いですか?」


 「ああ。こりゃ間違いねえ、若くしてフレイドと肩を並べた最強クラスの風魔導師、王国軍第二聖騎士長”疾風のウィスト”だ。考えても仕方ねえな......すまんバルド!このまま結界に向かう!」


 そう言ってクロードさんはすぐさま北へ走り出す。僕もそれに付いていく。


 「このままじゃクロードさんは結界を抜けられないんじゃ......」


 「すまねえな、バルド。今の俺とお前じゃ、多分アイツから逃げるのは無理だ!」


 そう言ってクロードさんは更に速度を上げる。そのまま少し走ると、薄赤い炎が揺らめいている様な壁が見えてきた。


 それから直ぐ、クロードさんが唐突に頭を掴んで押さえつけてきた!


 「うわっ!!!」


 瞬間、僕の胴が先ほどまであった高さの空間を、鋭利な緑の刃が横薙ぎに切り裂く。付近の木々が滑らかな断面を見せて倒壊する。


 死が脳裏をよぎった。クロードさんが助けてくれなかったら、僕も赤い断面を露わにして内臓を晒していた。......殺される。それを自覚した瞬間、凄まじい殺気を感じた。前方から。結界の方向から。


 風の斬撃を放った翡翠色の長髪の男は、風を纏ったレイピアをこちらへ向け、行く手を阻む様に立ち塞がる。


 「ウィスト、やっぱりお前か。......昔のよしみだ、見逃してくれねえか?」


 そう言ってクロードさんも構える。


 「クロードさん、久方振りだ。まだまだ健在の様子で何より。だがすまない、王国の命だ、見逃すわけにはいかない。」


 物腰柔らかく話す彼は冷静に、淡々と話し続ける。しかし殺気は収まる事はなく、向けられた僕は上手く呼吸が出来ない。


 「私はこの命を王宮に志願して一人で引き受けてきた。今回のアスト村侵攻は三つの目的がある。一つは当地の前線化。ここに王国軍の戦力を置き、魔族への牽制をかける。二つ目はその子供の排除。そして三つ目はクロードさん、貴方を王都直属錬成師として迎え入れることだ。」


 「おいウィスト、排除だと?こいつはフレイドのガキだぞ!」


 「知っている。......だから私が来た。当初は”烈火のイグニ”率いる第三聖騎士軍が受け持つ予定だった。だが奴が引き受ければ貴方を拘束してその子諸共村ごと燃やすだろう。」


 「烈火のイグニ......フレイドに同じ炎術師として闘争心バリバリだったあいつか!ならお前で良かった......恩にきる。それでよ、バルドをどうするつもりだ?」


 「今作戦の優先順位は村の確保、クロードさん、その子の順だ。そこでクロードさん、貴方がその身で庇いながらその子を結界の外へ連れ出した、ということにして貰えないだろうか。」


 「お前と分かった瞬間からそれは考えていた。......てことだバルド、すまねえな。俺はこれ以上一緒に行けねえ!このまま俺も逃げるのはウィストも許さねえだろうし、お前だけならもう追っ手は来ないはずだ。」


 「嫌だ!クロードさんとこのまま離れるなんて......!まだ何もお返し出来てないです!僕は......まだ............!」


 このままクロードさんと離れるなんて、絶対嫌だ。無理だと頭では理解しながらも、困らせると分かっていても言葉が出てしまう。



 「............ウィスト、俺はどうしても王都に行かなきゃならねえか。せめてバルドが15になるまででいい!」


 「それは無理だ、......あの石が仄かに輝き始めた。もう時間がない、わかるだろう」


 それを聞いた途端、クロードさんは何かを察したような顔をして、それから苦虫を噛み潰したような表情でこちらを向いた。


 「......バルド、約束破っちまってすまねえ。だが俺は王都に行くべきみてえだ、これは嫌々じゃねえ!俺の使命みたいなもんだ。俺にもやることが出来ちまった。」


 「クロードさん......でも僕は、森を一人でなんて.......!!」


 「大丈夫だバルド!お前は大丈夫だ。強え!強くなった!それによ、俺の最強の装備品を持ってんだ!森ごときで困るわけがねえ!ガハハハ!!......今生の別れでもねえんだ。また会えるさ」


 そう言ってゴツゴツした大きな手でわしわしと頭を撫でてくる。その手が頭から離れると、唯一の家族・理解者だった人が急に遠くへ行ってしまった気がした。そのままクロードさんは背を向けてウィストさんの方へ歩く。


 「行け!バルド!こんな門出だがよ、念願の冒険者デビューだ!いろんな世界を見て色々知って、強くなって金稼いで。そんでよ、次会う時は恩返し出来るようになっとけよな!そんで話聞かせろ!!」


 鼻声で叫ぶクロードさんの声はいつもより情けなかったけど、その背中は堂々としていた。


 「行ってきます。ありがとう、クロードさん。それに、ウィストさんも」


 漆黒のローブを頭まで被って、結界を抜けて駆け出した。孤独の寂しさに耐えながら、僕は暗い森の中へ溶けていった。

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