もうやだ……
Side 虎太郎
人一人簡単に殺せそうなほどの威力をもった雷魔法が、音を立てこちらに向かってくる。と言っても、実際はコンマ何秒も無いわけだが、その僅かな間にオレは思考をフル回転させる。
こうなったら、しょうがない。やるしかないか。
オレは素早く魔力を循環させることにする。
バン!
まるで何かが衝突したような音な、はじけるような音が響き渡る。
そして思い通り雷撃はオレの手前で何かにぶつかったかのように阻まれた。いや消失した。
あぶね~、ぎりぎりだった。
オレは直撃する寸前に魔力を直接相手の魔法にぶつけさせてもらった。先日エノーミさんに教えてもらったばかりだが、早速役に立った。
ふ~。オレはため息とともにしみじみと思う。教えてもらっといてよかった。そうでなくては今頃は……。うん。考えるのはやめておこう。一番初めの頃のポ○モンに出てくるクロこげになったサトシがちらりと思い浮かんだ。あのころのピ○チュウは生意気だったな……。
それにしても、このエルフさんはかなり好戦的なのにもかかわらず、相当高レベルの魔法使いであったことはちょっとした驚きである。そういう細かいことは性格的に得意そうではないんだけどな。
しかし、まあ状況的にけっこうまずいわけだ。魔法とは起こしたい事象を明確にイメージし、コントロールすることが何よりも重要である。そうでなければ、なにが起こるかわかったもんではない。たとえば現在のように、あまり広くない家の中で魔法を使うような状況になったとする。通常相手に向かって魔法を使うなんてことは滅多にないだろうが、さっきのエルフさんみたいに魔法を使うとしよう。今回はオレが防いだからいいが、もし魔法をオレがかわしていたら、もしくは魔法が外れていたらどうなるだろうか。当然言わなくてもわかるだろうが家の中はめちゃくちゃになり、それだけにとどまらず火事になったり家が吹っ飛んだりしてしまうだろうことは容易に想像できることだろう。
自分で言っていて思う。
魔法こえーな。おい。考えるだけでも恐ろしい。
しかし、必ずそんなことが起きるわけではない。魔法を正確にイメージし、コントロールできていればそんなことは絶対に起きない。オレだけをビリビリにしびれさせたいと明確にイメージできていれば、たとえオレがかわそうと、魔法がはずれようとその他の物に影響を及ぼすことはない。つまり家の中がめちゃくちゃになることも、なにかに火が付いて火事になることも無いわけだ。つまり非常に高等な技術が必要なのである。
そしてオレには魔力の流れを見ることができるので、すぐにそれがわかった。
さてどうしたものか……。
オレは一人頭を悩ませる。力づくでこちらもいくべきか。でも彼女はエノーミさんの知り合いであることは予想できる。だからあまり手荒な展開にはしたくないな。むしろこんなきれいな女の子に手を上げることなどオレには無理だ。たとえきれいじゃなくても女の子なら無理だ……。……本当だよ。何か痛い視線をあちこちから感じるが気にしないもん。かといって、いい案もない。
本当にどうしたものか……。
「ねえ。さっきは私の魔法に何をしたっての?」
やっぱり彼女も疑問に思っているか。そりゃそうだよな。なんせ魔法を使わずに攻撃を防いだんだから。普通はありえないことである。そう普通は。しかしなんと説明したらいいものか。
「ふ~ん。教えたくないってわけか」
「別にそう言う訳ではないんですけどね。ただどう説明したらいいものか」
彼女は探るような視線を向けてくるが「まあいいや」と言って話を続ける。
「それよりもアンタ。そんなに悠長にしていていいのかしら。私は早くこの場から逃げた方がいいと思うんだけど。まあ、どっちにしろ私に捕まえられることに変わりはないんだけどね」
彼女は悠然とほほ笑む。
確かにオレだって逃げられるなら、逃げたいんですけどね。だけどその前にアナタが襲ってきたんですよ。なんかここだけ聞くとピーな気配がするな。
彼女は再び身体中に魔力を循環させ始めた。
「今度はさっきみたいに手加減しないわ。そうね……死んだらごめんなさい」
彼女はまったく悪びれる様子もなく恐ろしいことを言ってのける。
おいおい。死んだらごめんなさいっておかしくないですか? マジでどこかの漫画じゃあるまいし。しかし彼女が本気で言っているところが、また非常にめんどくさいところである。
そして彼女の身体に魔力がまぶしいくらいに充満する。
オレはそれに対処するべく身構えた。
「キュー、キュー」
いつのまに起きていたのだろうか。突如オレの腕に抱かれている生き物が強烈な叫び声を上げる。
強烈な音の波が鼓膜を激しくふるわせた。
うおっと。
思わず反射的に耳を押さえてしまう。
いったいどうしたのミカちゃん。大きい声を出すなら出すって言ってほしい。
意識が彼女に対してだけ向かっていたため、想像以上にビックリしてしまった。未だに心臓がドクドク言ってるし。耳もキーンとしている。どうやら彼女も同様のようだ。
「ミカちゃんどうしたの?」
オレはなおも叫び続けるミカドをなんとか落ち着かせようとする。今は向かい合っている女の子よりもミカドの方がはるかに重要である。しかし、こんなミカちゃんを見るのは初めてである。一体どうしたらいいんだろうか。
「キュー、キュ」
まるで何かを訴えかけるかのように腕の中で暴れ続ける。
「え? あれはまさか……」
何か女の子が言っていたようだが、どうしたのだろうか。
オレはちらりと彼女の方を見やると、なにかとても驚いているかのように目を丸くしている。いったい何をそんなに驚いているのだろうか。
「ちょ、ちょっとアンタ。その腕の中にいるのってまさか……」
まさか……ってその先を言ってくれないと何を言いたいか皆目わからないんですけど。まさかなんなんだろうか。
「なんでそんな軽々しく触ってるの? 早く離しなさいよ!」
触る? いったい何の事を言っているのだろうか。オレはセクハラをした覚えはないんだが……。いきなり犯人にされても困る。一種の人権侵害だ。
しかし彼女の視線はミカドに集中していた。
あ~なるほど。そういうことか。ようやく彼女の言いたいことを理解した。
「そう言われましても、いつもこうしてるし……」
オレはようやく落ち着きを取り戻してきたミカドのアゴをすりすりとなでる。
やっぱりミカちゃんをなでていると落ち着くな~。
「は? アンタ何ふざけたこと言ってるの」
「別にふざけてはいないですけど。ホントのことだし」
「だってその子は白虎様のご息女様じゃないの?」
「そうですけど……」
オレはミカドの前脚をつかむとその柔らかくてとろけそうな肉球をぷにぷにする。いつもながら完ぺきなさわり心地。完ぺきな柔らかさ。
お~、この感触。やっぱりミカちゃんの肉級は最高だな。
「あ! ま、まさか白虎様を人質にして逃げようって考えなの?」
ガクッ。身体の力が一瞬で抜け崩れ落ちそうになる。どうして彼女はそういった考えしかできないのだろうか。もうやだこの子。いい加減疲れた。
「は~……」
どうすればこの場を収束できるのだろうか。オレはミカちゃんをなでながら疲れた頭を酷使して考えるのだった。




