紙ひこうき
約1年と少しの掲載です。とても久しぶりなんで、おそらく誰も読んではいないと思いますが、これからがんばるんでよろしくお願いします。
「ふう」
額の汗をふいて、俺は顔を上げた。空は雲一つない晴れだ。
「本日は晴天なりってか」
今日はテストが返ってくるだけだったから早くに来ることが出来た。
俺は暇なときはいつも学校の屋上で景色を見ている。
その場に座ってかたわらに置いた鞄に手を伸ばして中から紙束を取り出した。
「今回のテストは赤点ぎりぎりか」
いつもどおりの点数、冷たい屋上の上、大きな給水塔、それが俺の居場所だ。
「いて」
突然後頭部に何かあたった。
後ろに手をまわしてそれを手に取った。
「紙ひこうき?」
その三角形のフォルムで飛行機の形をしていて、材質は紙。
まちがいない、これは紙ひこうきだ。
「ん?なんか書いてあんな……。て、これ今日返されたテストじゃないかよ」
広げてみると今日返されたはずのテストが現れた。
しかも
「げ、これ百点じゃん」
テストを紙ひこうきにして飛ばすとは捨てたも同然である。
「ったく、誰だよこんなことしたヤツはよ。テスト用紙を捨てたいのはこっちのほうだってのに」
これでは俺の立つ瀬がない。
紙ひこうきを手に振り向く。視線の先はこの屋上への入り口があるが、そこには人はいない。
視線をその上、給水塔へ向ける。
と、そこには女子がいた。俺の記憶にはない顔だった。人の顔を覚えるのが得意ではないが、同じクラスではないだろう。何故そう言いきれるかというと、その子が可愛かったからだ。
控えめに言っても、可愛かった。どこがといわれてもわからないが、とにかく可愛かったのだ。そんな子がクラスにいれば流石に俺も覚える。
まぁ、そんなことはどうでもいい。問題はそんな子が何で、紙ひこうきを俺にあててきたのか、ということだ。取り敢えずその子のところへ向かった。
「おい、これお前のだよな」
声を掛けるとソイツは不思議そうな顔をして、うなずいた。
「うん、私のだけどなんでわざわざ持ってくるのるの?それは今さっき紙ひこうきにして、飛ばしたはずなんだけど?」
「その紙ひこうきが俺の後頭部に当たったんだが?」
取り敢えず抗議してみる。
「それは知っているよ、でもたいしたことじゃないでしょ?」
「言い訳しても無駄だぞ、って」
知っている?何を?
「だから、キミの後頭部に、私の作った紙ひこうきがあたったことは知っているよ?ここから良く見えたもん」
よっぽど間抜けな顔をしていたのか、少し笑いながら告げてきた。
「だったら、なんか言うことねぇのかよ」
「ないよ」
即答だった。
もう怒る気力もなくなった。
「そうかい、じゃあな」
そのまま屋上を後にしようとしたら
「ちょっと待ってよ」
急に呼び止められた。
「なんだよ」
こんなところにもう用はない。早々に撤収するのが吉だ。
それなのになんだってこの女は
「人の後頭部に紙ひこうきを当てる以外にまだ用があんのかよ」
「せっかく会ったんだからさここまで上がってこない?」
「断る」
この期に及んでまたなんかされちゃ俺も自制が効くかわからない。
「そんなこと言わないでさ、これもなんかの縁と思って私の話し相手になってよ」
いやにくいさがってくる。
「じゃないと、クラスメイトに言っちゃうよ?私のテスト用紙を紙ひこうきにして捨てたって」
「そんなことが通ると思っているのか?」
一応反撃を試みる。
「私の言い分とキミの言い分、どっちが信用されるかは明白だよ?」
そういってにんまりと笑った。
このアマ。どうやらこっちの負けらしい。
「わかったよ、だけど少しだけだからな?」
返事を聞くとそいつはさっきの意地の悪い笑みではなく、本当に比喩でもなんでもなく花咲くように笑いやがった。
「うん!じゃあ、ここまで来てよ」
そういって自分の座っているすぐ横を手のひらで叩いた。
確かに上を見ながら会話するのにそろそろ限界がきていた。
その言葉に従い、入り口のすぐ横にあるはしごを使って彼女の横に移動した。
「お・・・・・・」
そこから見える風景は俺が今まで見てきたものとは違っていた。
360度のパノラマで、見上げれば空は手を伸ばせば届きそうなほど近くにあるかのように錯覚する。
「すごいでしょ?」
いつの間にか彼女は俺の横に立っていた。
「ああ、これはすげぇな」
本当に言葉が見つからないくらいきれいだった。
「私はね、百点しか取れないんだ」
唐突のしゃべりだした、でも俺はそれをさえぎることはしなかった。できなかった。
「両親からたくさん勉強をさせられた。百点しか取ることを許されなかった。苦しかった、つらかった、友達と遊びたかった、もっと自由になりたかった・・・・・・」
そんな悲しそうな顔がきれいだったから、この景色よりもずっとずっときれいで、つい見とれていた。
「私がなんで紙ひこうきを飛ばしたかわかる?」
俺は黙って彼女を見た。
それを否定と認識したのか、その細い指を一本たてて、まっすぐ下をさした。
その先には転落防止用のフェンスがあった。
「私はただ自由になりたかったの、ただもっと遊びたかったの。でも、それはかなわないから」
だから、彼女自身は自由になれないから紙ひこうきを飛ばして、自由になろうとしたんだろう。
でも・・・・・・
「出れなかったんだ」
結局、その紙ひこうきすらも解放されることはなかったが。
「私の話はおしまい。急にこんな話してごめんね」
彼女は急に大きな声を出してこっちを振り向いて、不自然な笑顔で俺のことを見ると、そこから飛び降りた。
「おい!」
驚いて、下を見る。
「いたた、失敗しちゃった」
彼女が尻餅をついた状態でこっちを見上げていた。
「大丈夫か」
取り敢えず、心配はしておく。
怪我をするような高さではないにしても、結構な高さだ。痛くないわけはないはずだ。
「大丈夫だよ。私、帰るね。キミと話が出来てよかった。じゃあね」
彼女は立ち上がると、お尻を軽くはらって歩き出した。
「待てよ」
気が付いたら彼女を呼び止めていた。
そんなつもりはなかったのに……。
でも、ここで彼女を行かせると、もう会えない気がして、それが嫌で……
「次、何時会える?」
我を忘れて聞いた。
彼女を手放さないようにするために
「大丈夫、そんなに心配しなくても。すぐに会えるよ」
彼女は淡く微笑むと、今度こそ俺の視界から消えた。
「あ、そうそう忘れた」
と、突然彼女が顔を出した
「私の名前は―――――――――だよ」
そう言うと彼女はいたずらの成功した子供のように笑うと今度こそ屋上から姿を消した。
俺は、返しはぐった紙ひこうきをしばらくもて遊んだあと、そっと手を離し飛ばした。 俺はその場に寝転がり空を仰いだ。
「参ったな……」
彼女は俺のクラスメイトだった。
紙ひこうきは風に乗り、フェンスを越えて空へと吸い込まれていった。
どうでしたか?先に投稿していたものよりかは、いくらかましな文だと思います。ぜひ、次回作も読んでください。