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第02話

あなたに少しの日常を

入学式は現生徒会長とか言う奴の話だけで終わり、あのふざけた学長は姿を現さなかった。一人一人の自己紹介が終わってすぐに行った席替えは、担任になったたちばなかなめと言う女教師に、窓際後方二番目が良いと言ったのだが、どこか抜けているらしく一つずれてしまった。クラスの全員に公表された後に間違いに気付いたので、どうしようもなかった。

 こんな感じで入学式初日を微妙な気分で過ごしてまった俺。別にはしゃぐつもりは最初からなかったが、どこか損をしている気分だった。

「なーに暗い顔してんですか。比野さん。私を置いていった自責の念にでも駆られてるんですか?」

 置いてきた彩楓が戻ってきて、隣の席に付いた。どうせならここも間違えてしまえば良かったのに、しっかりと学長の命令が守られているのが意味もなく恨めしい。

「全く事そんな事は思ってないから安心しろ。」

「友達なのに失礼ですよ。比野さん」

「はいはい・・・」

 学長に頼まれて引き受けたとはいえ、俺はあまりやる気を持っていなかった。いや、最初はそれなりにやる気もあったのだが、入学式から日がたってほとんど何事も起こることなく学園生活をしていた。正直一ヶ月も立つと普通のクラスメイトみたいな気分とあまり変わらない。 ただ、その間も俺はほとんど彩楓と一緒にいたので、けっこう柔和な感じで話しかけられることも多くなった。彩楓が言うに友達なら当然らしいけど。それに、俺が彩楓を護衛する。っていうかんじではなく、彩楓が俺に付き添っている事という感じで気分的には過ごしている。一緒にいることは多いものの、そんなに束縛的な制限などは無かった。ただ時々、

「比野さん。校内探検がしたいです。いきましょう」

 とか、

「校内の喫茶店のメニューを片っ端から頼んでみたいです!」

 とかたまにめんどうな事を言ってくることがある。俺が拒否すると、

「私が探検している間に運動のはずみで呼吸困難になったらどうするんですか!」

 とか

「私が喫茶店でデラックスお好み焼きのようなたこ焼き風パフェを食べている間に気持ち悪くなって倒れたりとかしたらどうするんですか!」

 などと俺のボディーガードとしての役割を言い出すのだ。ていうか気持ち悪くなるならそんなの頼むなよと思うだろう。俺も言ったさ。でも何故か探究心や好奇心をむき出しで実行してしまうから、仕方なく俺も付き添って行くことになったりする。ちなみにちょっともらったんだが、俺は一口食べてギブアップした。

「どうですか?おいしいでしょう」

 と胸を張って言うのだがハッキリ言ってかなりまずかった。吐くのをこらえるので精一杯だ。こいつが病院に行ってたのは味覚に障害を持っていたからなのかと思わず聞いたぐらいだ。彩楓は「失礼ですねー」の一言で片付けてしまったけど。こいつが本当は病気なんかじゃなくただのバカなんじゃないかと疑うことは何度もあるが、それでもたまに胸を押さえて苦しそうな顔をしたりする事がある。俺が大丈夫か聞くと決まって「大丈夫」とだけ言ってその場に座りこむ。強がっているのが逆に心配で、放っておくことができない。常に気遣って心配ばかりしていると俺の気が多分持たないろうし、彩楓も辛気臭い顔してますねーとか言ってからかい半分で言ってくる。かといって放ったらかしにすると、さっきのように『死んじゃったらどうするんですかー』みたいな事を言ってくる。俺の周りで人死にはゴメンこうむりたい。状況判断と微妙な心のコントロールが必要なのだ。

 緋良也には学長に頼まれたとしか説明してないので、元々そんな気はないが相談等はできない。結局、半ば押し付けられたとはいえ俺が一人で背負ったもの。途中で投げ出すこともできまい。いやこれは言ってみただけでさらさら考えてないけどね。

 そして俺を悩ませ微妙に憂鬱にさせてくれている本人は楽しそうに英語の授業を受けている。結構頭はいいらしく、授業ではしっかりと受け答えができている。まぁ本来二年生なんだから当然か。

「比野ー次の訳やってみろ」

 英語担当の挫丘さおかに指名された。俺が気を抜いているとでも思ったんだろう。

 えっと問題文は、


 I do not do a slipshod job so that you think. But I will forgive it because I am generous.


 ・・・・・。


「・・・答えて・・・いいんですか?」

「ああもちろん。やってみろ」

 自信満々だ。でもやっていいって言ったんだ仕方がない。

「あなたが考えるように、私はずさんな仕事をしません。しかし、私は気前がよいので、私はそれを許します。わかりやすく言うと僕はあなたの思ってるほど手を抜いていない。でも僕は心が広いので許しましょう」

「・・・・・よろしい」

 そう言って挫丘さおか教諭はくやしそうな顔をした。どうせなら答えられても大丈夫な問題にしろよ。俺が嫌味を言ってるみたいじゃないか。

「比野さんって度胸ありますねー」

 ほら、隣がなんか言ってるよ。教室がちょっとざわついてる気がするし、俺は悪くないぞ。俺はそのあと真面目に余計な事を考えずに授業を受けていたんだが、挫丘さおかが俺の方をあからさまに避けているので全く何事もなく終わった。評判、少し落ちたかも。


 放課後。特に部活に所属していなく、興味も無い俺は暇を持て余している。

「なのになーんで俺はバスケ部の練習している体育館にいるんだ」

 言って俺は隣にいる彩楓を見る。

「比野さん。運動は大事ですよ。体を動かさないと体はなまる一方です。昼間ぐーたらしてる比野さんはこのままだとダメ人間になってしまいます。だから参加しましょう!」

 別に帰宅部がダメ人間って事はないだろうに、それに参加するったって部活に属する気はさらさらないぞ。

「私も別にずーーっと運動しろなんていいませんよ。それに入部する気が無くても今の時期なら仮入部という手があります。一日パーッとやって帰ってしまえばいいだけです」

 微妙に失礼だな。入部する気はないのに遊びに来るのは。

「いいんですいいんです。そういう期間なんですから細かいことは気にしません」

 あっけらかんと言い放つ彩楓。

「だが仮入部するにはそういう受付用紙が必要なんじゃないか?生憎あいにく俺は持ち合わせていない。」

 そう言えば彩楓はにやりと笑う。

「チッチッチ。比野さんが持っていないのはもちろん承知しています。でもそれは私がご用意致しました!」

 そう言って鞄から『体験入部届け』と上の方にに書かれたをプリントを俺に見せつけるようにしてだした。

 ださなくていいのに。

「さぁ鳴海さん。いきますよ!上手くできなくてもあとでなぐさめて恩を売ってあげますから!」

 後半余計な事を言ったのに気付いてないようだ。どんどん男子バスケ部の方に歩いていってしまう。ていうかもう出しやがった。俺は何もいってないぞ!

「もう遅いです。出しちゃいましたから、別に体操服じゃなくてもいいそうなのでちゃっちゃとやって挫けちゃって来てください。待ってますから」

 終始笑顔。かなり性格悪いぞ、こいつ。

「君が比野君だね。僕は部長の高林たかばやし。バスケットの経験は?」

 髪を短く切った爽やかそうな青年が声をかけて来た。さすがバスケ部部長、でかい。百九十は余裕であるだろう。

「中学の授業でやった程度です」

「まずはフリーシュートから、向こうでみんなやってるから。それじゃ」

 そう言ってバスケットコートに戻っていった。バスケの経験の事を話したら落胆したのが分かった。俺がバスケ未経験者だから使えないと思ったんだろう。少し気に入らない。

「期待はされてないようだぞ?」

 彩楓に話を振ってみる。

「別に入部するわけじゃないんですからいいじゃないですか。それに私も期待してませよ?」

 そういや恩を売るとか言ってたなこいつは。

「はぁ・・・じゃぁ気分転換のついでに適当にやってくるよ。」

 俺は仮入部者らしき連中が列を作って先輩に指導を受けている列へ入っていった。




 バスケットボール部の仮入部を終えて帰宅している俺と彩楓の会話。

「あの比野さん。本当にバスケ中学でやっただけだったんですか?」

「ああそうだ」

「でもフリーシュート最初に一回外しただけで他に外してませんでしたよね?」

「そうだな」

「その後にやった仮入部者同士の1or1(一対一)一回も負けませんでしたよね?」

「負けなかったな」

「それに最後にやった試合に先輩達に交じって参加して一人で十八得点あげてましたよね?」

「あげてたな。ついでに言うとアシストは十七だ」

 さらに言うと三点シュート(スリーポイント)が二本ある。

「さらにさらに部長さんや他の先輩方に熱心に入部するよう勧誘されていましたよね?」

「されてたな」

 彩楓は口をぽかんとあけている。数秒して、

「なんでそんなにできるのに部活入らないんですかー!」

 何故か叫びながら俺の襟元を持って揺さぶる。

「やめろ、頭が揺れてクラクラする」

「だってだってそんなに出来るんだからもったいないじゃないですかー!恩を売るどころかあまりに凄くてびっくりしちゃいましたし!」

 彩楓の手を離して距離をとる。

「入部するかどうかは俺の勝手だし恩を売ろうとして失敗したのはお前の勝手な推測と性格の悪さのせいだ。」

「私は性格悪くありません!」

 ブンッと風を切る音がして、彩楓のスイングした鞄が横から飛んできた。寸前で避けたが顔の目の前を通過していった。

「なんで避けるんですか!」

「・・・お前今日その鞄に入ってる持ち物全部言ってみろ」

 人差し指を顎にあてて思い出す彩楓。

「えっと、国語と社会と英語と理科と数学、私愛用のステンレス製のクマの弁当箱に缶のペンケースですね」

「量も内容も最悪の五教科が入ってる上にステンレス製の弁当箱まで入ってるじゃないか!」

 そんなんで風を切るほど早く顔面をぶん殴られたらひとたまりも無い。一瞬で失神できる自信があるぞ!

「そしたら私の行き着けの病院紹介してあげますから」

 笑顔で言われても。そもそも俺は失神したくないわけなんだから。

「でもほんっと〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜に、もったいないです。はぁはぁ・・・」

 溜めに貯めて、自分で息を切らしている。アホ。

「いくらできても楽しくないと意味無いだろう」

「バスケットボールがつまらないとでも?」

 ここでそうだと言ったら彩楓に殴られるか全国のバスケットボール選手及びファンに標的にされ文句が殺到するだろう。最悪その両方。でも、違うから。

「いや、結構楽しいし運動をする分にもいいスポーツだろう」

「じゃぁなーにが気に入らないんですか?」

「言わないと、いけないのか?」

「言わないと、いけないです」

 彩楓はこっちが向けた目を真っ直ぐに見返してくる。言うしかないのか。

「何を言っても殴るなよ?」

「善処します」

 政治家発言はずるいと思うんだが、彩楓の言葉を信じよう。

「・・・・・汗をかくのは嫌いなんだ」

 言ったよ。うん正直に、そしたら次の瞬間また鞄が飛んできた。

「うぉあぶねっ」

 頭の方にまた放たれたそれを俺は体制を低くし頭を下げてなんとか避けた。髪の毛何本かもってかれた気がするけど。

「だからそれはやめろって、マジ当たったらしゃれになんないから」

「ふーんだ。スポーツを根本的に否定するような人にかける情けなんてありませんっ」

 何を怒ってるんだこいつは。

「世の中したくてもできない人はたくさんいるんです。それを汗をかくのが嫌いだからって、スポーツをしないなんて、私はそんな子に育てた覚えはありませんっ」

 俺も育てられた覚えは無い。でも『したくてもできない人はたくさんいる』か、彩楓はずっと入院していた。スポーツや運動だって制限されていてやった事なんて当然ないんだよな。

「確かに。そうだな」

「無気力の塊の鳴海さんでも理解できましたか?」

 失礼だな。否定はしないけど。

「まぁ、そうだな。」

 そう言うと彩楓はスポーツの事を熱心に語って説教をはじめた。

 でもここはおとなしくしていよう。知らず知らずとは言え相手の考えに逆らうようなことを言っていたんだ。ストレスは体に影響を与える。俺もそれなりに持論はあるが、今回は黙って聞いていてやろう。病気の事を何も聞かされてないのにいろいろと気遣う俺、健気だな。

「まぁ私は出来ない方の人間ですからこんな事いいますけど、出来る人は出来る人でいろいろあるんでしょうね。才能を無駄にするのはあんまり良くない事だと思いますけど、自分のしたいようにするのが一番なんでしょう」

 途中スポ魂マンガの素晴らしさとかを語ったりもしていたが、

 彩楓はそう言って締めくくった。

「・・・・・・・・」

「なんですか?比野さん。こっちをじーっと見て、惚れちゃいましたか?」

「なんでそうなる」

「いや、熱い視線を送られていたものですから。違うんですか?」

 違う。見ていた事は確かだが、熱い視線を送った覚えは無い。ただ俺の思う所と同じだった事に関心していたんだった。『自分のしたいようにする』それは『したくてもできない人はたくさんいる』と言う事に対立するように今回あるけれど、ある意味では一緒だ。これは正しいことだと思っている。そして、自分の思っているそれを押し付けるのではなく、違う意見のそれでも受け入れるような事を彩楓は言った。いい言葉は見つからないが凄い事だと俺は思っていた。でもそれを言う気にはなれなくて、

「お前もたまには良い事を言うんだな」

 とだけ言っておいた。嘘はついていない。

「たまには、は余計です」

 彩楓は怒っている顔をしていたが、俺は反対に穏やかな顔をして帰宅した。

 味気なくてつまらないが、こんな感じが俺と彩楓の最近。

読んでいたたいてありがとうございます。

気になった点や誤字脱字などがもしあればよければ教えてくださるとありがたいです。

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