がっくり
「ようやく入口か」
オレはがっくりと膝に手を当て、疲れきった声でつぶやく。なんというかヘトヘト。例えると部活の合宿が終わった時のような疲労感に似ている。自分でいうのもなんであるがかなり息も絶え絶えである。まるでどこぞのマンガに出てきそうなほど息が荒くなっていた。
ふぅ~。
吹き抜ける風が髪をなびかせ、偉く気持ちがいい。風の影響を受け、前を歩くビオレラの髪もファサファサとなびく。オレは深く深呼吸をすると肺を冷たい空気が満たしていく。よっこらせっと一歩を踏み出せば、不思議な感触が足元から伝わってくる。
「なんかやわらかくて気持ち悪いような変な感じ」
凸凹であった足元は聖樹を利用した木の道であるため、天然のクッション材ともいえて疲れのたまった膝にはなんともありがたかった。ただ慣れるまでは変な感じではありそうだ。
遠目に見ても馬鹿でかかった聖樹は間近で見るともっと馬鹿でかかった。ましてやそれを延々と登っていくとなるとなおさらである。
「たけ~。高所恐怖症の人にはちょっとつらいな」
「エルフには関係ないからご心配なく」
「…………」
いちいち言葉が刺々しい気がするんですけど……。まあこういう言い方をする人なんだ。割り切れオレ。っと、自分への励ましはこの辺にしておいて、どうやらエルフ族は高いところが得意らしい。それもそうか。木の上を好むのに高所恐怖症であったら笑い話にもならない。木の上でビビるエルフを想像してみる。
ないな。…………だめだ、ありえない。
目の上に手を翳し遠くを見渡せば見渡す限りの木々が周りをひたすらに埋め尽くしていた。遠方にはギザギザと切り立った山々が天に届けとばかりにそびえたっていた。まるで某ポテトチップスのおーザックのような形をしたそれらは激しく日本へ帰りたい気持ちと、あの油っぽい至高の食べ物を食べたい気持ちをダブルでかきたてた。そしてのこぎりの様な鋭さを持つそれらはいったいどんなところなんだろうかとかすかな興味を掻き立てた。頂上付近は真っ白くなっており、いまだ雪がとけていない様子が見て取れた。ということはやはり相当な標高になるのであろうか。きっととてつもなく寒いのであろう。寒いのが苦手なオレは考えるだけでも遠慮したいところである。しかしエベレストのようなものを想像してしまうとやはり男としては探検精神をくすぐられ、ちょっと行ってみたいような気もしてくるが、すぐにその考えを改める。無理に決まっている。なんせ、いまでさえこのざまであるオレが行けるわけがない。確実に死ぬ。
見える範囲での視界いっぱいに広がる渋い緑茶のような緑。ホント、木しかない。何か造れよエルフ。オレの強烈な突込みも心の中で空しく響くだけに終わってしまうが、実際言ったところで何も変わらないのでしょうがない。ちょっとの間この世界に暮らしてみて気付いたことであるが、この人たち(エルフ)は頭よさそうに見えて、と言うよりも実際頭いいのだが、意外に頑固である。もしかしたらこの二人に限ってのことなのかもしれないが、簡単に自分の考えを曲げようとはしなかった。おそらく自分の確固たる信念をもっているということなんだろうが、はたからみるとなんというか、いい意味でマイペース。悪い意味でいうと融通が利かない。しっかりとした利を持って説明すればおそらく納得はしてくれるのだが、アイデンティティーを覆すほどの強烈な理論を展開することは困難であると言わざるを得ない。思うに個人の考え方なんてそれはもう主観やその人の感受性などによっていくらでも取りようがあるわけで、オレにとってそれを変えようとする行為は無駄に等しい行為と言ってもよかった。だって、そうじゃないか、自分の考え方なんて簡単には変えられないでしょ。
息を整えつつオレはどうしようもない思考を切り捨てた。くだらない。自分で考えていたことなのになんとなく居心地の悪いような気がして、何かしゃべらなきゃ生きえないような気持ちが湧き上がってくる。ただ、そういう時に限って何を話していいのかわからないものだ。まあ、いいだろ。適当に思いつくままに言葉にしてみる。
「ただこれだけの高さになってくると気持ちがいいな。遠くも良く見渡せるし。なんだろう。上手く言えないけどこの木に守られてるような安心感があるような気もするし。まあなんとなくだけどね」
訝しげな視線がオレを貫く。
「コタローってホントに人間? なんとなくでもそれはものすごいことよ。まさかエルフにすら聖樹様から発せられているマナを感じ取れる人は少ないってのに」
なるほどね。この安心感の理由はそういうことか。包み込まれるようなこの感覚。今まで感じた事の無かった不思議な感覚である。
身体を巡るマナに意識を向ければ心なしか普段よりも大きく感じるような気もする。
グーッと体を伸ばしやっと落ち着いてきた体に再び鞭を打つ。
「あれ?」
少し歩きだしたオレは後ろを振り向くとある違和感に思い当たる。おかしな点が一つあることに気が付いた。
「そういえばエノーミさんがいないけどどこいったの?」
そう。登っていくのに必死で忘れていたが、いつのまにかエノーミさんがいない。確か登り始める前は後ろにいたから、途中ではぐれてしまったのだろうか。いや、まさかね……。エノーミさんに限ってそんなことはありえない。とは言ってもはぐれようのない一本道ではあったが。ではどうしたのだろうか。
「ねえ、いまさら? さっきからずっといなかったじゃない」
「うそ?」
まじっすか。どうやら結構な間オレは気が付いていなかったらしい。
「だとしたらいったいどこに?」
「あそこよ」
オレはビオレラの指差す方向を見る。
「意外に早かったな」
「まじっすか……」
そこにはオープンカフェのような場所で優雅にくつろぐエノーミさんがいた。どこから取り出したのか、旅の間は持っていなかったお馴染みの本の束が机の上に積み上げられていた。魔法か? ご丁寧にも軽い食事の様なものまで用意されていた。本のページをめくると、エノーミさんは卓上の飲み物を口に含む。
なんて絵になる人なんだろう……。いつみても見とれてしまう。さすがエノーミさん。
………………って違う!!
「こんなとこでなにしているんですか?」
「そんなもの見ればわかるだろ。お茶だよ」
「たしかに……。ええ~と、確かにそうなんですけど、オレが言いたいのはそうじゃなくて」
「お前たちが来るまで時間があったのでな、ここで一休みしていただけだ」」
「そうですか。それはよかったです」
再びエノーミさんはカップに口をつける。
いいな~。オレも喉乾いたから飲んでいきたい。いま何時くらいだろう……。空を仰ぎ見れば感じ的にもういい時間であることは見て取れた。気持ちよかった風も、少し肌寒か感じてきた。腹も減ったなぁ……………ってちっが~う!!
「あのですね。そうじゃなくて。もう一回言いますと、どうしてここにいるのかってことです」
「そんなの見ればわかるだろ。ここが今日の目的地だからだ」
そりゃそうだ。しごくもっともな答え。反省しろオレ! 脳みそのないミジンコじゃあるまいし、いったいオレはなにをバカなことを訊いているんだ。
どこかかみ合わない会話にも、クッキーのようなお菓子をつまみながら平然とした様子でエノーミさんは答えた。
なんて上品。……………………ってちが~う!!
なんて危ない。危うく敵の華麗で巧妙な作戦にはまるとこだった。なんて狡猾な罠。オレの気持ちを食べ物でそらせようとは。
「オレが訊きたいのはどうやってオレらより早くここにいるのかって話です。下から登ってくるにしても、こんな早く来れるわけないし、少なくとも抜かれた記憶はないからおかしいですよね」
「そんなのそこにある転移魔法を使ったに決まっているじゃない」
ここで来たか!? 歩く毒舌マシーンビオレラはバカにするかのように横から口を挟んできた。
え~~~!? そんなのあったんですか?
「当たり前じゃない。いくら私たちでも毎回毎回この登り降りはしないわよ。だからそこにある転移魔法で上と下を繋いでるの」
「……左様ですか」
「じゃあ行くか」
トボトボとオレはついていく。もう突っ込まないことにした。だって疲れるだけだもん。
でもそんなものがあるなら教えてくれてもいいのに。てかあるなら使わせろ。
「大丈夫ですか? だいぶお疲れの顔をしていますが?」
「ええ、まあ」
昼間の出来事をビオレラに聞いたフリーデルさんは気遣うようにいろいろと手を貸してくれていた。オレはなるべく心配をかけないよう努めて明るくふるまう。
今日はビオレラさんの知り合いのお宅に泊めてもらうことになった。ここの家主であるフリーデルさんとビオレラは幼い時から仲がいいらしく、姉妹の様なものであるということだ。オレから言わせてもらえれば、ビオレラとうまくやっていけるなんて人は相当な変わり者ではないかと思ってしまったが、会ってびっくり。フリーデルさんはなんとこの街の町長であり、見た目は超絶に優しげなお姉さんの様であった。もちろん中身も女神の様に優しかった。本人いわく、「ビオは私のお姉さんのようなものなんです」と言うことだ。……まあ、本人たちがそれでいいなら構わないが、絶対フリーデルさんの方が姉に近いと思うのだが……。どっちとは言えないが名誉のために一応それは言わないでおこう。
そして絶賛慰められ中のオレは、情けないと言われようが何しようがふてくされるという子供のような態度をとることで、二人に怒っているということをアピールしていた。ただその効果はあまり期待できそうにはなかった。思い思いのことをしている彼女らは、こっち(オレ)の様子に気が付く様子はまるでない。まあ、ある程度わかっていたことだが、このエルフお二人は実にマイペースなのだ。オレのことなど取るに足らない些細なことの一つなのである。
オレはさぞ高級であろう沈み込むようなやわらかさを持つソファーにぐったりと背を預け、首を軽くほぐす。テーブルを囲うようにコの字に置かれているソファーには対面にフリーデルさんが座っていた。オレはたいしてすることもないので部屋の中をきょろきょろと見渡す。この部屋に入ってすぐに気になっていたが、どこからでも見えるように奥の壁に設置されている大きな棚の様な物の存在感だ。その中には特に目を引くような大きな石のような塊が置いてあり、黒っぽいとも茶色っぽいともとれるくすんだ色をしているそれは、ちょうど人の頭くらいの大きさはあるだろうか。木の樹皮の様な繊維が表面を覆っていて、若干楕円形になっているようだ。いったいなんなのであろうか。
ポク、ポク、ポク、ポク、チーン……。頭の中で流れる木魚の音とともに想像してみるが、くだらない妄想が膨らむだけでまったく見当もつかない。考えられる限り化石の様なものに近いんじゃないかと思われるが、ただものすごく貴重なものであろうことだけは伝わってきた。
そんなオレの様子に気が付いてか、フリーデルさんは
「あれが気になりますか?」
例の塊をチラッと見ると、疑問に思っていたオレに言った。
「ええ。とても大事そうに置いてありますし、あんなものは今まで見た事ないので……」
「そうですよね。あれはこの聖樹様の種子なんですよ。私たちエルフでも貴重な物なので、人間の方で知っている人はいたとしても、見た事のある人は多分いないんじゃないかと思います」
へ~……。聖樹様ってちゃんと種があるんだ……。当たり前と言えばそうだが、あまりに聖樹自体の規模が大きすぎて、違和感を感じまくりである。種ってことはあれも成長するとこんなばかでかい聖樹になるんだろうか。いや、でもこんな風に保存しているということは違うのか……?
「ここに置いてある種子はもう芽が出ないので、コロの聖樹様のようにはなりません。でも十年に一度採れる新種子なら成長させることもできますよ。ただ聖樹様の種は一年以内に大量のマナを吸収させないと発芽しないのでここ数百年の間、芽が出たことはありません」
「種がマナを吸うんですか?」
「はい。初めは種子の色も黒色なのですが、吸収した量によって黒から茶色、次に黄色、最終的には黄金までなります……って言ってもそう言われているだけで、実際は見た事ないんですけどね」
ニコッとはにかむように言ったフリーデルさんの視線が偶然にもオレの視線と重なった。なんとなく視線を外すタイミングを掴めなかったので、どちらともなくそのまま見つめあっていたが、しばらくして彼女は恥ずかしそうに視線を逸らせた。よく見れば若干顔も赤らんでいる。
ちょ!? か・わ・い・す・ぎ・る。超かわいいんですけど!! オレはポーカーフェエイスを続けながらも、あまりの衝撃に三百メートルくらい全力で走りたくなった。フリーデルさんの優しさといい、仕草いいツボすぎる。特に今のオレの周りにはこういう人はいなかったので尚更刺激的である。こんな気分になるのは中学生の夏休み、部活動が長引いてお花の水やり当番に遅れたオレが急いで駆け付けた時、部活で忙しいと思ったから私が一人でがんばっちゃった。てへ。みたいな感じで待っててくれた時以来である。ガキかオレは。懐かしい気分であるが、荒れ狂うときめきを今は必至で抑えつけ、とりあえず気持ちを落ち着ける。
「あ、そうだ。ちょうど今年は聖樹様から新しい種子が採れる年なので、もうすぐ始まる聖樹祭のイベントには新種が景品として出ることになってますよ。コタローさんも出てみてはいかがですか?」
恥ずかしさを紛らわせるかのように、言葉に合わせて胸の前で勢いよく掌を合わせるような仕草がいちいちかわいらしい。もう目の毒である。
「オレは遠慮しておきます。あんまりそういうイベントみたいのは得意じゃないので」
そうですか……、と残念そうに言うフリーデルさんを見てなぜか罪悪感が芽生えてくるのはオレがいけないことをしたということなのだろうか。とは言っても出る気はさらさらないので、しかたがないことであると自分を納得させる。それに、明日になったらもうこの街を出るのだから、物理的にも不可能であった。ただフリーデルさんが一瞬見せたシュンとした表情はしばらくオレの頭から離れそうになかった。
昨日の夜の話。
ネットで香川選手(ユナイテッドのサッカー選手)が今日もスタメンで出なそうだと知る。⇒「今日はなんとなく香川は出そうな気がするから見よう」⇒0時からの試合まであと一時間あるからとりあえず仮眠⇒気が付いたら1時半ぐらい⇒急いで携帯でスコアを確認⇒「い…、一点取ってる―――!!」⇒布団の中で考える。流石にもう交代しただろうからもう見ても遅いだろ⇒携帯小説を軽く読んだ後スコアを確認⇒ハ…ハ…、ハットトリックしてるし!!生で見ようと思っていたのに寝てしまい、起きたのにもかかわらず見なかった俺。激しい後悔にさいなまれる⇒orz
よく知り合いに「ハイライト見ればいいじゃん」とか、「録画してあるんでしょ」みたいなことを言われます。わかる人はわかると思いますが、スポーツはやっぱりLIVEで見ないとダメなんですよ。たとえ結果を知らない状態で録画放送を見たとしても、やっぱりダメなんですよ。
以上です。お見苦しいあとがきですいませんでした。




