二:イタズラ好き妖精も避けて通る
以前は人気の多い場所を選んで探していたが、音の主は見つからなかった。幾多の音が多すぎて、求める音が掻き消されていたかも知れない。
だったら、もっと静かな場所を探してみよう。今日こそはきっと見つけてみせる。
街を少し離れると魔物でも住み着いていそうな林がある。人間の話を伝え聞くに、そこには案の定たちの悪い妖精たちがたむろしているらしい。何も知らずに通った人間の持ち物を取ったり驚かしたり、小さな怪我を負わせたりするということだった。
異界に連れて行ったり命を取っていったりしないだけ、まだかわいげはある。
人魚はそんな恐ろし気な林に臆することなく、ためらいもなく林へと足を運んでいく。
好奇心旺盛な彼女は、妖精たちにいたずらされるのも大歓迎だった。
林は一本道で迷うことはない。が、妖精がわざと惑わして暗く深い場所まで誘うこともある。
人魚はそれも想定済みだ。音の主を探すのが目的としても、妖精によるいたずらに遭うのも楽しみにしていた。
が、妖精というのはそういう相手に対して決して手を出さない。反応をおもしろがるためにイタズラをするのに、楽しまれてしまっては興ざめするからだ。
「うーん」
耳を澄ませながら人魚は林の道を進んでいく。
風の音や葉の擦れる音が耳に入りこんでくる。
だがそれらの自然の音に交じって別の音がどこか遠くで響いてくる。
人魚は目を閉じてじっと音を探る。
わずかに聞こえるその音色。それこそ人魚の求めた音だった。
すぐに瞼を閉じ、人魚は走り出した。