聖樹
「おぉ!! これがエルフの町ですか」
「そうよ! これがエルフの集落の一つコロの街よ」
ビオレラは驚くオレの様子にかなり嬉しそうである。
オレははるか頭上を条件反射的に見上げた。
「でけぇ~……」
そしてでけぇ~。思わず二回言ってしまうほどのでかさである。
あいたたた!?
あまりの大きさに見上げていたら首が悲鳴を上げる。なんと恐ろしい木だろうか。長旅で疲労のたまっているオレにはちょっと危ない動作である。
「こんなので怪我していたらシャレにならん」
とは言ってもこれは現代人に当てはまる人の多い肩コリの人には特に気を付けてもらわないといけない動きである。なぜかというと首から肩にかけてこっている人、この場合は自覚的な感覚に限らず人が触ってこっているなと感じる場合もそうだけど、固くなっている筋肉にこれだけ見上げるような動作をある意味無意識的にやってしまうと結構な割合でピキッて痛みが走ってしまってもおかしくはない。先ほどのオレもそうであったが、あまりの大きさについどこまで続いているのかと上を確認してしまう。ここで重要なのがオレが頭で考えずにこの動作をやってしまっていたことにある。特にそうであるが意識的にやっている時に比べ、無意識的にやっている時では痛みの起こり方はかなり変わってくる。う~ん……そうだな……簡単に言えば同じ重い物を持ち上げるのにしても、十分に気合を入れて慎重に持ち上げようとするのと、何気なしにフッと持ち上げようとするのでは全く違うということである。当然どっちが痛めやすいかはわかると思う。そういう意味で非常によくない場面であった。もうひとつわかりやすい例を出すとすれば寝違えであろうか。それの痛さを経験したことのある人も少なくないと思うが、寝違えの原因も今の場面と同じである。おそらくほとんどの人がそうであろうが、寝ている時に意識して寝返りを打っている人はいないと思う。そういわれてしまえば当たり前のことであるが、眠っている状態なので無意識的に姿勢を変えているということである。つまり無意識的な動作にあたるのである。最初の話に戻るが、固い筋肉は傷めやすい。寝違えが多い人は肩や首の筋肉が固いよとか言われたことがないか思い出してもらえるとおそらく一度や二度、もしくはもっと言われたことがあると思う。
説明が長くなってしまったが、というわけでオレからは敬意を表して首殺しの木と名付けよう。英語的に言うとネックキラーだろうか。なんか厨二的な響きであるがかっこいいと思ってしまうのは現代っ子として許してほしい。ネックキラーの木か。いいね。
「アンタまさか聖樹様に変なこと思ったりしてないでしょうね」
「ギクッ!?」
なんて鋭いやつ。いつも思うがエルフっていう種族は相手の考えていることがわかるのだろうか。
「コタローも前教えたからわかっていると思うけど、私たちにとって聖樹様はアクナ様、ミカド様たち神獣と並んで、もっとも尊い存在なんだからね。私はともかく、中にはホント神格化してるエルフたちもいるから間違っても侮辱にとられるような言葉は言わないでちょうだい」
「善処します」
すでにここ何日かで3回は聞いたセリフであるが一応気を付けようと心に誓う。
「ちなみにちょっと気になるから、なんて思ってたのか言ってみなさい」
「え? ちょっとそれは……」
そんなこと言えるわけがない。ネックキラーなんて言ったが最後下手したら生きていられるかどうか。オレとしてはまだ死にたくはない。
「まあいいわ、今回は許してあげる。だけど次はないわよ」
「はい……」
次がないってことはまさか殺されるってことだろうか。ビオレラに限っては冗談で終わりそうにないからマジで怖い。かわりにビオレラのことをジョークキラーと呼ばせてもらおう。もちろん心の中で。
オレは再び視線を巨大なオブジェクトに向ける。ゆっくりと視線を全体には走らせれば所々に明かりが灯り、まるで巨大なイルミネーションのようである。
もはや超巨大なクリスマスツリーだな……。いったいどれくらいあるのだろうか。
オレは目の前にそびえ立つ巨大な幹を見てふと思ってしまう。世界遺産にも認定されているとある日本の島にある木などは比較にならないほどである。オレ自身実際に見たことあるわけではないが、とてもとてもそんなレベルでないことはすぐにわかる。およそ数百メートルというレベルでの円周はあるだろうか。地面に根ざした本体を上にたどっていけば数十メートルというところで大きく左に枝分かれしていくのが見える。分かれていく部分も幹に匹敵するほどの太さを持っており、そこからさらに細かな枝えと分岐していく。本体に目を戻せば、さらに同じようなものが次々と広がっており、天辺などとてもじゃないけど見えそうにない。
なんだこれって感じだな。さすがファンタジー
あまりの壮大さにしばし言葉を失ってしまった。
「木の中に街がある……」
本当に言葉にするとそんな感じである。無数に枝分かれする枝の間にはよく見ると足場のような、通路のようなものが数多く張り巡らされていて、一つ一つの道を目で追っていくと幹を利用した家が目に入る。どの家もこの木の枝をうまく利用したつくりになっているように見える。ある家は大きな幹を支柱にして、またある家は大きな枝をくり抜いて、はたまた別の家は無数の枝を屋根にするように造られていた。かといってそれだけでもないようだ。とても奇抜なデザインをした家や、一般的な小屋そのままがボンと造られているものもあるようだ。
オレは視線を再び下に戻す。根元からは大きな螺旋階段が頂上に向かって延々と続いていていた。
「あれ登っていくんですか?」
「当たり前でしょ」
マジか。オレは意気揚々と進んでいったエルフをとぼとぼと追いかけて行ったのだった。




