いろいろと予想外
話が全然進んでいない気がする
「なんだ?」
すぐに家を飛び出し、森の音に耳をすませる。
ぐるりと周りを確認し、何か異常が無いか探してみる。
……目に見える変化は何もない。朝と同じ景色だ。と言っても見渡す限り、オ―ルグリーンの木しかないが。
今度は目をつぶり、聴覚を研ぎ澄ます。シーンとした森の中には鳥の鳴き声だけが朗々と響き渡る。先ほどの音はまだ聞こえてこない。
「キューッ」
甲高い透き通った鳴き声が空気を震わせた。鳴き声をから伝わる精いっぱいの意思表示が大気を震わす。
聞こえた!
俺はその方角を確認した。森の奥から鳥がバサバサッと飛び立った。
あそこからだな。
俺は場所を確認し、鳴き声のした方角に向かって走り出した。
木々の根が絡み合いでこぼこした地面。けっして走りやすくはない森の中を全速力で駆け抜ける。
オレは走りながら思った。
鳴き声の正体はなんだかわからない。なにかの小動物かもしれないし、もしかしたら魔物かもしれない。でも昨日見たオーガのような魔物からは想像できない程の透き通った綺麗な鳴き声であった。
いったいなんの鳴き声なんだろう。鳴き声からは切羽詰まったような悲痛な思いが感じられた。その鳴き声は瞬く間に俺の心を震わせた。その衝撃に心打たれた。そうでなくては異世界に来てまだ1日もたってない現状で、なにがいるかわからない魔物の森に踏み込んでいく勇気は正直ない。それにそこまで自分は愚かでもないと思っている。しかし、俺は走り出した。
どうなっても知らんぞ、オレ。
自分に向かってとりあえず忠告しといた。しかし、これで完全にフラグ立ったな。漫画や小説ではある種お決まりである。これは好奇心なのか、はたまた別の何かなのか。俺自身よくわかっていない。正直誰か教えてほしい。もちろん無理だとわかっているが。
でも一つだけ確実なことは自分が危険に飛び込んで行っているかもしれないということだ。
やめといた方がいいのにな。オレの本心は初めから一貫してそう告げていた。
やっぱり完全に死亡フラグだな、これ。あ~あ、笑い話で済めばいいけど。
しかし、オレの足は止まることはなかった。
「オレって意外に正義感強かったんだ…」
けっして悪くない気分で走り続けた。
だいぶ近づいてきたはず。そろそろのはずだ。
走りながら耳をすませた。
「キューッ、キューッ」
立て続けにまた例の鳴き声が聞こえてきた。より一層切迫感のこめられた鳴き声はもはや間接的に俺の心を悲しくさせた。それと同時に、強い怒りが湧き上がって来るのを感じた。このような鳴き声を上げさせたものに対する怒りがフツフツと自らの中で音を立てる。
汝め許すまじ。ただで済むと思うなよ。
先ほどよりもかなり近い。もうすぐそこのはずである。
見えてきた。
そこには樹齢何千年に及ぼうかとも思えるひときわ大きな木がそびえ立っていた。森の中無数に近い木々のその中で、その木は一本だけ他とは一線を画し悠然と立ち尽くしている。その幹はどれほど太いのだろうか。屋久杉を見たことはないが、きっとそれよりすごいんじゃないだろうか。今まで見たことも無いほどの大きさを誇る幹は、天まで届けとばかりにその身を伸ばしていた。
そして、その木の下から鳴き声は聞こえていた。
木の下に視線を合わせる。
「え?!」
なんて言うか……すごく予想外。
オレは木の下に駆け寄り、その鳴き声の主を驚きの目で見つめたのだった。




