そういえば……
もういいかな…。
気がつくと森の中から外れ、人によって手入れされた小道のようなところに出た。ようやくここで、後ろを振り返ってみる。どうやら魔物の姿は見えない、逃げることには成功したようだ。
は~、恐え~よ。死ぬかと思った。
大きく息を吐き出すと、激しく高鳴った心臓の鼓動も徐々に静まってきた。どっと疲れを感じる。
道があるってことは、人がいるのかな?
落ち着きを取り戻すと、俺は小道に沿って歩き始めた。
しばらくすると、一軒の小屋が視界に入ってきた。山小屋風の家、現代的に言えばコテージと言うのだろう。家の周りには菜園が広がっていた。何を育てているかまではわからないが、家からは明かりがもれだし、少なくとも誰かは生活しているようだ。
しかし、いったん冷静になって考える。森の中の一軒家。誰が暮らしているともわからない。そもそも人であるかどうか。しかし、まわりに家はみあたらない。森の中には化け物が生息している。
怪しい雰囲気満載だな。でもここの場所も分からない、疲労感・空腹もある。そして、正体不明の化け物もいる。いつまた襲われるかもわからない。取ることのできる選択肢は限られている。
俺は覚悟を決め、家のドアに向かって歩を進めた。
「すいませ~ん」
俺は夜なので、控えめにドアを叩くと、中の人に呼び掛けた。
「誰だ?」
思いのほか、鋭い口調が帰ってきた。
まあ、それもそうか。こんな森の中で、この時間じゃあ警戒するのも当然か。
「え~と、斎藤虎太郎というものでして……」
「サイトウ? 人間か? 聞かない名だな」
人間? ということはやっぱり他の種族がいるっていうことか。それよりも、やべっ! そう言えばなんて説明すればいいんだ。まさか異世界から来ました…なんて軽々しく言えるわけないし。そして馬鹿かオレ!! なに馬鹿sy掃除機に自分の名前を言っているんだ。
ガチャツ
家のドアが開き、中から人が出てきた。
ゴクリ。俺はその姿を見て思わずつばを飲み込んだ。驚きのため呼吸をするのも忘れていた。
中から出てきたのは、腰まで届くかと思われるほどの銀髪、モデルかと思わせるほどのスラリとした体型。100人いれば、100人が振り向いて確認するであろうその容姿。
一言で言って完璧だ。全てのパーツが絶妙に組み合わさって、最早芸術作品といっても過言ではない。そのキリっとした眼からは深い知性があふれ出ているようである。そして、男を魅了してやまない部分。説明しなくてもわかるよね。それはそれは、素晴らしい。質素な様子の服に身を包んでいるが、にじみ出るオーラと言うか、存在感が圧倒的だ。
「……」
俺はしばし、この女性から目が離せなかった。この世界の人間はみんなこんなにすごい人たちなのか…。
「人間、どうやって、ここに来た」
俺はしばらく放心状態であったが、ようやく意識を取り戻した。
「あ~、ええと……」
「そうか、お前は異世界人か? さきほど世界のマナが激しく振動するのを感じた」
「…………」
俺はなんとか驚きを表情に表さないよう、自分を落ち着かせる。後半の言葉は意味がわからないが、少なくとも俺が異世界人であるということは、すでにばれているようだ。この世界で自分のような存在がどう扱われるのか分からない状況で、あまりうかつなことはできない。異世界人という者が好意的なものであるという保証はないし、もしかしたら、迫害される存在であるかもしれない。俺は瞬時にそう判断し、どう答えていいものか逡巡する。
それにしてもまさか、いきなり正体がばれていたとは。いったいなぜわかったんだ? もしかしたらそういった人間は意外に多く存在するのだろうか。
「驚かせて悪かった。まあ、そう警戒するな。異世界人だからといって、取って食ったりはしない」
女性は軽い口調で笑ってそう言った。
俺はその様子を見て警戒を緩めた。あまり悪い存在の人であるようには見えない。まあ、そもそも人柄なんてそう簡単にわかるはずないのだが、それならそれで自分の運が無かったということだ。俺は素直に割り切ることにした。
「そうですか。それは助かります。正直何も分からない状態なので」
「そうだろうな。それにしてもお前は面白い人間だな。異世界人と言われて動揺しないとは。普通そういった状況に陥れば大抵の者は驚きそうなものだが」
女性は何か面白そうな口調である。
「たしかにそうかもしれないですね。でもなんというか、落ち着いて考えると、俺の格好と様子を見てしまえば、ばれるのも容易に想像できます。でもこんなにも早々に言われるとは思いませんでしたが」
「やはりお前は面白い奴だな。なかなか賢くもある。感心なことだ」
「ありがとうございます」
正直ほめられているのかどうかわからないので、素直に喜んでいいものか…。
「それで、お前はどうしたいんだ」
「ここにどうしているのかもわからない状態でして。さらに言うと、さきほど化け物のようなものに襲われて困っています。一晩泊めていただき、よければこの世界について情報教えていただければなと」
「そうか、それはそれは……」
何か悩むような素振りを見せているが、首を振ると話を続ける。
「まあ、ここにいる限り心配はない。今晩はここに泊めてやるし、明日からのことはとりあえず置いておいて今日はゆっくり休むといい」
そう言うと女性は家の中に入れてくれた。
ふ~……。
どんな人が出てくるのかと少々緊張していたので、やさしそうなひとがでてきて良かった。内心ほっと胸をなでおろす。
俺は幾分、張り詰めていた緊張感が抜けて行くのを感じたのだった。
前書き、後書きとはいったい何を書いたらいいんでしょうかね。何も書かないのは寂しいし、かといって書くこともない。う~ん……わからん。