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その頃一方……

文字化けしていたようで訂正しました。


 とある森の中。緑豊かな森を何百という数の鳥が横切っていく。うすい雲が階段の様に空を彩り、縞模様となっていた。

 心地よい暖かな日差しが一軒の屋根を輝かせていた。ここは人間でいえば何世代にもわたる長い間、エルフであるビオレラと神獣であるアクナが住む家である。種族は違えど時代によって家の形はさまざまである。しかし、ビオレラが作り上げたこの建物は違っていた。作り直したこともなければ、一度として改築したこともなかった。何百年という時を経てでさえ、不思議と地球でいう現代的な様式を持っていた。そして最近、一人の青年がその場所に一緒に暮らすようになった。




「にゅぅ~」


 トテトテと危なげに歩く真っ白い生き物が見える。少しもくすみのない真っ白な毛色。二又に分かれた尻尾。そしてけっして転びそうなわけではないが、はたから見るとどうしてもよろけているように見えてしまう太くて身近な手足。まだまだ成長段階を思わせているそれらはふとするとそのままでいいと思わずにはいられない魅力があった。成長した姿はある意味完成した美しさであるが、子供のころの可愛さは不思議と未完成でありながらそれを超越しているように思えてならない美があった。もしかしたら不完全な形であることが、保護欲をかきたてるのかもしれない。例えばまだ幼いミカドの歩き方はその場にいる者を一瞬で虜にしてしまう破壊力があった。すぐにでも手を差し伸べてたすけたくなるような……。

 

 ミカドはがりがりとひっかくように一心不乱に扉を叩く。ギーっという重たい音とともにわずかに扉が開いた。


「にゅ~、にゅ~」


 滑り込ませるように頭から突っ込むミカドはすぐさま行く手を阻む扉に跳ね返されてしまった。コロッと綺麗に後ろに弾き飛ばされ、一回転して尻餅をつく。まるで地面に座っているかのような格好になったミカドは悔しそうに一声鳴いた。どうやらけがはないようだ。元気そうにゴシゴシと可愛げな左手で顔をこする。それは生まれてからの彼女の癖であった。まるで顔を洗う猫の様である。しかし彼女は猫などではない。この世界の王とも呼べる神獣であった。いくら可愛くともこの世界に生きる者において恐れ多い存在なのである。


 そんな神獣である彼女はゴロッと横向きになると前足を使って器用に立ち上がる。「なんて、かわいい!!」コタローなら絶対にそう叫ぶだろう。しかし、この場に彼の姿はいない。体に対してまだまだ太い両手両足はまるでぬいぐるみの様で非常に愛くるしいものがある。わずかに手先、足先から見える爪をぐわっと開く様子がまたかわいらしい。ちょっとずつであるが伸び始めてきた牙はまだまだ敵を威嚇するようなものではなく逆にチャームポイントの一つとなっていた。


 弾き飛ばされたことにもめげず、何事もなかったかのように起き上がったミカドは再び扉の前まで歩いていく。先ほどと同じようにひたすら扉を開けようと同じ行為を繰り返していた。



 ちょっとばかり時間はさかのぼる。


 コタローたちがブルーフォレストへと旅立ったその翌日である、高々と日も青空に上った頃、ミカドは毛布が敷き詰められた大きなバスケットから顔を出した。よく寝たとばかりにグッと前足を伸ばし体を弓なりに反らせる。前足を何回か舐めると、寝転がっていたためつぶれてしまった毛並みを綺麗に整えた。その出来に満足そうに一声上げると、ミカド専用のベッドから飛び出した。綺麗に着地を決めると、急に動きが止まった。


「にゅ~…?」


 不思議そうに部屋を見渡した。

 ここ最近の間いつもなら机で勉強していたコタローがいない。

 ゆっくりと部屋を出て、まずはリビングへと向かった。しかしそこには誰もいなかった。他の部屋も探してみる。


「にゅぅ~……」


 ここにも虎太郎の姿はなかった。「どこにいったの?」と言うようにさびしそうな鳴き声を上げるが、いつもならすぐそばにいる優しげな青年の声は返ってこなかった。

 どうしよう……、焦るようにそわそわと行ったり来たり歩く。時間だけが確実に過ぎて行った。

全ての部屋を見て回ったがどうしても一つだけ入れなかったところがある。もしかしたらその中に居るのかもしれない。ミカドは軽く扉を押してみた。扉はしっかりと閉められていて、ミカドの体格ではとても開けられそうにない。ドアノブの様なものはなく、懸命に開けようと試みるが開きそうな気配はなかった。



 そして今に至る。

 どうやらミカドは入るのは無理だと諦め家の外へと向かったようだ。ざっと家の周りを一周してみたが、ここにも虎太郎の姿はなかった。

 どうやら虎太郎はいないようだ。リビングでよく本を片手に作業をしていたビオレラもいない。家の中はシーンと静まりかえっていた。誰もいない空間は不思議なことにどこか冷たいような雰囲気を感じさせていた。

 その様子にミカドは座り込む。明らかにおかしい事態に尻尾が不安げに揺れていた。動揺している様子がひしひしと伝わってくる。じっと何かを探すかのように外を眺めていた。


 今までにこういうことは一度もなかった。エノーミが家を空けることは何度かあったが、虎太郎がミカドに黙って少しの間だけでもどこかに行ってしまったことは一度もなかった。いや、正確には一回あっただろうか。虎太郎がこの家に来てからすぐのことであった。エノーミと共に森の奥へと山菜を取りに行こう思ったが、ミカドが気持ちよさそうにお昼寝をしていたため、そのままにしておいて二人だけで出かけたのだった。普段なら起きるまで待つか、起こしてから一緒に連れて行くのだが、昨日からどこか体調を悪そうにしていたためにそのままにしておいたのだった。ミカドの体調をよくするため体に良い食物を取りに行かなければいけないこともあって、二人としてもしょうがない判断であった。そばにはアクナもいるため大丈夫であろうとの考えであったが、結果として大失敗であった。しばらくして目を覚ましたミカドは虎太郎がいないとわかるとそれはもうひたすらに泣き叫んだ。必死になだめようとアクナも奮闘したが、虎太郎が戻ってくるまで鳴き止むことはなかった。最後にはかすれるような声になっていたがそれでもあきらめることはなかった。そのおかげで体調不良よりも喉をひどくやられてしまったのは当然の結果である。


 そのためここ数か月は虎太郎から離れたことはなかった。そのためより一層姿が見えないことはかなりの不安を誘った。


 家の入口が音をたててゆっくりと開く。うずくまっていたミカドが急いでそちらを向いた。ぴんと立った両耳がぴくぴくと動き彼女の緊張を表していた。


(もう起きていたか)


 入ってきたのはミカドと同じ真っ白な体。二又に分かれた尻尾。しかし、人ひとり呑み込めてしまうのではないかと思うほどの何十倍もの体躯を持つアクナであった。

 悠々と歩く姿は言葉にできない美しさをたたえていた。

 そんなアクナは優しくミカドに声をかけた。


(なにをそんなに怖がっているのだ。お化けでも出たのか?)


 現れたのがアクナとわかるとほっとしたのか、ミカドはその場にぐったりと崩れ落ちた。緊張していた耳も、ヘナッと折れ曲がっている。

 それを見て微笑みかけるようにアクナは言った。


(よしよし。よくがんばったな。クックック、お化けが出たらそんなもの食べてしまえばいいんだ。もしかしたらミカドの好きなグレントイノシシより美味いかもしれないぞ。あの肉質はたまらんからな。今も考えただけで涎が…。おっと、とにかくそうしたら万事解決ではないか)


 不安げにしていたミカドを見て、まるで楽しんでいるかのように豪快に笑いながら言った。

 

「うー!!」


 バカにするなと言わんばかりにミカドは毛を逆立てながら唸った。お化けなど恐くないということか、それともバカにするなと言うことか、もしかしたらその両方かもしれないが、おかしくなってしまうほど可愛げに怒りをあらわにしていた。


(まあまあ、そう怒るな)


 まるで虎太郎の布団のような大きさをした舌でアクナは優しくミカドを舐めた。しばらく「うー、うー」と機嫌悪げにしていたが、だんだんと冷静になってくると舐められるのが気持ちよさそうに目を細める。


(ちょっと外に出ようか)


 それを見て、そっとミカドをくわえたアクナは家から出て行った。しばらく歩き続けると二人がたどり着いたのはハルの住む湖であった。

 そこはコタローがミカドと訪れた時よりも一層新緑がまぶしいくらいに湖面を照らし出していた。バシャンと魚が飛び跳ねた音があたりに反響し、水面にせり出した枝がお辞儀をするかのように垂れ下がっていた。そこは魚たちにとって貴重な日陰を作り出しており、多くの波紋が見え隠れしている。たくさんの水草が思い思いに成長し、生命の力強さであふれていた。


 アクナはやさしくミカドを下に降ろすと、湖面を見つめながら話し始めた。


(ミカドも気が付いていると思うが、コタローもエノーミも家にはもういないんだ)


 ミカドの耳がピクリと動く。


(どこ行ったの?)


 澄み渡るようなソプラノ声でミカドは尋ねた。アクナや湖の主であるハルとはまた違った音の高い綺麗な声である。まだ幼さが現れているが、それ以上に魅惑的な響きを持つものであった。しかしその声には動揺が隠し切れないでいた。


(エルフの街ブルーフォレストだ。二人は大事な用があって昨日の夜エルフの街に旅立った)

(……えっと、すぐ帰ってくるんだよね?)

(どうなんだろうな……。おそらく数か月は帰ってこないだろうと思う。行くだけでも相当な日にちがかかってしまうから、どれくらいかかるからは予想がつかない)

(もう、冗談でしょ?)


 まるっきり信用してないようにミカドは笑って言った。

 しかし、それには答えずアクナはじっとミカドを見つめる。


(う、うそ……。ねえ、嘘だよね……)


 すがるようにミカドは言った。


(嘘じゃない。お母さんはジョークは好きだけど、嘘は大嫌いだからね。あ……、お前のお父さんの趣味がぬいぐるみ集めだったのは本当だよ。お母さんに隠れていっぱい集めていたっけ…。見つからないように必死に隠していたのは実に可愛かったな)

(そんなことはどうでもいいもん! お父さんが変態さんだったのは知ってるし。そんなことよりホントはすぐそこにいるんでしょ?)

(そんなことって……。お父さん聞いてますか? ミカちゃんはもう反抗期みたいです)


 まるで演技かかったように、天を仰ぐように言うこの母親を見たら、いったいくだんの父親はどう思うだろうか。どちらにしろ、どちらもミカドの父が聞いたらショックで死んでしまうような内容なので、彼がそれを知ることがない方がいいことは確かである。


(けど二人はホントにいないんだよ。でも半年もあれば帰ってくる)

(む~り~。そんなに待てない。コタローがいないと寂しくて死んじゃうよ……)

(お前はウサギか)

(無理なものは、無理なの。そうじゃなかったら追いかけるもん)

(ダメに決まってるだろ)

(ねえ、お母さんは昨日ミカちゃんがこっそり人参残したから怒ってるんでしょ? 今日はちゃんと食べるから。ねえ、意地悪しないで許してよ)

(まったく……。好き嫌いはあれほどダメだって言ってるのに。今日からはちょっとだけでもいいから食べるようにしなさい)

(わかった、わかったから。二人の所に行っていいでしょ?)

(だ~め。それとこれはまた別の話だ)

(やだ、やだ。ミカちゃんも絶対行く…) 

(ミカドじゃまだ二人に追いつくのは到底無理だよ)

(ならお母さんが連れてってくればいい。じゃないと人参は食べない)

(私は行かないけど人参は食べなさい。それに私たちはやることもたくさんある)


 きっぱりとアクナは言った。

 バタバタと手足を振り回し暴れまくるように叫ぶミカドはまるでデパートでおもちゃを買ってもらえなくて駄々をこねるかのように、地面を何度もたたいた。綺麗な毛並みが、土色に染まり雑草がバサバサとまとわりついていた。雑草の花びらやら砂埃が舞うのも構わず、ジタバタして抵抗を繰り返す。


(絶対行くもん!!)


 結局、はじめと変わらずにあどけない声で決意のほどを表すが、説得力はまるでなかった。はたから見ると実にわがままを言っているかわいらしい光景であるが、本人はいたって真剣である。しかし、やはりどうしても可愛さだけが先行していた。


(そんなこと言っても出来ないものはできない)


 ミカドの様子に構うことなくアクナは強い口調で言った。


(いいもん。一人で行ってやる)


 茶色く汚れた体を起こして、アクナに背を向けるとミカドは森に向かって歩き出した。背中にはバッサリと草が大量に付いているが、一人では取ることができないのでそのままの状態になっている。ミカドの短い手では後ろまで届かないのでしょうがないことではあるが、なんというかはたから見るとかなり残念な感じである。座った状態で一度やろうとしてみたが、見事にコロッと後ろに倒れてしまって愛らしい姿を見せるだけに終わってしまったのだ。草にまみれた姿であるが、これはこれで元気の良さを感じさせて可愛らしいということにしておこうと思う。


(は~……。ちなみにそっちは逆方向だぞ)

(……し、しってるし)


 精一杯強がって言うミカドに、アクナはため息を吐いたのだった。


(私たちもちょっと出かけようか。ただ待ってるだけじゃないんだ。ミカドもやることは沢山あるよ)

(は、はなしぇ~)


 歩き出したミカドをヒョイッとくわえると、ジタバタと抵抗するのも構わず森の中へと消えていく。

 その場にはミカドの叫び声だけがしばらくの間残っていたのだった。






 そして今日もまた虎太郎の部屋に造られているミカド専用のベッドからムクッと起き上がると、しばらく会うことのできない青年を呼ぶ。


「にゅぅ~……」


 「早く帰ってきてよ」まるでそう聞こえるかのような鳴き声は誰にも聞こえることもなく、無人の部屋に消えていった。ミカドはゴシゴシと顔をこする。


(きょうこそ、お母さんの目を盗んで二人の後を追いかけるんだ)


 そして今日もやはりミカドの試みは失敗に終わるのだった。


キタ━━゜+.ヽ(≧▽≦)ノ.+゜━━ ッ ! ! !

開幕戦久々に勝利!! 今日は最高に気分がいいので、ちょっとした番外編のようなものにしてみました。

新規に番外編として投稿したほうがいいか悩みましたが、とりあえずこのまま投稿してみました。どうしたらいいものか……。

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