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カース・ブレイヴ  作者: ラーミナ/半叢刃
4/10

少年編 - 3話

 ーー次の日、昼下がりに、いつも通り狩った魔物を売りにアスト村へ赴き、冷たい視線を浴びた心を癒すためにそのままクロードさんのお店へ向かった。今日は獲物を素早く狩れたし、クロードさんからのプレゼントが楽しみでいつもよりも早く着いた。まだ日は落ちていない。今日は曇っているからか、少し暗く、ちょっと肌寒い。


 ふふ、ちょっと早く来たし、驚かせてやろう。


 「こんにちは、バルドです!クロードさん起きてますかー!!......ってうわっ!」


 「おう、バルド!......やっと来たか。」


 夜型で、いつも僕が来る寸前で起きているクロードさんが、ドアの前でどっしり座って鋭く、真剣な眼差しでこちらを見据えていた。


 「来てもらってすぐにすまないが、まずはこれを受け取ってくれ。」


 「木剣......ですか?」


 特に造りに精巧さも無ければなんの特徴も無い木の刀を投げ渡された。クロードさんならこんなもの3分もあれば作れるだろう。

 誕生日プレゼントに無茶苦茶期待していた!というわけではないが、毎年クロードさんは期待以上のものをくれていたので、ちょっとだけ悲しい気持ちになった。クロードさんは何も悪くないんだけど。


 「勘違いすんなよ!こんなのは誕生日プレゼントじゃあねえぞ!とりあえずそれ持って、お前の家に連れてけ。フレイドの小屋に住んでんだよな?」


 「......え?あ、はい!わかりました!クロードさんってうちに来たことありましたっけ?」


 「ああ、フレイドと行ったことはあるぜ。バルド、お前とは初めてだな」


 「そうですね、では向かいます」


 なんでうちに?と聞きたかったけど、一番信頼を置いているクロードさんの妙に真剣な表情を見て聞く必要もなさそうだと思い、淡々とうちに向かって走る。


 「なあバルド、知ってるか?この広い森をずっと北へ抜けるとカンドって街があるんだが、今は抜けられねえようになってる。お前は”ヘルハウンド”が怖くてまだ奥に向かったことはねえと思うがな、お前の住処から2、3キロ程奥へ進もうとしたら炎の結界に阻まれるようになってんだ。」


 「そうなんですか、全然知りませんでした!......炎の結界ってことは、お父さんが?」


 「察しがいいな!フレイドと数人の魔術師が作っていた結界だ。お前みてえな血縁のある奴は通れるようになってる。実はフレイドの書斎......今のお前の家に、結界の魔法陣があるんだぜ。......っと、着いたな!」


 そうこう話しているうちに、森の中の見慣れた木の小屋に到着した。クロードさんは落ち着かない様子で早足に小屋の中に入っていく。


 「バルド、地下で話すぞ!着いてこい」


 「わかりました」


 クロードさんは慣れた様子で地下への階段を降りて行く。フレイドと過去に何度も来たことがあるんだろうか。そんなクロードに連れられて、毎日鍛錬に勤しんでいる地下室に入ると、いつも通り冷え切った石造りの室内にクロードさんが土属性魔法で椅子のような物を二つ生成してくれたのでそこに腰掛けた。


 ふとクロードさんの方を見るといつもの陽気な面影はなく、普段からは想像も出来ないほど真剣な眼差しでこちらを見ていた。


 「そうだな、何から話すか。......とりあえず緊急の用件からだな。5日後までにお前は......いやこの村の全員は、アスト村から出る事になる。」


 「......え?」


 「俺はあんまり詳しくねえんだがな、近いうちに魔族とのでけえ戦争が起こるらしい。それでよ、カンドの街と魔族の領土......魔界への道と繋がっているこの森は王国の防衛ラインとしてかなり大事みてえでよ、国が管理するらしい。村の連中の殆どは王都の城下町に宿を用意して貰うそうだ。」


 「そうなんですか、それで僕もここを離れるんですね。今日は、僕の家でやり残したことがあるってことですか?」


 かなり急な話だ。もうしばらく今の生活をしながら資金集めと魔法や剣の練習をしてから外の世界を冒険したいと思っていた.......が、なんてことはない。むしろ今より大きな世界を見ながら、知りながら準備をできるなら何の問題もない。


 「悪い話じゃない......って顔してんな。だがお前は城下町暮らしを許してもらえねえさ」


 そう言って一度深呼吸をして、繕った調子の良さを払拭した真剣な表情に戻る。


 「バルド、お前は村では”忌み子”だからって理由で嫌われ者だ。黒髪に黒眼かつ闇属性魔法の適性者だからな。......だが王都からの認識はそんな甘ぇもんじゃねえ。人族の領域に住み着いた敵対勢力の可能性を見出してお前を殺そうとしてやがる!5日後の王都のアスト村侵攻の混乱に乗じてな」


 「そう......ですか。なるほど、僕は森に逃げるんですね......。そのカンドの街を目指すってことですか?」


 「察しがいいな。国はお前を追うだろうがよ、あの結界はそう簡単に抜けられるもんじゃねえ。なんたって炎術の天才のお前の親父と、伝説の魔女『ブライド・ハートランド』の合作だからな!必死で稼いだ金貨50枚があっさりあの魔女の懐に消えちまったのは一生忘れねえ!ガハハハ!!とにかくよ、その結界を抜けられる奴はそうそういねえから大丈夫だ。俺もバルドもあれさえ抜けりゃあとはゆっくりカンドまで向かうだけさ!」


 「よかった!クロードさんも来てくれるんですね!」


 「たりめーだ!王都暮らしなんざ反吐が出るぜ!......だが逃げるのに一つだけ問題がある。森の魔物は結構強え。今のバルドなら倒せねえこたぁねえだろうがよ、一部かなりキツい奴がいるだろうよ。俺も衰えちまってるからどこまでやれるかわかんねえしな。それに”ヘルハウンド”と遭遇しちまったら今のお前を守りながら逃げ切れる自信がねえ。この五日でそれなりに鍛えれねえとかなり危ねえと思ってくれ。だからよ、これから毎日限界までお前を鍛える!そのために俺もここに来たってわけだ」


 「なるほど!ありがとうございます。いつもいつも色々迷惑かけちゃって、クロードさんには本当に感謝しています!」


 「ガハハ!!急になんだ改まってよ!そういうのはカンドの街に着いてからしてくれ!とりあえず時間が惜しい、特訓するぞ!」


 そう言ってクロードさんは地面に置いていた木剣を手に取る。僕ももう一本の方を持って構えると、クロードさんも剣先をこちらに向けて構えた。


 その瞬間、全身が粟立つ程の殺気の奔流が僕を打ち付ける。クロードさんの木剣は魔力を纏い仄かに光を帯びており、その眼光は目の前の僕を射殺そうこちらを睨みつけていた。


 「俺に勝てとは言わねえ。まずは恐怖と殺気に慣れろ、強者から自分を守る術を身体で知れ!大丈夫だ、この為に相当高え回復薬を買い込んできてやったからよ」


 そう言って10メートル程先にいた巨体が地を蹴ると、爆風と共に異常な速度でこちらに突進してきた。


 ......この勢いの巨躯の一撃を受け止める力は持ち合わせていない。咄嗟に左後方に飛んで回避する。クロードさんの切り返しには時間が掛かるだろう。そう判断し、すれ違い際に一撃入れようと木剣を振り上げた!


 「それは甘えだ」


 突如、クロードさんの体が急停止する。彼の足元の地面がせり上がって勢いを完全に殺していた。それに気づいた瞬間、振り下ろそうとした腕に激痛が走る。クロードさんの木剣によって叩き折られた右腕があらぬ方向へ曲がっていた


 「がああああああああっ!!!!」


 激痛に悲鳴を上げて木剣を落とし、膝から崩れ落ちた。痛い。全身から汗が噴き出し、腕に体中の熱が集まったかの様に熱くなり、逆に身体は寒気を感じる。顔を上げて巨躯を見上げると、冷めきった目でクロードさんが見下ろしていた。


 「腕が折れたら命も捨てるのか?」


 「うああああああっ!!!」


 僕の脳天を粉砕しようと振り下ろされた木剣を、転がりながら紙一重で回避する。そこにすかさず、木剣を逆手に持ち替えて鳩尾に向けて剣先が襲いかかる。また転がって避けようとするが、異常な膂力で振り下ろされた木剣は脇腹を掠めて僕の肉を抉り取った。


 「ぐううううっ......ぁぁぁぁぁ............」


 声にならない悲鳴を上げながら無様にのたうちまわる僕を見下ろしながら、クロードさんは血の付いた木剣を肩に担いだ。


 「痛えだろうな、すまん。だがそれに慣れろ、そんなまま森へ出て生き残れる程世界は甘くねえぞ、バルド。俺が魔族だったら今ので死んでるぞ。むしろこんだけ余裕があったら四肢を引き千切って嗜虐する奴もいるかもしれん。」


 そう言ってクロードさんは懐から小瓶を出し、部屋の隅に放り投げた。


 「そのまま立ち上がってあれを取って自分で飲め。痛みに怯む本能をまずは忘れろ。」


 「......はい」


 苦しい。息を吸うと脇腹から血が吹き出そうだ。立ち上がろうと左腕に力を入れると、また脇腹に負担がかかって激痛が伴う。なんとか耐えて立ち上がり、ふらふらと小瓶にを目指して歩く。それを手にとって蓋を開けて中を飲み干した。


 「うっ......ぐっ、、、が、、ああああああっ!!!!ぎいいああああああああっ!!!」


 飲んだ液体が傷口を内部から侵食する様な異常な激痛が走ると同時に、淡い光を纏って修復していく。10秒程すると完全に痛みは途絶えた。


 「それは”不死鳥の(レッドポーション)”って言う回復薬だ。どんな傷も欠損さえしていなけりゃ瞬時に修復する代わりに激痛を伴う。クソ高えがこの5日間惜しみなく使ってやるさ。......その様子じゃだいぶビビってるみてえだな」


 「はあっ、はあっ......」


 こちらを見下ろすクロードさんは、これまで僕の唯一の心の支えで心強い味方だった。今はその巨躯が恐怖の象徴にしか見えない。肩に担ぎ上げた血の滴る木剣がいつ僕に襲いかかるのか、そんな光景が脳裏をよぎり続ける。


 「いいか、魔物も魔族も待っちゃくれねえし、ビビってるとわかりゃすぐに襲いかかってくる。クロウラビットみてえなのの話じゃねえ、バルドより強えヤツだ。そいつのお前の強さが開けば開くほど余裕があるからよ、さっきみてえにわざと隙を見せて誘う余裕があったりするわけだ。俺は言ったよな?自分を守る術を知れってよ。反撃できなくてもいい、さっきみてえに腕が折れてもいい。だがよ、怯むな。ビビるな。痛みに慣れて生きるために必要な動きをしろ!お前は冷静な奴だ、慣れれば上手くできるはずだ」


 クロードさんは話下手だが、その意図は伝わってきた。要するに敵から”逃げ切る”ための鍛練なのだ。確かに怪我をしたからのたうちまわる、というのは戦闘に於いて非合理的だ。


 「なるほどわかりました!やります!」


 痛みの消えた身体でまた木剣を構える。先程の光景が焼き付いており怖気付きそうになるが、それが戦闘に必要ない感情だと割り切って忘れる。


 ーーまずは避けて攻撃を受け切る。これがクロードさんじゃなく魔族だったら、どんな攻撃手段を持っているかもわからない訳だ。その情報を知るためにも相手に攻めさせることは重要だ。慢心もしてはいけない。相手は僕より強い。自分のできる範疇で動きを読んではいけない!


 先程と同様にクロードさんが突撃してくる。以前よりも大きく左後方へ回避した。デジャヴのように巨体は急停止し、こちらに向けて横薙ぎに木剣を振る。


 木剣で受け止めるか?......いやだめだ。僕の力では計り知れないクロードさんの膂力と対峙してはいけない。すかさず屈んで避けると、紙一重の頭上を木剣が掠めた。体勢を整える為にもう一度退いてすぐに構え直した。


 「受けなかったか、やるじゃねえか!正解だ!今のは木剣ごとへし折る気合いで振ったからな!受けたら腕ごと持って行くつもりだったぜ!ガハハ!」


 「うわ......よかった避けて......」



 その後も何度も四肢を折られ、肉を抉られながらの鍛練を重ねていると日が暮れていった。夕食を食べて夜は魔法の鍛練をして、1日を終える。二日目は朝起きてから夕方までずっと同じ鍛練をした。大怪我はかなり減ったが、まだ反撃は出来ないしたまに回避出来ずに被弾してしまう。夜はまた魔法の鍛練をした。魔法に関しては基本練習以外に、身体強化と付与魔法、土属性の簡単な精製魔法を教えてもらった。



 ーーそんな風に鍛練漬けの毎日を過ごして4日目の昼になった。


 「今日は”不死鳥の血”は無しだ!そろそろかなりバルドもやるようになったからな、今度は怪我しないことを覚えろ。普通それは手に入らねえからな、市販の回復薬だけでがんばれ!鍛練の後に一本だけ飲ませてやる」


 「はい!」


 普通の回復薬は激痛を伴うこともなく、浅い切り傷やかすり傷ならすぐに止血されるし、骨に小さなヒビが入った程度ならすぐに痛みは引く。だが大きな傷には殆ど役に立たず、せいぜい痛み止め程度の効果しかない。


 木剣を構え身体強化魔法を起動し、木剣に雷属性の付与魔法を掛ける。雷属性の付与は土属性に対して相性がいいわけではないが、耐久力を上げる他、付与対象に掛かる抵抗を抑える効果がある。


 「付与は無理なくできるようになったみてえだな!いくぞ!」


 いつも通りクロードさんは剣を上段に構え、その巨躯からは想像出来ない速さで突撃してくる。身を大きく屈めて左前方へ素早く走り込み、振り上げられた腕の下を潜り抜ける。避けた瞬間、足場を土で固めて強引に体を捻って横薙ぎに木剣を叩きつけてきた。


 予想よりも速い!......けどその動きは予想済みだ。低い姿勢のまま剣の腹でクロードさんの剣尖を逸らして回避。今度こそ下半身がガラ空きだ!


 「はあっ!!」


 そのままクロードさんの足目掛けて木剣を叩きつける。ガッ!と鈍い音を響かせながら右足に衝突した。


 「いい動きだ!だがバルド、力が乗ってねえ!」


 クロードさんの脚に叩きつけられた木剣は振り抜くには至らず、膝上にぶつかった状態からピクリともしない。地に根を張った大木の様に揺るがず、動じない。そのままこちらを見下ろすと木剣を肩に担ぐようにしながらニッと笑った。


 「なかなかやるようになったな、これが真っ当な剣なら少しは刃が立ってたかもしれねえ!だが骨につっかかって反撃される隙ができるぜ。バルドは直近では生き抜く為に戦うんだ、焦らず落ち着いて対処すんだぜ、これからはよ!」


 「はい!」

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