嫌いなものは後回しでしょ
「―――これからのことを考えてお前のことを話しておこうと思うがどうだ?」
「そうですね……」
オレはそれにおけるメリット・デメリットを思い浮かべる。
まずどうしようか…。
嫌なのからいくのもなんだし、メリットの方から考えてみようか。何を隠そうオレは嫌なものは後回しにしちゃうタイプである。もちろん嫌いな食べ物は最後まで取っておく。これはオレにとって常識。そのせいで小学校の給食に出たブロッコリーを食べられなくて、放課後まで居残りさせられて食べさせられた苦い思い出がある。「私は食べ終わるまで帰さないよ」とか妙に給食のときだけはりきっていた担任のせいで、その年はいい思い出よりもそちらの方が強く思い出されてしまう。多分わかってくれる人もいるんじゃないかと思うが、どう頑張っても食べられないものは食べられないのだ。結局どうにかしてごまかそうと、給食袋にこっそり入れて見たり、食べたふりして帰り際に吐き出したり色々頑張ったものである。まあ最後はだいたい担任の方が根負けするのだが、当時のオレにとってはそのやる気をぜひ違うところに向けてほしかったものだ。もちろん今は当時の先生に感謝している。嫌いな食べ物を作るのはよくないですからね。ただ、ブロッコリーはいまでも絶対に無理だ。誰になんと言われようと不可能。
なんかいやなことを思い出してしまったな~、閑話休題。
話を戻そう。メリットとしては単純に協力者が増えるということである。自分が今後この世界で何をしたいのかということにもなってくるが、仲間が増えれば自分のできる事の幅も大幅に変わってくるだろうし、元の世界に……ということは……うん?? ちょっと待てオレ。急ブレーキ並みに待て。今さらながらふと思ったことだが、オレ……この後というかこれからどうしようか。笑い事ではなくマジで何も考えてなかった……。まさかずっとここに居続けることもできないだろうし、そうしたら外の世界に出ることになるだろうか。そうしたらある程度の社会的な繋がりは持っておくに越したことはないし、ましてビオレラさんの様な口はピー(自主規制)だが超絶美人なエルフさんなら尚更のことである。前半部分はまあおいて置いて、よくよく考えたらこの世界において信用できるのは今のところエノーミさん、アクナさん、ミカちゃんの一人と二匹だけである。よくよく考えたら人よりもその他の方が多いという事実はどうなのかと思ってしまう。地球でいったら知り合いが一人と二匹なんてことになったら、「どこのニートだよ」ってなことになってしまう。今の時代だったらありかもしれないが、それはそれで悲しすぎる。家にいるのもいいかもしれないが、とりあえずがんばれ現代人!!
なんか余計な話に入ってしまったが話を元に戻すと、メリットは知り合いが増えるということである。
逆に言ってしまえばそれが最大のデメリットでもある。自分でいうのもなんだが、ことこの世界において自分はかなりの異分子である。それがはたして受け入れてもらえるかそれが問題となってくる。オレの考えを言えばビオレラさんは信用に足る人物であることはよくわかる。ちょっとエノーミさんを信仰し過ぎのような気もするが、口がピー(本日二度目の自主規制)であることを除けば素晴らしい人物である。おそらく外の世界でもかなりの知名度のある人物なのであろう。まだ少ししか話してはいないが、いやだいぶ毒舌を吐かれたがそう言ったオーラというか、すごい人的な雰囲気は感じてくる。
だが一人に話すということはそれだけ周りに知られてしまう危険が増えるということでもある。いくら秘密にしようが、隠している事実というものはひょんなことから知られてしまうものである。それがたとえ本人にその気がなかったとしてもだ。ひとたび周りに知られてしまえばそれが広がっていくのを止めるすべはもはやない。それこそ驚くほどの速さで広まっていくだろう。
一番の懸念はそこである。だがそんなことを言っていては何もできないのも事実である。
どうしたらいいものか……。
でもまあ別にいいか。なんかいちいち考えるのもめんどくさい。それにオレはそういうの気にしないし。もし何かあれば、その時で考えればいい。いい意味でいえばボジティブ? 人間いつでも可能思考で行動しないとな。とはいってもガラスのハートの持ち主としてはあまり変なこと起こって欲しくはないのだが。
「というわけでいいですよ。ただあんまり広められても困りますけど」
「何がというわけでなのかはわからないのだがいいのか? いくら私から言い出したこととはいえ断ってもいいんだぞ?」
「別に問題ないです。オレとしてはあんまりそう言うこと気にしないので」
「そうか。くどいようだがもうちょっと考えてもいいんだぞ?」
「大丈夫ですよ」
エノーミさんって意外に心配性なんだな。オレのことを気にしてくれているっていうことなんだろうけど、ちょっと意外である。エノーミさんなら「そうか」とか「わかった」とかこんな感じに一言で片づけそうなイメージがあるがそうではなかったようだ。なんだか少し可愛くも感じる。
「どうした? なにか言いたげだな?」
「いや。何でもないです」
アブナイ、アブナイ。微妙にだが可愛いだなんて思っていたことを感づかれたらしい。ちょっと目つきが怖くなってる気がする。にしても本当にあの人の洞察力は超人並みだな。うかつに変なことも考えようものなら……考えるのはやめよう。気を付けろオレ。
「オレとしては違う世界から来たということに関しては、いまさらどうでもいいって言ったら語弊があるかもしれないですけど、そんな程度のことなんで気にしないでください」
「そうか。そういうことなら私としても助かる」
「ちょ、ちょっと待ってください」
ビオレラさんが慌てたように言った。
「今サラッとすごいことを言ったような気がするんですけど、もしかして違う世界から来たとか言いませんでした?」
「言ったけど……」
オレの言葉に固まるビオレラさん。そしてようやく声を絞り出す。
「嘘じゃないわよね?」
「ええ」
「にゅあ~」
「……もういい加減頭痛い」
おっと。いつのまにかミカちゃんが起きていたようだ。お昼寝していたミカドもかわいいが、やっぱり起きているミカドもかわいいな~。そしてなぜだかビオレラさんの頭に乗っかってキュートなお手手で側頭部をばしばし叩く。
「こらミカちゃん! なんて可愛いことをしてるんだ。止めなさい」
オレが萌え死んでしまうじゃないか。
「そうじゃなくても叩かれて頭痛いって言っているじゃないか。危ないからせめて爪だけはしまいなさい」
「頭が痛いのは全部あんたのせいよ!! むしろ爪をしまうくらいなら叩くな!」
「ですよね~」
「にゅ~」
頭を抱えながらミカちゃんと一緒に怒られてしまったのだった。