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ただひたすら走って逃げ回るお話  作者: 残念無念
第三部:逆襲のお話
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第一一七話 True Fighterなお話

「それで、今までずっと一人で暮らしてきたんですか?」


 少年の問いに、佐藤は首を横に振った。


「いや、最初は他の連中と一緒だった。避難民の集団に合流して、自衛隊員ってことで必然的にリーダー格にされた。去年の終わりごろまでは何とか上手くやってたんだが、あいつらが来た」

「あいつら?」

「昨日お前を襲ったという連中だ」


 そこで少年は、自分を襲ってきた連中について詳しく話を聞いていないことを思い出した。佐藤の口調から判断するに、彼はあの集団について詳しい情報を持っているらしい。


「そういや、あいつらは何なんです? こっちは何もしてないのに、いきなり殺しにかかってきましたよ? ただのチンピラかとも思ったんですけど、それにしてはある程度統率されているような気がしました」

「そうだ、奴らは統率されて行動している。単に銃を手に入れて粋がっているだけのバカなチンピラじゃない。生き残るって目的のために行動している奴らだ」

「生き残るために、通りすがりの僕を殺す必要はないと思うんですけど」


 自分の身を守るために大量殺人をやった奴が何を言っているんだ、と少年は心の中で自嘲した。


「あいつらは、自分たちを『同胞団』と称しているらしい。他の多くの人間が感染者に襲われて死んだり自らも感染者となる中、生き残った自分たちは未来を創っていくために助け合って生きていかなければならない同胞なんだそうだ」

「立派な思想じゃないですか。そんな人たちがなんで助け合うんじゃなくていきなり僕を襲ったんですか?」

「奴らにとっての『同胞』は自分たちの集団にとって役に立ち、脅威にならない存在だけを意味している。役に立たない人間、敵になりそうな人間は自分たちの同胞じゃない、排除すべき存在として考えているんだ。大方、お前も脅威になりそうだと判断したんだろう。だから先に排除しようとして、返り討ちに遭った」


 ならばなぜその同胞団とやらは、少年の居場所を察知することが出来たのか。その疑問を口にすると、佐藤は「そりゃ、連中はこの街を拠点にしてるからな」と答えた。


「お前がこの街に来た時、主要な道路は大半が封鎖されていただろう? あれは警察や自衛隊が避難民の移動を制限するためにやったものがほとんどだが、同胞団の連中が街への進入経路を制限するために後から封鎖したものもある。そして残った通行可能な道路には、有線の監視カメラや歩哨を配置して街へ入る人間を見張っているんだ」


 少年が引っかかった罠も、彼らが仕掛けたらしい。街のあちこちに罠を仕掛け、迂闊に街に踏み入った人間を捕らえるためのものだそうだ。罠の中には、作動したら獲物が即死するように作られているものもあるらしい。それに引っかからなくてよかったと少年は心の底から思った。

 

「つまり、街に入った時点で監視されてたってわけですか」

「そういうことだ。ついでに言うと、奴らは単独行動する生存者は絶対に仲間にしない。仲間にならないかと誘う対象は必ず集団行動している連中だ。そいつらに近づいて行って自分たちの仲間にならないかと誘い、集団内での対立を煽って同胞団の方が今までの仲間たちよりも頼りになると感じさせるんだ。そしてこれまで一緒に行動してきた仲間が役に立たない存在、自分に敵対的な存在であると思い込ませて、同胞団に加わった方が生き延びる確率が高いと考えさせる。一人で行動している奴には、対立させる仲間はいないからな」


 同胞団には年寄りがいない、と佐藤は言った。子供も病人も。なぜならそれらの人々は「役に立たない」「ごく潰し」であるから。

 同胞団にとって必要な人間とは、生き延びるためのスキルを持ち、感染者や他の生存者の集団と戦える者だ。そんな人間でなければこの世界でこの先も生き残ることはできない。昔の平和だった時代とは違い、今は戦わなければ生き残れない。

 だが年寄りや子供、そして病人はそうすることが出来ない人々だ。彼らは感染者や他者に害意を持つ暴徒がうろつく街から物資を集めてくることもできないし、それらに襲われたときに戦って他の人間を守ることもできない。誰かに守ってもらわなければ生き延びることすら難しいし、物資だって他の人が調達してきたものを消費するだけでしかない。日常生活を送るだけでも誰かの手を必要としなければならない。


「同胞団の連中は効率を追い求めている。自分たちが一分一秒でも長く生き延びるためにはどうすれば一番効率がいいか、それを考えて実行している。そして連中は老人や子供、病人を効率の悪い存在、ただ物資と人手を浪費させるだけのお荷物だと切り捨てた」

「効率、ですか……」


 普通に聞けばひどい話だと思うだろう。しかし少年はその同胞団とやらの行いを非難することはできなかった。自分も以前、似たような考えを抱いていたからだ。

 女の子と一緒に行動していた時、彼女が戦えない存在であることに何度も苛立った。自分は命がけで物資を集めているのに、彼女は安全な場所でそれらを消費するだけ。感染者に襲われた時も戦うのは自分だけで、女の子は守ってもらえる。何よりも常にその女の子に気を配らなければならないため、精神的にも肉体的にも追い詰められていく一方だった。


 そんな中で何度もその女の子が邪魔だと感じた。無論口には出さなかったし、行動にも移さなかった。しかし今の世の中、集団で行動している人々がいたら、一度か二度は同じことを考えるだろう。自分にできることが相手にできないというだけで、苛立つ人はどこにだっている。おまけにそれが原因で自分の命を落とすことだってありうるのだから、働けない人間に関しては誰だって厳しい目を持つ。


 生き残りたいのであれば、そういった働けない人間を排除して働ける人間だけでグループを作るのが一番だ。グループの構成員が全員戦える人間であれば、自分の身は自分で守れるから誰かの手を煩わせることもない。自分たちだけが働かされて、安全な場所で誰かに守られながら自分たちだけ楽に暮らしている連中がいると不満をため込むこともないだろう。何よりも戦えない人間、皆の動きについていけない人間がいるというのは、感染者や暴徒に襲われた時に致命的だ。


 全員が戦える、あるいは医療や工作など何かのスキルを持ったメンバーで構成されたグループであれば、年齢も健康状態もバラバラな人間で構成された集団よりも長生きできるのは間違いない。だがそのために戦えない、あるいは特別な技能を持っていない人間を切り捨てる、あるいは排除することは正しいのだろうか? グループが全滅するリスクを抱えてでも今いる人全てを大事にするか、それとも大勢が死ぬよりかは選ばれた少数の人間が確実に生き残れる選択をするか。どちらが正しいのか、少年にはわからなかった。


 感染者が現れる前の世界であれば、少年は確実に「同胞団」とやらの方針は間違っていると非難しただろう。自分たちが生き延びるために弱い人間を見捨てるなんてとんでもないと。しかしこの一年近く地獄を味わってきた今では、その選択も仕方がない、正しいと思ってしまう自分もいた。


 何より、少年自身がその選択を行っていたのだ。生き残るために他者を見捨て、この先脅威になりそうだからと直接襲ってきたわけではない人々を何人も殺した。少年のやってきたことだって、その同胞団とやらの行為と変わらない。

 だから、彼らの行為に関して正しいとか間違っているとか、そういうことを言える立場にないと少年は理解していた。ただ一つ言えるのは、同胞団は少年を敵対的だと判断して襲ってきた。だから少年にとっては敵だということだ。


「俺のいたグループも同胞団のせいでめちゃくちゃになった。最初連中は友好的な態度でこちらに接してきた。今思えばあの時点で胡散臭いと判断して追い返しておけばよかったんだが、今さらそれを言ってもどうしようもない」

「煽られて仲間内で対立が起きたと?」

「そうだ、もっとも半分くらいは自業自得だったんだが……。俺たちのいたグループは半分近くの人間が年寄りで、若い男は全体の5分の1もいなかった」


 佐藤が成り行きでリーダーを務めることになったグループは、老人たちの発言権が強かったのだという。曰く非常事態であるにも関わらず、平然と「若者なんだから働け」「年上の人間を敬え」と言い放ち、偉そうなことをのたまうばかりで自分たちは決して動こうとしなかった。他にも女性や子供が多くいる中、若くて体力のある男たちは必然的に多く働かなければならなくなった。


 もしかしたらそのグループには正常性バイアスが働いていたのかもしれない、と佐藤は言った。佐藤が遭遇した人々は感染者を目撃したことがほとんどなく、感染者に襲われて逃げてきたのではなくただ政府の避難命令に従って指定された場所にやってきただけだった。グループを作り共同生活を送るようになったのも、単に自衛隊による避難民の救助活動が打ち切られたからだ。

 まとまってどこかにいれば、地震や台風の時のようにそのうち自衛隊や消防、警察が助けに来てくれるだろう。人々はそんな呑気なことを考えながら漠然と救助を待ち、普段通りの暮らしを続けようとした。非常事態であるにも関わらず、全体のことを考えて自分で行動しようなどと考えた者はほとんどいなかった。


 それが若者たちが不満を抱く原因になった。最初の内は近所のスーパーを漁れば食料はいくらでも見つかった。しかし100人近くの大集団に膨れ上がっていた佐藤のグループにとってそれらの量の物資は微々たる程度のものでしかなく、すぐにグループの拠点周辺の店舗や家屋にあった物資は消費しつくされた。必然的に感染者のいる危険な地帯へと物資調達に出向かなければならなくなり、それらの仕事は当然若い男がやらなければならなくなった。


「俺もできる限りのことはしたが、それでも限界がある。銃砲店や死んだ警官から銃を手に入れても、感染者相手に素人が戦うのは難しい。最初のうちは上手くいっていたんだが、とうとう死者が出た。それからはグループの空気は悪くなる一方だった」


 死者が出たとしても、誰かが物資を調達しに外へと出ていかなければならない。若者たちは自分たちだけが危険な仕事へと赴かなければならないことに不満をため込んでいった。その頃には現実を認識して偉そうな発言を慎むようになっていたが、かといって彼らが若者に交じって外に出るわけでもなかった。

 年寄りや女子供を物資調達に出させたところで余計に死者を増やすだけだし、若者たちが行かなければならない状態に変わりはない。そして若者たちが命がけで調達してきた物資を、戦えない人間たちは少ないだの何だのと文句を言って消費するだけ。死と隣り合わせの物資調達に赴き、不満を募らせる若者たちの前に、同胞団の一人がやって来たことで佐藤のグループは崩壊した。


「同胞団の連中は、俺たちのグループに巧妙に接触した。仲間からはぐれた形でメンバーを一人送り込み、保護された体を装って俺たちに接触した。そして若者たちと交流を重ね、仲良くなって彼らからグループに対する不満を聞き出した。若者たちが自分たちだけ危険を背負わされていると感じていることを理解すると、言葉巧みに同胞団に加わらないかと誘った」


 グループに接触した同胞団の一人は、若者たちにグループを離れて同胞団に加わらないかと誘った。

 ただ物資を消費するだけで、働きもせず守られるだけのお荷物な連中のために命を懸けるなんてバカバカしい。今の世の中、何もできない人間は死ぬしかない。しかし君たちには力がある。今の世の中は弱肉強食だ、強い奴にだけ生きる権利が与えられる。守る価値もない連中のために命を懸けることを強要するグループよりも、全員が生き残る力を持つ者だけで構成された同胞団に加わった方が君たちのためだし、そちらの方が生き残れる確率も高い――――――。


「俺が気づいた時には、若い連中は皆同胞団に加わる気になっていた。若い連中はありったけの武器と食料を持ち逃げして、同胞団のところに行っちまった。もちろん若い男全員が同胞団に加わったわけじゃない。だが残されたのはわずかな食料と貧弱な武器、そして戦うことのできない人間ばかりだった。年寄りやオッサンオバサン連中は自分たちのせいで今まで暮らしを支えていた若者たちが出ていってしまったのだとようやく理解したようだが、遅かった」


 さすがに若者たちにも良心の呵責というものがあったらしく、彼らは出ていく時に他の避難民に暴力を振るったり、嫌がる人間を無理やり連れていくようなことはしなかったという。しかし同胞団の連中はそうではなかった。同胞団は佐藤のグループから若者たちが離反した直後に、戦う人間も手段も失ったグループのところにやってきて脅迫を始めたのだという。


「同胞団の連中は俺たちを殺しはしなかった。が、死ねと言っているに等しい要求を突き付けてきた」

「なんて言ってきたんですか?」

「『俺たちがこの街の安全を守ってやる、代わりに定期的に物資を差し出せ』と言ってきた。俺たちが暮らしていた場所の近辺の物資はすべて収集し尽くしたし、持ち逃げされなかった分もすぐ消費されるのは目に見えていた。同胞団に物資を献上するには遠くまで遠征するしかないが、武器は持っていかれまともに戦える人間も残っていない俺たちのグループが物資調達に出られるわけもない」


 そう抗議したメンバーは、同胞団のリーダーに射殺された。


「『今の世の中じゃ、価値のある人間しか生き残れない。生かしてほしかったら、自分たちに価値があることを示して見せろ』だと。奴らは俺たちに選択肢を突き付けた。言う通りにして感染者に殺されるか、反抗して同胞団に殺されるかだ」


 同胞団の言う通り危険を冒して物資を集めてきて彼らに献上すれば、少なくともすぐに殺されることはないだろう。だがそれは同胞団による気まぐれでしかなく、結局生殺与奪権は彼らに握られたままだ。同胞団が生存者たちを「不要」と判断したのなら、いつ殺されてもおかしくない。


「同胞団がやってきた時、たまたま俺は外へと物資調達に出ていた。戻って来た時同胞団の奴らに拘束されかけたが、何とか逃げ出すことが出来た」

「それで、こうやって一人でいるわけですか」

「ああ。連中が元は戦いの素人だとしても、武器を持って人数も多い以上真正面から戦っても勝ち目はないからな。かといって残っていた俺の仲間たちは戦意喪失しているようだった。誰も戦おうとしちゃいない。『同胞』になれなかった連中はただ同胞団に命乞いをして、連中の温情で生かされる道を選んでいるだけだ」


 物資を指示された分だけ集めていなかった場合、どのような理由があろうとも見せしめとして一人が殺された。その死体は生存者たちの居住地の近くに吊るされ、同胞団の命令に従わなかったらどうなるか生存者たちに思い知らされる見本として使われている。そしてその死体の数は、増えていく一方だった。


「このままじゃ物資を献上できなくて全員死ぬか、そのうち同胞団に邪魔だと判断されて全員殺されるかのどっちかだ」

「その同胞団とやらは、一体何人くらいいるんですか?」

「恐らく60人から70人はいるだろう。ほとんどが30歳以下の若者で、その内の大半が男だ。銃火器はメンバーの半数以上に行き渡るほど豊富で、全員が戦える」


 同胞団が入手した銃火器の大半は民生用の猟銃だが、一方で少年が彼らから奪ったような軍用の銃火器も装備している。銃火器は豊富に所持しているらしいが、本格的な戦闘技術は身に着けていないようだった。


「お前が奪った89式も、感染者になった自衛隊員かその死体から手に入れたんだろう。だが今後も銃火器を入手され続けるともっと勝ち目は薄くなる。もっともメンバーはこれ以上増えないだろう、食い扶持を維持するのが難しくなるからな」


 同胞団はこの街を拠点に定め、安定した生活基盤を作ろうとしているようだ。そして同胞団の脅威に怯える佐藤の仲間たちは、同胞団に代わって危険な地域に足を踏み入れ彼らの腹を満たすための食料を獲得してこなければならない。力関係が明らかな以上、生存者たちは同胞団に死ぬまで従い続けるしかない。


「佐藤さんは、なんでとっととこの街から逃げないんです? 一人で生きていくだけの力があるのなら、他の人を見捨てて一人で暮らした方が生き残る可能性が高くなるんじゃないですか? 別に同胞団の言い分が正しいというわけじゃないですけど、誰かに足を引っ張られるよりかは一人の方がいいんじゃないですか?」


 少年は率直に疑問をぶつけた。なぜ佐藤はわざわざ危険を冒してまで、同胞団にゲリラ戦を挑んでいるのか。佐藤は若者たちを離反させる原因を作った生存者達を「自業自得」と評したり、反抗する気力すらない彼らに失望感を抱いているような口調で話していた。特殊部隊の隊員だというのならば、判断力や精神力は並大抵のものではないだろう。自分が生き残ることを最優先に考えたら、足手まといはいない方がいい。そして佐藤には一人で戦っていけるだけの技術も経験もある。

 少年がそう尋ねると、佐藤は笑って答えた。


「そりゃ、今までそうしたいと思ったことは何度もあったさ。あいつらは自分勝手で無責任で、その癖こんな状況でも権利意識だけは強い。でも、一度関わっちまった以上、見捨ててはおけないんだよ。もしも俺が命令を受けて行動している身だったら、どんなに関わりがあっても任務遂行に支障をきたすのなら誰だって見捨てる。だけどもう命令を下す偉い方はいないし、俺が受けた命令はとっくの昔に失敗した」

「なら……」

「俺は戦うことのできない弱い人たちを守りたい、正しいことを為したいと思って自衛隊に入った。そして目の前には戦うことが出来ず暴力で服従させられ、命の危機に瀕している人たちがいる。同胞団の連中が掲げている行動方針は、今の世の中じゃ仕方のないことかもしれない。だからと言って暴力で他者を脅して、自分たちが生き延びるために危険な目に遭うことを強要する。それは間違っている、だから俺は戦う」

 

 そして佐藤はさらに言った。


「もしも俺の考えや行動が正しいと感じたなら、俺と一緒に戦ってくれないか? 正直言って、一人だけで連中に立ち向かうのはかなり厳しい。お前は武器の使い方を知っているし、戦い慣れているようだ。もしもお前が手助けしてくれるというのであれば、かなり助かる」

「ノーと言ったら?」

「もちろん強要はしない、したら同胞団の連中と一緒になるからな。だがこの街からは出て行ってもらう。お前を信用しないわけじゃないが、後になって敵に回られたら困る。無論、出ていくのであれば持ち物は返す」


 ケガが治るまでここにいていい、と佐藤は言った。しかしその間武器はすべて預からせてもらうとも付け加えた。

 

「俺と一緒に戦うか、出ていくか、今すぐ決めろとは言わない。なんせ人間相手に戦うんだ、すぐに決められるわけもないだろう?」


 そう言って佐藤は部屋を出ていった。一人残された少年は天井を見上げ、溜息を吐いた。

 佐藤と同胞団、どちらが正しくてどちらが間違っているのか少年にはわからなかった。佐藤がすべて本当のことを言っている保証はないし、同胞団の連中についての情報も少なすぎる。

 だが明確に自分が何をすべきか理解し、実際に行動している佐藤が羨ましかった。佐藤は現実を理解しつつもそれに妥協することなく自分の理想や考えを貫いている。一方で少年は現実を理解して打ちのめされ、妥協しいろいろなことに背を向けることで今日まで生きてきた。


 よく映画やドラマでは、大人になるということは何かを諦めて生きることだと言っていた。だが大人である佐藤は何も諦めることなく自分が信じた道を進み続け、子供である少年は何もかもを諦めて流されるままに生きている。諦めず己の道を貫くことと、現実を受け入れて妥協し状況に応じて考えや行動をコロコロ変えていくこと。そのどちらが正しいのだろうか。

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