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潜在意識の中から [Subconsciousness]

『必ず当たる”占い自販機”』

作者: 中之 吹録

 近頃噂になっている店があるらしい。おみくじと言うか、簡単に言えば”占いの自動販売機”だ。機械から”お告げ”が書かれたカードが出てくるのだが、その的中率がどうやら100%だと言う話だった。


 「まさかw・・・そんなのありっこないじゃん(笑)」。私は会社の休憩室で仲間数人と話を聞いていた。

 「いやいや係長、それがねぇ・・・」。と話し出したA美。「経理課にK子ちゃんって娘いたでしょ?私と仲いいんだけど、ほらこの間出合ったばかりの人とあっという間に入籍しちゃって・・・あれ、占い自販機の”お告げ”だったんですって!」

 「へー。そうなんだ?それってたまたまじゃないの?」と、私。それは非科学的だ。百歩譲っても確率論の中の話だろう。

 「違うの!違うの!。それが、後で聞いた話なんだけど~・・・」。もったいぶるな。

 「で、その話って?」。早く話せ!

 「おみくじに”今日最後に会話した人とすぐに結婚する”って書いてあったんですって!で、彼が、その日の最後の会話をした人で、その出会いってのがねぇ・・・」。A美は話は上手いが、引っ張りも長い。1回毎に相槌を打たないと先に進まん。

 「・・・ってのが?」。一気に話せ!!引っ張り過ぎww

 「会社帰りで駅を降りた時に、たまたま道を尋ねて来た人なんですって!何か、もう、運命的~♪って感じで!」。ちょっと面白そうだ。少し気になってきた。周りの仲間も集中して聞き始めた。

 「自動販売機って、普通に道端とかにあって500円くらい入れて”恋愛”とか”金運”とか、何かそんな項目みたいなのがあって、占って欲しい所を押せば何か出てくる訳?」。

 「係長って知らな過ぎ~(笑)って言っても私もそこまでは聞いてないんですけど~、お店の中に変な形の機械があって、ボタンが付いてるんですって。で、そこの前に行く前に儀式か何かあるみたいなの。そこはよく解んないんですけど。」。何かからくりでもありそうな感じだ。

 「で、値段は?」。ここは肝心だ。有名占い師ばりに6万も8万も取られるんじゃ行けないし、自販機でウン万ってのもちょっと・・・。

 「3,500円ですって!私も1回行ってみようかな~。でも行列が長くって時間がねぇ~。」。うん。3,500円なら、飲み代1回分と思えば、ちょっと面白そうだ。少し行ってみたくなった。

 「他に何か知ってる事は?」。情報は大切だ。A美の口ぶりからすれば、まだ何か知ってる様子だ。

 「”他言無用”っていう封筒に、テレホンカードみたいなものが入っていて、それに”お告げ”が書かれているんですって。」。

 「他には?」。行く気満々になってきた。

 「う~んと・・・他には・・・」。流石の情報通A美嬢の情報量にも限りがあるようだ。


 突然、いつもは寡黙な部下のT夫が話しに割り込んできた。

 「そうそう、占いが当たる前に、他人に話すと”お告げ”の効力が無くなるそうですよ。それと・・・占いは選べなくて、出てきたカードが全てで、はっきり出来事の日時や場所が書いてある場合もあるし、意味不明の数字だけだったり・・・それは、多分ギャンブルに関係する数字とかでしょうけどw あと、良い事ばかりじゃなくて、事故を起こす時間や死ぬ時間・・・いつ病気になるとか、そういうのもあるらしいです。」。まあ、占いとは良い結果も悪い結果もあるだろう。しかし、T夫、結構知ってるな。こういうのには興味がないと思っていたんだが。A美もそこまでは知らなかったようだ。目を丸くして聞いていた。

 「じゃ、悪い結果の時は他人に話せば回避出来るのかい?」。変な結果が出たら、少し怖いな・・・。

 「ええ、多分。でも、知らない人に話してもダメなようです。身内、特に奥さんとか恋人・愛人など肉体関係のあった人、あとは子供、両親とかの近親の血縁関係でないと占いの効果は続くって聞いたことがありますね。」。そうか。一応回避策はあるようだ。

 「じゃ、孤独な人が占いに行って悪い結果だったら、最悪だね。」。孤独な人にとってはギャンブルより酷いな。最悪の結果だったら・・・。

 「そうでしょうね。受け入れるしかないでしょう。」。淡々と語るT夫。

 「あと・・・」。少しT夫が言うか言わないか一瞬迷った様子だった。

 「あと?」。何か”肝心要”っぽいな。

 「どういうシステムなのかは分からないんですが、生涯一回しか占いの答えが出てこないらしいんです。2回目以降は何度行っても白紙のカードが出てくるそうですよ。」。そうか、大体把握した。今日、寄ってみるか。

 「住所は?」。

 「少し街の奥になりますね。会社の裏の道路から2丁下がって、駅の反対の方に行くと小さいアーケードのかかった商店街があるじゃないですか。」

 「うん。ある、ある。」。商店街の名前は忘れたが、確かにある。

 「そこの更に最後の方ですね。駅から見て遠いと言う事ですが、人が並んでいるのですぐ分かると思います。」。

 「そっか。ありがとう。ちょっと面白そうなんで、今日、寄ってみるわ。結果は当たってからのお楽しみだねw 話すと効果が無くなっちゃうから。」

 皆に”行ってきます”宣言をした。今日はうまい具合に定時退勤日だ。速攻で会社を出て行ってみるか!!


 退社時間になって、走る様に会社を出た。小走りで20分ほどかかった。少し息が上がった。心臓がエンジンのように高回転している。少し心臓がチクチクする。「男、30も過ぎると体力落ちるな~^^;」。独り言を言いながら、書店外を進んだ。思えば数年前に通りかかったきりだ。あれから更に錆び付いた感じがする。ここもそのうち郊外型チェーン店に負けて、再開発されるのかな?昔は商店街といえば「街の華」だったのだが。週末歩行者天国なんて良い企画だったのになぁ。しかし来たる時代の波には逆らえないということか。

 そんな事を思いながら歩いていると、行列が見えてきた。ここに間違いだろう。

 「これ、占いの行列ですか?」。行列の最後尾に着いた私は、前に並んでいる人に聞いた。

 「ええ、そうですが。あなたも占いを?」。初老の女性だった。

 「ええ、ちょっと占ってもらおうと。」。場所が間違いないならそれでよし。途中で買ってきた週刊誌を見ながら順番を来るのを待っていた。


 行列の割には時間が掛かった。1時間ほどでやっと行列の半分まで進んだ。「あと1時間くらいかな?」。また雑誌を読み始め、順番を待った。

 更に1時間ほどして、やっと店の前まで到達した。「あと少し!」と思っていたら、店員さんらしき人が一人一人になにやら説明のような事をして回っていた。やがて店員は私の所までやってきた。

 店員が私に向かって話始める。「ようこそいらっしゃいました。ご存知かとは思いますが、この占いは生涯1回限りでございます。お越しになった日によって占いの答えが変わってまいります。今日で宜しいですか?」。神妙な面持ちで淡々と語る店員。

 「ああ・・・問題ないね。」。本当に困った時に来た方が良かったか?一瞬躊躇したが、いつ来ても答えは似たようなもので、一種の”確率論”だと思っている。100年後には生きていないだろうし、明日来たからといって、そう大きな変化はないと見た。

 「では、料金は3,500円になります。ご用意下さい。受付けにて料金と引き換えにお札と法衣を渡されますので、お着替え下さい。その後にお呼びされた順番で占いを差し上げる部屋にご案内いたします。それでは。」。着替えるのか・・・ま、スーツの脱ぐ着るは少々面倒臭いが、まあ、決まり事なので仕方が無いだろう。

 その間、店から出て行く人を何人も見かけた。占いが終わった人達だろう。満面の笑みを浮かべながら出て行く人、悔しさを滲ませながら去っていく人、全速ダッシュで逃げるように出て行く人、人生の終わりのような顔をした人、無表情・・・様々な人々が店を後にしていった。私はどの部類に入るのだろうか?


 間もなく受付けまで進んだ。カウンターは銭湯のカウンターのように高い位置にあり、上から見下ろすように受付けの男がこちらを見ていた。用意した3,500円を渡すと、彼は蒲鉾の板のようなものに番号と他に何か書かれた札を私に手渡した。「5月20日 1203番」と書いてあった。今日の日付と通しナンバーのようだ。中央に書かれたお経のような文字は読めなかった。

 「では、あちらの場所でお着替え下さい。必ず下着まで全てお脱ぎ頂いてからお着替え下さい。」。試着室のような場所に案内され、着替えを始めた。「T夫が行っていた”儀式”ってやつだな。でもまさかパンツまで脱がされるとは・・・失礼な。」。ブツブツ言いながら、しかしここまで来たのだから、もう少しの辛抱だ。占いが終わった人は別の出口から出て行くようだ。入った人が出て来る事は、無かった。

 着替えを終え、待合室で暫しの待機。間もなく「5月の20日、1203番様!」と呼ばれた。ついに私の順番だ。店員が私の着替えを入れた籠を持ち、「部屋に入りましたら、まずお清めの水でお手をお洗い下さい。その後その札を機械に入れ、心を落ち着かせ、何も考えず無心になりましたらボタンをお押し下さい。間もなく1枚の封筒が出てまいります。封筒を受け取りましたらあちらのドアからお出になって頂きます。お着替えが終わりました後で封を切り、中をご覧下さい。その中に書かれている事が必ず起こります。ではどうぞ。」

 いよいよ核心の部屋に到着した。部屋は8畳ほどの大きさだったが、中の壁は漆塗りのような真っ黒な壁と、柱は金で飾られていた。中央の機械も金と朱で彩られた少し高さのある円盤型の形で、その奥に光り輝く仏像のような彫り物が一体だけ飾られていた。

 いよいよ占いの始まりだ。


 まず、言われたとおりに入り口近くの手洗い場で手を洗い、機械の前に進んだ。そしてお札を機械に入れ、目を閉じた。だが、無心になろうとしているのだが坊さんのように修行を積んでいる訳も無し。無心になるには10分ほど掛かったかもしれない。

 そうこうしている時、一瞬”無”が体の中を走り抜けた。「今だな。」と、私はボタンを押した。

 2分ほどで機械から1枚の封筒が出てきた。「他言無用」と書いてある。T夫の言った通りだ。そのまま出口を出、着替えを済ませて封筒を開けてみた。中には1枚の名刺大のカードが入っていた。そこには、こう書かれていた。



本日午後八時二十六分、心の発作にて天寿を全うす




 「え???」。一瞬全身が凍りついた。「心の発作って・・・心筋梗塞じゃん!」小走りした時に心臓がチクチク痛んだのはこの前兆だったのか?で、今何時だ????慌てて腕時計を見る・・・ヤバい!!!8時20分じゃないか!!!”確率論”と小馬鹿にはしていたが、いざ目の前に突きつけられるとそうとも言っていられなくなって来た。

 「え~と・・・T夫が何か・・・そうだ!肉親に連絡を!」。時間が無い。走って店を出た。どうやら私は「満面の笑み」の方ではなかったようだ。占いを求めて並んでいた客の誰かも私が並んでいたときの様に、出てくる客を観察しているのだろうか。


 いや、もうそんな事はどうでもいい。まずは電話だ。携帯を取り出し、自宅にかける・・・話中だ。妻の得意技は「長電話」だった。キャッチホンにはしてあるが、多分取らないだろう。20コールほど待ったが反応は無い。

「こんな時に!!!」。妻の携帯にかけてみよう、気が付くかもしれない。「・・・」電話は鳴っているようだが、無視しているか遠くに置いてあるか、マナーモードか・・・あ、よくバッグに入れっぱなしにしてるんだ。これもダメか。

 息子は・・・ああ、携帯は持たせているが小学校の低学年。帰宅後は電源切ってママにお預けだ。他はないか???

 両親だ!これしかない。電話番号は・・・これだ・・・「只今留守にしております。ご用件の・・・」。温泉旅行だった!!!先週小遣いを少し送ったのを思い出した。

 仕方が無い。最後はA美だ。飲み会の勢いで1回だけ関係を持ったことがある。恥じてる場合じゃない。「・・・」電話中だ・・・終わった。


 「チクッ!」と針を刺したような痛みが心臓に走った。もう始まったか・・・痛みがだんだん大きく、そして息も苦しくなってきた。

 大丈夫ですか?声をかけてくれたのは、部下のT夫だった。「お前、何でここにいるんだ?」。何故だ?

 「コンビニの帰りなんです。家近がすぐそこで。ちょうど占いに行くと聞いたので、もしかしたら会えるかなと思いまして。いや、そんなことよりまずは救急車を呼びましょう。携帯貸して頂けますか?」。

 「ああ、頼む。」もう、苦しくて意識が遠のきそうだ。T夫は119に電話をかけようとしていた。「もしもし?急患なんですが。もしもし・・・あ、電池が切れてしまいました。誰か~!!!救急車を!早く!死にそうなんです!!!」。

 持つべきものはよい部下・・・か。時計を見た。8時25分と30秒。もう救急車が来てもに合わんだろう。このカードのお告げ通りになるのは間違いない。

 ・・・だんだん・・・い・・・意識が・・・遠く・・・


 時間は8時26分を少し回っていた。死亡した私を見ながらT夫が、「先週占いに来て、”5月21日に急遽昇進する”って書いてあったのは、この事だったんだ。何となくこんな予感がして見に来たけど間に合わなかった・・・あの時休憩室で話をしていれば・・・」


 彼は私を抱きかかえ、泣きながら、いつまでも救急車が来るのを待っていた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 読みやすい [一言] T夫が地味にゲスだなぁ。 主人公がほぼ即死しなければならない因果がないせいで、読後感はあまりよくありませんね。 いっそ主人公と部下だけにして、文章量も三分の一くらいで…
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