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異世界で治療師  作者: にくきゅう
プロローグ
3/47

面白いことなどそうありはしない

 誤字脱字等ありましても、笑ってスルーしていただけると幸いです。



「今日も疲れた~。しっかし、この先どうしようかなぁ……」

 

 バイト帰りに自転車をこぎながら、疲れた頭を休めるように空を見上げる。漆黒に染まった空には自分の存在を主張するように星々が光り輝いていた。


 本当にきれいだ。最近は夜空を見上げるなんてことは久しくしていなかった。思わぬ発見に、ある意味感動ものである。星の名前は正直全然わからなかったが、見ているだけで十分満足感に浸ることができた。そういえば、小中学校の授業でプラネタリウムに行ったり、星の名前を授業で勉強したっけ……。まあ、そんなものは全く俺の頭の中には残っていないが。むしろ元から入ってなかったか。こんな綺麗なものなら、名前ぐらいちゃんとやっておけばよかったかな。今さら思うがもう遅い。


 これが都会から離れた田舎なら、もっとすごい光景になるんだろう。俺はとりとめもなくそんなことを考えてしまう。 


 俺、斎藤虎太郎は現役の大学3年生である。大学では生物学を専攻し、それなりにまじめな学生生活を送っていた。将来は大学で勉強していた知識を生かし、生物・食品系の研究者や企業に就職したい……と当然ながら思っているわけがない。自分で言うのもなんだが、俺にはいま夢がない。やりたいことがない。世の中の大学生なら、共感してくれる人も多いと思うが、明確な夢や希望を持って大学を選び、学部を選択する人はそう多くないと思う。むしろ、そう言った人間は一部なのではないか。いまある学力で行ける大学、少しでも周囲に聞こえのいい大学を選び、自分の将来を大学生活のなかで探していく。こういった事を言っている人、言っていた人、もしくは思っていた人。絶対身近にいるのではないか。俺自身、その一人であった。



 しかし、俺もずっと夢がなかったわけではない。

 実家は世間一般では珍しい、鍼灸院であった。鍼灸と言えば知らない人も多いと思うが、人の体に鍼をさしたり、お灸をしたりすることで種々の病気やけがを治療する仕事である。ツボといえば知っている人も多くなるとは思うが、ツボに鍼やお灸をするのが鍼灸である。  


 なぜか、家には大勢の地元の人たちが通院し、この業界では珍しく人の出入りは激しかった。両親の人柄がよかったからなのだろうか。少なくとも俺はそう思っている。俺は子供時分から親の仕事を間近で観察し、治療に関して興味があったこともあって、一時期それなりの勉強をして知識を得た。自分で思うが、勉強中の学生やなりたての人たちよりはよっぽど出来るんじゃないかと思っている。本当だよ。別に自慢するわけじゃないけど、うそ抜きで。


 でも、自分のやりたいことではなかった。治療すると言うことに対して興味はあったし、やりがいもあった。医者でもなんでもいいので、医療関係の仕事に就きたいと思っていた時期もあった。けど、なにかこう…違った気がしたのだ。口ではうまく言うことはできないが、自分のやることは別にあるような気がしたのだ。まあ、ただ単に大学に通ってみたいと思っていたのもあるかもしれないが。


 そう言う訳で、一生懸命勉強し見事有名大学と呼ばれるところに入学することが出来た。俺自身よく頑張ったと思う。その甲斐あってか、大学生活、俗に言うところのキャンパスライフは本当に楽しく、日々学友たちと、およそ大学生しかすることのできないノリでばか騒ぎをしていた。女の子にもそれなりにもてていたし、勉強も順調に消化できていた。自分でも最高の学園生活であると思う。


 でもやっぱり、時間と言うものは日々流れていくものである。時は残酷であった。いったい誰が最初にこの名言を言い始めたのだろうか。そいつ天才だろ。ノーベルなんたら賞をあげたいくらいだ。もちろん勝手にだが。


 まあ、それは置いといて、もう俺も大学3年生。将来のことを真剣に考えていく時期に差し掛かっていた。大学に進学したらやりたいことも見つかるだろうと思っていたが、当然やりたいことなんて簡単に見つかるはずもなかった。あと半年もすれば、就職活動と言う名の世間の荒波に飛び込んでいかなければいけないだろう。


 あ~あ。マジでどうしようか…。考えすぎてうつになりそう。


「代わりに、何か面白いことでもないかな~」



 最近の口癖であり、俺はよく現実逃避できるものを意識的に探してしまう。ジブリアニメじゃあるまいし、空から女の子が降ってきたり、図書館で同じ本を同じタイミングで女の子がとろうとしたりなんてことは起こるはずがない。そんなものあるはずはないのだが、止めることはしない。

 毎度毎度、自分自身の突拍子もない考えに、俺は一人苦笑してしまう。

 あ~、バカらしい。


 俺は無意識のうちにこいでいる自転車に意識を戻すと、早く家に帰ろうとこぐ力を強めた。


 うん? あれ、おかしい…。何か地面がでこぼこになった気がする。まさか、そんな道はないはずなんだけどな~。

 家までは坂道などは多いが、全て整備されたきれいな道だ。工事中の所もなかったはずだ。いや、でもでこぼこしてる。俺の違和感はどんどん強まった。

 やっぱりおかしい。そんなことを思っていた拍子に俺は自転車ごと大きくバランスを崩し、地面に投げ出された。


「いてて……」



 俺は盛大に一回転すると、大きく背中を地面に打ち付けた。しかし、コンクリートの割にはそれほどの衝撃はなく、むしろ何かやわらかい地面に落ちたような感触だ。もちろん痛みはあったが、とっさに想定していた衝撃が訪れなかったことになんだか物足りなさを感じてしまった。


 ……いやいや、俺はMじゃないよ。れっきとしたS……じゃなかった。そんなことは今はどうでもいい。誰にともなく突っ込みを入れると、瞬時に目を開けた。


 確認しておこう。まず現在の体勢は自転車から投げ出され、大の字で地面に横たわっている状態である。ここは屋外。目を開ければ否応もなくその視界には、満天の星空が飛び込んでくるはずである。

それはそうだ。確かに満天の星空が見える。輝く星々。漆黒の空には星々がさきほどと同様、自己の存在を主張するかのように美しく光り輝いていた。


 そこまでは問題ない。だが実際どうだろうか。


「…………あ~あ、田舎に来ちゃったか」



 俺は無意識のうちにそうつぶやいた。

 けっして、ギャグを言ったわけではない。ふざけたわけでもない。無数の星々が視界を埋め尽くし、さきほどまでと比べようがないほど圧倒的な光量がその目を支配する。もはや、日本で観測できるような星の数ではない。


「地球でもこんな星の数見られるとこあんのか?」



 俺は冷静に突っ込む。確か南米辺りの山頂ですごい数の星を観察できるって、テレビでやっていた気がする。まあでも、ここはそんな場所のはずがない。俺は先程まで日本のS玉県にいたはずだ。さらにいうなら、自転車をこいでいた。まさか無意識のうちにそんな所まで、自転車をこいでいたとしたら俺はもう人間として終わっている。そもそも物理的に出来ないし。いや、待てよ…。もしかしたら、本当に自分はおかしくなっているのかもしれない。おいおい、うそだろ。俺は常に冷静でいると自負していた自分をより落ちつけて考え始める。


 よし、まずは自分の名前から確認しよう。斎藤 虎太郎……、よしOKだ。大丈夫。年齢は21歳。大学3年生。おし、ここまでは問題ない。趣味はエレキベースとフットサル。座右の銘は『継続は力なり』。好きな食べ物はマーボー豆腐。嫌いな食べ物はおでん。


 俺だ。間違いなく意識、記憶は正常のはずである。

 え…? 確認するものがおかしい? 何言ってんのおかしくないでしょ。


 俺はゆっくり起き上がると、おそるおそる周囲を確認してみた。

 暗い。まあ、夜なのだから当然ではあるが。しかし、圧倒的な星明かりが思いのほか暗さを感じさせない。徐々に目も慣れてきた。そしてわかったことがある。地面は明らかに柔らかな土に変わっており、周りには木々が生い茂っていた。鬱蒼と生い茂る木々をかいくぐって、星の光がところどころに地面を明るく照らす。ここはどこか森の中のようで、ちょっとした広場のようなところに俺は横たわっていたようだ。


 まあ、どう考えてみてもこれは、異世界トリップってやつだよな……。

俺はため息をつく。落ち着いて考えてみても、ここは日本ではない。もしかしたら地球のどこかであるという可能性も無い訳ではないが、オレはそうではないと確信している。


「まあ、なんというか……。テンプレと言えばいいのかな」

 俺は苦笑いを浮かべると、森の中に向かって静かに歩き始めた。


 夜空には、月のように煌々と光る三つの星が夜空にその身を浮かべていたのだった。


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