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ただひたすら走って逃げ回るお話  作者: 残念無念
第一部 喪失のお話
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第十四話 自己犠牲のお話

一カ月以上更新が滞ってしまいました。すまんな、本当にすまん。

そのせいで所々文章が変なところが見られると思いますが、許してくださいなんでもしますから。

 その後しばらく話すと、外国人であるナオミさんがここにいる事情が大分掴めてきた。ナオミ・ウォーカー、21歳。アメリカ生まれのアメリカ人。どうやら日本留学三年目にこの騒ぎに巻き込まれ、以来一人でサバイバル生活を送っていたのだという。


「よくこんな状況で三か月も一人でいられましたね。僕なんかユイたちと会ってなかったらどうなっていたことか。それに傷の手当ての仕方とかだってわからないですし」

「私の故郷は保守的でね、市民軍が組織されていて子供たちは皆銃の使い方とか戦い方を教えられたもんだよ。その中にはもちろん野外での応急手当とか、退役軍人が教えてくれたこともある」

「市民軍?」

「君たちの言うところの民兵みたいなものかな。政府が私たちの権利を弾圧したり、あるいは国や故郷が攻撃を受けた時に銃を手に戦う人たちの集まり」


 平和だった日本に暮らす僕は、民兵と聞くとテレビでよく見る中東やアフリカで武装したトラックを乗り回す人たちというイメージしか湧かない。まあとにかく、ナオミさんは兵士のような訓練を受けたということか。それなら僕の怪我の手当てが上手かったことも、感染者の群れを一人で排除できたことも納得が出来る。


「で、どうして僕たちを助けてくれたんです? 腕に自信はあっても、物資とか見つかる危険性とか問題が色々あると思うんですけど。正直、僕だったら見捨ててます」

「食糧とかに関しては心配しなくていいよ、あちこちから失敬してきたからまだまだたくさんあるし。それでも君の言う見つかる危険とかの問題はあったけど、まあ君は信用できそうな人間だと思ったからね。仲間は一人でも多いに越したことはない」

「信用できる人間?」


 はて、そんな行動を取ったっけ?


「君、川の前でマナちゃん……だっけ? あの子を背負って走ってたでしょ? 彼女をその場に置いて感染者の注意をそっちに惹きつければ、君だけでも逃げられたはず。なのにそうしなかった。わざわざ荷物を捨ててまで彼女たちを助けようとした君は、一緒に行動していても十分信頼出来るし頼りになると思ったんだよ」


 ああ、そのことか。僕は確かにに愛菜ちゃんを背負って感染者から逃げていたが、別に深く考えて行動していたわけではない。気が付いたらそうしていただけだ、決して女の子の身体に合法的に触りたいとかそんな理由からじゃない……と思う。

 だいたい、僕が一番年上なんだから、皆を守るのは当然じゃないのか? 


「そうそう、そういう君の精神が気に入ったんだよ。世界がこんな状況じゃ、皆自分の事を考えて行動する。わたしはそれを非難するつもりはないし、もし他人と一緒にいる時に感染者に襲われたら、最終的に彼らを見捨てるかもしれない」

「僕も前はそうしてましたよ」

「昔の事はどうでもいいんだよ、大事なのは今。わたしは君が仲間を見捨てない人間だと直感した、だから助けた」


 そういうとナオミさんは、窓から街を眺める。全ての人工的な光が消えた夜の街はとても不気味で静まり返っている。


「この時代、善い行いを貫くのは難しい。仕方のない事とはいえ誰もが食糧を得るために他人の家に押し入り、生きるために元は同じ人間の感染者を殺す。中には警察も軍隊も機能しなくなったのをいい事に、欲望のまま行動する連中だっている。そんな時に君は他者のことを考えて行動している、それは十分信頼に値するし、私だってそういった人を死なせるのは惜しい」


 だとすると、もし僕が彼女たちを見捨てて一人逃げていたら、ナオミさんは助けてくれなかったということか。ま、そんな酷いことをするつもりはこれっぽっちもない。今の僕にとって結衣と愛菜ちゃんは大切な仲間だし、そんな二人を見捨てて逃げるくらいなら感染者と戦う。豆腐並みのメンタルしかない僕だけど、せめてそれくらいの矜持は抱いて生きていたい。


「君たちがここにいたいのなら、物資が保つ限りいてもいいよ。もし君たちがここを離れるというのなら、わたしもついて行っていいかな?」

「いいですけど、どうしてです? はっきり言って僕たち、あなたの足手まといにしかならないんじゃないですか?」


 感染者十数体を屠る戦闘能力に、こんな場所で一人で今まで生き延びることが出来るほどのサバイバル能力。ぶっちゃけ彼女一人で生きていても何の問題もないだろう。というより、僕らがいたら逆に迷惑になるんじゃないだろうか? こっちは怪我が治ったらさっさとどっか行けと言われても仕方のない立場なのに。

 だけどまあ、いてもいいって言ってくれるのはありがたい話だ。この街は感染者だらけで、下手をすれば外に出た瞬間見つかってしまうだろう。これだけの感染者がどこから湧いて出たのかはわからないけど、今はここで様子を伺うしかない。


 それに僕たちは感染者から逃げるため、橋の前の横転したトラックのところに荷物を捨ててきてしまった。リュックの中には水も食料も入っている、あれが無ければ一日で僕らは干上がってしまう。取りに行くにしても感染者の動きがわからない以上、しばらくナオミさんの世話になるしかない。

 僕は怪我をしてまともに戦えないし、女子である結衣や愛菜ちゃんの戦闘能力はたかが知れている。彼女たちの安全を考える上でも、感染者たちを倒したナオミさんは頼りになる存在だった。


「君が目を覚ましたってこと、二人に伝えてきた方がいいかな?」


 結衣と愛菜ちゃんは無事で隣の部屋で寝ていると聞いたが、僕はナオミさんの提案に首を横に振った。ここしばらくまともに寝てなかったし、今日の一件で二人はさらに疲労を重ねただろう。今はゆっくり休ませてあげたい。


 とそこで、突然僕の腹が鳴った。そういえば昼食も夕食も取っていない。しかも食糧を節約するために、毎日の食事量をかなり切り詰めていたせいでかなり腹が減っている。体力を回復させるためにも、ここは何か食べておいた方がいいかもしれない。

 そう言うとナオミさんは待ってましたとばかりに、缶詰をいくつかと何かのパッケージを取り出した。


「……何です、これ?」

「何って、鉄分のサプリメントだけど。今の君には血が足りないと思ってね」


 本当にサプリを飲んで血が出来るのだろうか? アメリカ人は健康の為に山盛りのサプリメントの錠剤を飲むと聞いたことがあるけど……。

 だけど今はとにかく体力をつけることが最優先だ。缶詰は肉類中心で中にはレバーもあるし、食べてしばらく休んでいれば元通りになる。貴重な缶詰をありがたくいただくことにした僕は、割り箸に手を伸ばそうとした時あることに気づいた。


「あ、腕……」


 そういえば利き腕を怪我しているんだった。試しにちょっと右手を動かすと、それだけで脳天まで突き抜けそうな痛みが走る。左手じゃ箸を使えないし、どうやって食べようか。


「じゃ、わたしが食べさせてあげようか?」

「いえ、いいです。フォークください」


 反射的に言ってしまってから後悔した。今まで女子に何かを食べさせてもらった経験なんてない。もう少しでリア充どもがよくやる「はい、あーん」を体験することが出来たのに。

 一瞬前の自分を殴りたくなった。

御意見、ご感想お待ちしてます。

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