たしかにその気持ちはよくわかるが
「そうか。わかった!」
そうだ、そうすればよかったんだ。なんでオレはこんな簡単なことに気が付かなかったのだろうか。
突如、俺の頭には流れ星のようにきらりといい考えがふってきた。思いのほか簡単な解決方法に、オレは自分自身を罵倒したくなる。
「ほい」
「キュ?」
オレは抱いていたミカドをヒョイッと彼女の前に差し出す。
名付けて‘ミカちゃんで彼女をおとなしくさせよう作戦’。その名の通りミカちゃんを使って彼女を虜にしてしまおうという作戦である。ミカちゃんのかわいさはそれこそ一撃必殺。例えて言うならマ○オRPGに出てくるジーノカッターであろうか。これわかる人がなんにんいるかな~…………。ミカドのかわいさはあれ級に反則である。オレ自身なぜいまさらこんな古くて微妙なたとえを出してしまったかはわからないが、オレにとってそれほどジーノカッターは衝撃的であったのであろうといわざるをえない。まあ、いいや。話をもどそう。つまりこの世にミカちゃんを見てかわいいと思わない生き物は確実に一人も、もしくは一匹も存在しない。それくらい断言できるだけの破壊力を持っている。そのミカドを抱っこさせようものなら、それこそ言うまでも無くいちころである。たとえ彼女であっても秒殺であろう。
「なに? 人質をいまさら返そうっての?」
「そうじゃなくてこの子を抱っこさせてあげるようと思って。それに人質だったらわざわざこんな風に渡そうとしないでしょ」
「……確かにそうね」
彼女が単純で良かった。オレには罠をだとかそんな考えなど全く持ってないからいいものの、普通なら何かの罠だと思わないのだろうか。まあ、この場合はラッキーだと考えるべきか。
「ほらどうぞ」
「……いいの?」
「もちろん」
やはりと言うべきか、彼女もミカちゃんに明らかに興味津津である。さきほどまでのとんでも勘違いによる敵対心はすでにはるか宇宙のかなたに忘れ去られていた。
「なら」
そう言うと彼女はおそるおそるミカドに手を伸ばすとゆっくりと抱き上げる。そしてまるで爆弾でも扱うかのようにやさしくミカドの背中をなで始めた。
「どう? かわいいでしょ」
「…………」
彼女はミカドを抱いたまま、じっと沈黙している。突如オレの言葉に一向に反応しようとしなくなった。黙したままゆっくりとミカドのことをなで続けている。
「あの~。今度はどうしましたか?」
さっきまでの勢いはどこへ行ってしまったのだろうか。まるでぜんまい式の人形のようにミカドをなでると言った単一の動きをひたすら繰り返している。ミカドを使って静かにさせよう作戦はおそらく成功したみたいだが、なんだか静かすぎて逆に不気味になってくる。
「じゃあ、もうそろそろミカドをかえs」
「キャー!! 超かわいい~。もう最高」
彼女は突然叫びだすと、ミカちゃんを力いっぱい抱きしめる。
「クキュ―――!?」
「あ~、もうかわいすぎる」
抱きしめている腕がなかば三角締めのようにミカドの首を絞めている。あれで息ができるのだろうか。ミカちゃんは苦しそうに声を上げる。
「クキュ―」
「あ~もう、なんでこんなふさふさしてるの」
強く抱きしめられたミカドは次第にぐったりとしてきている。
「クキュ……」
「お人形みたい。もうお家に持って帰っちゃおう♪」
おい、まてまて。そこのお前。なに勝手に持って帰ろうとか言っているんだ。勝手に持って帰るな。ミカドのお持ち帰りなんて半端な金額じゃできないんだぞ。……そういうわけではないか。
そうだ。そんなことよりも、
「早く離せ!」
確かにかわいいのはよくわかる。よ~くわかるぞ。ミカちゃんは最強最高にかわいいからな。だからこそ、オレもこんなへんてこりんな作戦を考えたわけだ。それは不可抗力であるし、しょうがない。だが、しかしそろそろ離してやらないとマジでミカちゃんが窒息死するぞ。
「流石に早くその腕を離してあげないとやばいと思うんですが」
「……イヤよ。なんでこんなかわいい子を離さなければいけないの」
おっと、これは……。予想外のまさかの展開。どうやら予想以上のミカちゃんの破壊力に彼女の理性は耐えきれなかったらしい。すでに正常な思考は失われてしまっているようだ。おそろしやミカド。そして、なんておそろしい子。
さてさて。こんな馬鹿なことを考えている暇はない。これは本格的にやばい。
オレは迷わずこの身に魔力を循環させる。ミカちゃんのためなら迷わず実力行使。
しかし、その瞬間何者かの放った魔法が彼女めがけて襲いかかる。鋭い電撃が彼女を襲う。
「クッ」
予想外の出来事に彼女は何とか身をひねりかわすも、ミカドを抱きしめていた腕には思わず力が抜ける。
「ニュ~」
「あ、待って」
ミカドはこのすきに素早く彼女の腕から抜け出すと、一目散にオレの胸めがけてダイブしてくる。
グブ……。痛い。けど我慢。スピードに乗ったミカドをキャッチしたオレのHPは思いのほか削られたが、まあしかたがない。もとはと言えば彼女に渡したオレがいけないんだし、ミカちゃんには悪いことをした。
お~、よしよし。よくがんばった。
オレはミカドの頭をポンポンと軽くたたく。
「オマエはこんなところで何をやっているんだ」
そうだ。忘れてた。いまさら魔法の飛んできた方に目を向けると、そこにはエノーミさんが立っていた。
「先生!」
彼女は先ほどまでのことはなかったかのように満面の笑みでエノーミさんのもとに駆け寄る。あれだけミカちゃんのかわいさにご執心だった風だったのにこの変わりよう。いやはや、彼女もまた恐ろしい子。オレはあきれた目で彼女を見つめるのだった。




