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第01話

あなたに少しの展開を

―――一ヶ月前の入学式前日。俺は朝起きて、朝食の定番目玉焼きを作り、味噌汁をコトコトやりながら郵便受けに学校側からの封筒があるのを見て、少し驚愕しながら封を切った。

 内容は午前十時に校門前に来るようにという呼び出しを告げるだけの文章だったので、何事かと九時五十分には学校につけるよう自転車に乗って学校に来た。そして指定された通りに校門の前に行けば、拾ってくださいと言わんばかりに封筒が落ちていた。まわりに人はいなく、この状況なら呼び出しを受けた俺が開くべきなんだろうと思い、拾い上げて中身を確かめてみると、中には折りたたまれた紙が二枚。

 まず一枚目。


幸運な生徒へ

『おお よくぞ来られた選ばれし勇者よ さぁ光の大樹に囚われた神の愛娘を救い出してくれ』


 ・・・・・なんのRPGですか。これは。ていうかハッキリ言ってベタで寒すぎる!これは冒険ファンタジーものではない!

 俺は鳥肌ができるのと同時に紙を破りたい衝動に駆られたが、紙の隅っこに小さく書かれた字があったので目を凝らした。

『By学長』

 とりあえず破った。学長が凄い人だとは聞いていたがこういう凄い人だなんて聞いてないぞ!

 俺は一枚目を全て五ミリ以下に破き、そこらへんに捨てては迷惑なので元々入っていた封筒の中に捨てた。

 続いて二枚目。


※訳

 受験番号 0425 比野ひの 往人ゆきと君。

 光院学園校内にある学園のシンボルにもなっている一番大きな公孫樹いちょうの木の下に女の子が待っています。行ってあげてくさい。

『By秘書』


 秘書さん通訳ありがとう。でもどうせなら一枚目を学長さんに書かせないでくれ。

 俺は顔も知らない秘書さんに適度な感謝の念を。幼馴染の緋良也が持っていたパンフレットの校長紹介の所で見た学長というシルエットだけだった存在の偉大な人間へ疑惑の念をそれぞれ飛ばしながら校門の前に自転車を止めて歩き出した。当然届かなかったけど。

 校内に入るのはこれが初めてだ。この学校が異常に競争率が高いのを知っているので、人がいっぱいで見学どころではないだろうと思って高校見学なるものには行っていなかったし、受験では特設会場みたいなのものが各地で設けられ、この高校は使われなかった。

 だが歩き初めて数分で、自分がこの学校をなめていた事がよく分かった。門から入ったら校舎の玄関はすぐにあるものの、体育館が三つあったり、プールが二つあったり、剣道場や柔道場が当たり前のように一戸建てで上質そうなひのきで立てられていたり。流石に今は営業していないが、コンビニみたいな売店やら自販機やら。それに敷地が広くて圧迫感が無く、植木が多数してあって、それなりに自然もある。みんながこの学校に来たがる理由を納得し、自分が分不相応な場所に来ている気がして、学長を尊敬してやってもいい人か考えながら女の子が待っているとか言う公孫樹いちょうの木の下へ向かった。


 公孫樹いちょうの木の下には光院学園指定の制服を来た女の子が確かに待っていた。腰のあたりまで伸びている真っ直ぐで長い黒髪。日に焼けていない白い肌で、顔のパーツの一つ一つが整っている。黒い大きな瞳で、どこか子供のようなあどけなさのある顔立ち。こちらに気付くと女の子の方から声をかけてきた。

「遅いですよ。比野さんっ」

 嬉しそうな起こった声という妙技で女の子は迎えてくれた。

 時刻は十時五分過ぎ十時に校門に来るように言われてたんだから、この時間でもセーフな気もしたが、それよりも俺が呼び出された用件が気になる。

「どうして俺が呼び出されたか聞いていいか?」

 そう言うと女の子はきょとんとした顔で、

「私が名前を知っている事は疑問に思わないんですか?」

 と、顎に左の人差し指をつけて考えるような仕種をした。

 それは本来なら疑問なのだろうが、学校からの呼び出しでさっきの手紙には受験番号まで書いてあったんだから別に驚くほどのことじゃないだろう。

 その事を俺が伝えると、

「まぁそうかもしれませんね」

 とちょっとつまらなそうに言った。

「じゃぁ用件を聞かせてもらえるか?」

「むぅ。比野さんはせっかちですねーその前に自己紹介がまだです」

 一度区切って、女の子はいったん呼吸をする。

神埼かんざきいろは十六歳。明日から一年六組に転入する子です」

 口調がちょっとあれな気がするが、ん?今転入って言ったか?

「はい。詳しくは手紙に書いてあるそうです」

 そう言って、いろはといった子は手紙を出した。やれやれまた手紙か。


『比野 往人君。君がこの手紙を読んでいるという事は私の手紙はを全て五ミリ以下に破かれ、元々入っていた封筒の中に捨てられた後だろう。』


 手紙の主は寂しいくだりで的確に未来予知を成功させていた。


 『はっはっは寂しいくだりで私の凄さを発揮できたようで良かったよ』


「これは学長が?」

「はい」

「いつこの手紙をもらったんだ?」

「んーと昨日の昼頃ですかね」

 学長。あんた一体何者だよ。


『私の正体が気になるだろうが、それは今回関係ないので黙っておくとしよう』


 うわ、すげー気になるんですけど


『我慢。我慢。』


 うざい。ていうか手紙で会話するな!いや、読んでる俺ができてるんだからもしかしたら俺がおかしいのか?


 『さて、比野君が疑心暗鬼になりかけた所で話を進めよう。今回神埼かんざき彩楓いろはから一年六組に転入することは聞いてると思うんだが、明日4月5日は入学式。一年生なのに転入ってことで疑問に思ったことだと思う』


 突っ込みたい事はあるがまぁそうだな。


『何故入学ではなくて転入なのか、それはこの子が本来なら今年度から高校二年生だからだ』


 どういう事だ?


『神埼彩楓は今まで病気で体が悪く、ずっと病院で過ごしてきた。高校に入学はしていたものの、学校の授業等は全く出ていなかった。だから留年しているものと考えてもらっていい。ここまでは分かったね?』


 手紙で聞くな。


『それで、この子は今回体の調子もだいぶ良くなり、学校に登校できるようになるまで回復した。そして今年度から我が光院学園に入学及び転入する事になった。だがしかし、問題はここからだ。耳かっぽじって良く聞きなさい』


 手紙だっつの。


『学園で神埼彩楓に何か事があったらいけないので、ボディーガードのような人を付けなければならない。だがあからさまにそんなのを付けたら周りの生徒が快くと思わないだろう。そして今までずっと病院で過ごしてきたため、神崎彩楓は恋人はもちろんのこと友達一人いない。だから、』


 だから?


『君に、神埼彩楓の友達第一号兼ボディーガードになってもらいたい』


 ・・・・・


『ボディーガードと言っても、黒服のSPのような者ではない。残念だな。』


 残念じゃねーよ。


『神埼彩楓の体に学校で生活していく上で悪影響がないか、体調がすぐれていない時は保健室につれていく、見たいな保健委員みたいなことをしてくれればいい。それと周囲の人間には同い年という事で通すように。あとは本人と話し合って決めてくれればいい』


 おいおい。


『追伸。君は神埼彩楓と同じ一年六組で、席替えがすぐ行われる事になる。最初はあみだくじで決める事になっているので、君の隣の席は神埼彩楓になるよう仕組まねばならない。この事は一年六組担当のたちばな先生に、仕組むようにとだけ伝えてあるので、上手くやってくれるだろう。考えておくといい。これはほとんど決定事項みたいなもので、もしこれを断るならば、本来楽しいはずのスクールライフは望めないと思われる。比野 往人に栄光あれ!』


 手紙の最後はそう締めくくられていた。

 俺はしばらく手紙を見て呆然としていた。友達?ボディーガード?

「あの、大丈夫ですか?」

 もしかしたら大丈夫じゃないかもしれないが、俺はいつでもほどほどに冷静で正常のつもりだ。状況はまぁなんとなく分かった。この子は自分と同年代、下手すると下に見えるこの子は、全然そうは見えないけど本当は年上で、元気そうにみえるけどそうなったのは最近で、病院の外にあまり出た事が無くもしかしたら人付き合いも下手なのかもしれない。

 それでおそらくだが病気は完治してなくて、何かの弾みで急に悪くなったりとかするかもしれない。学園内で病気が悪化などしたらいろいろと困るんだろう。大人の嫌な事情だ。精神と身体は連動しているから、なにか困った時は、精神的に誰かが支えてやら無いと病気も悪化するんだろう。それで体調の事を気遣ってくれる人と友達が必要だった。うん分かった分かったとも。ついでに言うと入学して最初に味わうはずの、『どこのクラスになるのか』とか、『担任はどんな奴だろう』とかの友達とワクワクしながら見る機会は失ったわけだ。まぁ俺はそういう事で楽しめるような奴じゃないが、

「でもなんで俺なんだ?」

 当然の疑問。独り言のように言ったそれだったが、彩楓に聞こえたようだ。

「えっと・・・・それは・・・・・・・その・・・あの・・・・・・」

 彩楓は口ごもってしまった。そして数秒間俯むいた後、何か閃いたような感じで、

「くじです!」

 とだけ言った。くじ

「・・・・・それは学長が?」

 俺の怒りのような嘆きのような声で彩楓を見た事が怖がらせてしまったらしく、

 彩楓に目をそらされてしまった。

「えっと・・・・・その・・・・・・」

 無言で首を縦に振った。

 八つ当たりしたわけでは無かったんだが、どこかで俺の憤怒を思いっきりぶつける必要があるな。もちろん学長とか言う偉大だろうけど異常な奴に。

 たまたま今年入学した一般生徒の中からくじで適当に選んでそれなりに重要そうな仕事を押し付けるとは何事か!しっかりと人選しろ!

「あの・・・それで友達になってくれますか?」

 断れば楽しいスクールライフは失われるらしいので、

「・・・・・やらないと、いけないんだろうな」

 とだけ言った。すると彩楓は笑っていた。それなりにかわいいんじゃないかな。多分。

 そして、俺はとりあえず学長の事を脳内ブラックリストに刻んでおく事にした。

 さて、言いたい事はかなりあるが、ここでそれを言っていても始まらない。たった今引き受けてしまったんだから、これからの事を話し合う必要があるだろう。俺はする事が決まったら早いんだ。

 とりあえずできるだけ学校で一緒にいればいいんだろう。でも校内でずっと一緒にいるわけにも行かないだろうし。

「友達なんだからいいんじゃないですか?」

 いいらしい。

「あの、席どうしましょう」

「担任の橘が細工するとか言うやつか。」

「はい、あまり真ん中だとあの、人がいっぱいで・・・・・」

 危険なんてものはないだろうが、人付き合いに少し困るのかもしれない。窓際の方がなにかと都合がいいだろう。俺も窓際がいいし。

「じゃぁ窓際の席のがいいな。前の方か後ろの方。どっちがいい?」

「前がいいです」

 そうか。

「じゃぁ後ろで」

「前って言ったのになんで後ろなんですかー!」

 そう言って手を振り上げた。

 控えめな子かと思ったが案外元気なんだな。

「世の中自分の思い通りにならない事もあるんだ。うん」

 言い聞かせるように俺は言った。

 単に自分が前が嫌なだけ、それと学長へのささやかな抵抗だ。

「比野さん意地悪です」

 ちょっと拗ねたらしい。

「じゃぁ何か他に決めておくことはないか?」

「んー決めとくことはないですけど、私この町来たばっかりなんでよくわからいんですよ。これから案内してくれません?」

「・・・それは今度だな」

「なんでですか?」

 明日は入学式。いろいろと準備する事もある。それに今日は日曜。

「駅前のスーパーの特売日なんだ」

「はい?」

 まぁ病院ぐらしでは分からない事もある。

「いや、用事があるから、じゃぁ明日。入学式で」

「あ・・・はい。これからよろしくお願いします!」

 最後に彩楓は笑顔で手を差し伸べてきたので、軽く握手をして別れた。

 こうして俺は彩楓の友達第一号兼ボディーガードになったのだった。

 学長。あんたはいつか殴ってやるぜ。


読んでいたたいてありがとうございます。

気になった点や誤字脱字などがもしあればよければ教えてくださるとありがたいです。

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