どこまで行っても俺は俺。
話が全然進んでない気がする……。
「それでは出かけてくる。家の物はなんでも勝手に使ってて構わないから、好きにしてていいぞ」
エノーミさんはそう言うと森の奥に向かって消えていった。
俺はエノーミさんを見送ると今日するべき事を考える。
よし!
俺は一つ気合を入れると、家の中に入っていった。ここからは大仕事が待っている。これから対峙する敵は近年まれにみる強敵だ。
部屋の中を見渡す。
ちらっかてるな~、おい。改めてみると想像以上に大仕事となりそうだ。まあ、やりがいはあるだろうけど。とりあえずはちらばってる本屋や資料、小物の片づけからかな。
「A型の人間を甘くみるなよ」
俺は若干意味不明な事をつぶやきながら、掃除にかかったのだった。
「とりあえずはこんなものだろう」
腕時計を確認すると、始めてから2時間程経過していた。どうやらいろいろと確認したところ、時間軸は地球と同じで24時間のようである。時間の流れも変わらないようで、さいわい持っていた腕時計が使えた。まだ一日もたっていないから確証は持てないが、エノーミさんの話を聞く限り時間に関して大きな違いはないように思えた。そして、現在時刻は8時。地球の日本時間で言ったら、午前11時。3時間ほどずれている。この世界では日の出、日の入りが必ず同時刻であった。地球のように季節によって日々変わっていくことはしないらしい。いったいどういう世界なのだろうか。地球に暮らしていた感覚からすると、何か変な感じもする。
この世界において日の出の時刻ははるか昔から不変の事象として定められていることであり、日の出の時刻を2時とするそうだ。なぜ2時かというと、2が神聖な数であるかららしい。
だから現在は8時。
もうそろそろ、休憩しようかな。
俺はあらかじめ教わった通り、魔法で灯ったランプから火を頂戴し温かい飲み物を入れた。
手じかな椅子に腰かけ、一息つく。すると否応にも現在の状況について考えてしまう。
これからどうしようかな……と。
この世界に来てしまった理由は現在の所不明。何をすればいいか、目的も不明。思いつく限り目的を上げてみたが、全くわからない。そもそも目的なんてないのかもしれない。オレとしてはRPG風に魔王を倒してくれって言われた方がどんなに楽か。
グアスは基本的に平和な世界。戦争はない。魔物はいるが、魔王などはいない。多種族が混在しているが、争うようなことはない。種族間の関係も悪くはない。とりたてて問題はない。
まあ、しばらくここにお世話になってその間に考えるか…。
「フッ」
オレはつい自嘲してしまった。
なんだか大学進学の理由に似ていたので、思わずおかしさを感じてしまう。
いいのか悪いのか。やはりどこまで行っても俺は変わらないらしい。たとえ世界が変わったとしても。
「情けね~」
オレはぼそりとつぶやく。
これまでのこと、これからのこと。ぼんやりといろいろなことを考え始めると、とめどない思考となってぐるぐると頭の中を渦巻き始める。
オレはあえてその渦の中に身を預けていた。
そんな時、感傷に浸っていたオレの意識は外から聞こえる甲高い生き物の鳴き声によって呼びもどされたのであった。