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幸か不幸か


「にゃ~」


 地面には寝転びながらまるで身体の埃を落とすかのようにぐるぐると回転し、楽しそうにはしゃいでいる生き物がいる。

なんて愛らしい姿。そしてなんて平和な光景。

 しかし、ここで重大な決断を下さなければならないようである。オレはミカドに対するその認識を少々改めなければいけないようだ。かのイギリスで起こった産業革命のような変革である。


「なんて恐ろしい子。さすが神獣……」


 オレは先ほどまでとは違った面持ちで、このモフモフでまっ白く愛らしい虎を見つめるのだった。





 ことはおよそ数十分前までさかのぼる。


 オレとミカド(主にオレ)は内心ギャーギャー騒ぎながらも男らしく逃げるのをやめると、オーガと正面切って戦うことにしたのだった。そしてオレはミカドに励まされながら、戦うのに適した場所を探していた。そう、その時オレが考えていた計画はこうである。


 オーガを攻撃するのに視界の良い場所。つまり開けた場所に敵を誘導する。グガー(注:オーガの怒った声)と追ってきたオーガに地の魔法を使い、その動きを拘束。身動きのとれなくなった所を少々痛めつけて、俺たちの強さを思い知らせる。グガガガー(注:オーガの捨て台詞)とオーガは森に逃げていく。


 まあ、ざっとこんな感じである。説明するのに要した時間約7秒。我ながらなんて適当で、いい加減な計画なんだろうか。子供にさえ馬鹿にされそうだ。いや、そんなことはない。オレはもう一度、計画を思い返してみる。……確実に馬鹿にされるな。とは言っても、幸か不幸か、こんな陳腐でいい加減な計画が実行に移されることはなかったのだが。


 まず結果論でいえば、確実に不幸の方であったな。オレの計画の方がはるかに良かった。

では、実際はどうなったのであろうか。結果的にはオレの計画と最後の部分だけはまるっきり一緒である。オーガを懲らしめることに成功し、グガガー(注:オーガの捨て台詞)と見事に森の中へ逃げ帰っていく。まさにオレの描いていた通り。計画と寸分たがわぬ光景を見ることになったのだ。

 結果オーライ? ただし、オーガの発するガの数が一つ足りなかったな。残念……。しかし、最早そんなことはどうでもいい。結果以前にそこに至るまでの過程が問題であった。


 正直に言うと、こんなことになるならオレが魔法でやった方がはるかに良かったと思う。確かに結果的には同じであるかもしれない。だがオレはもっと静かに事を運びたかった。わざわざ開けた場所に誘導しようとしたのも、周りの自然や動植物、魔物などに、もしかしたら被害を与えてしまう(オーガが暴れることによって)かもしれない事を考慮して決めたことである。エノーミさんやアクナさんにも以前言われたことがある。何かあったとしても極力森の中を荒らすようなことにはしないでくれと。この森には貴重な動植物が多かった。当然のことであろう。それに、もし凶暴な魔物が集まってきたら嫌じゃん。実際のところ、だからこそオレは逃げるのをやめ、平和的に終わらせたかったのだ……。オレだってちゃんと考えているんだよ。


 

 オレはため息をつくと、二人にどう言い訳したらいいか考える。

 まさかこんなことになるとは。


 オレはいやいやながらも、もう一度現場に目を向ける。

「あ~やっぱりマズイな」



 目の前からある一部分の直線状、見える限りはるか前方に向かって、鬱蒼と生い茂っていた木々がなぎ倒されていた。正確に言うと、根元から少し上ですっぱりと真っ二つにされていた。とてもとても容易には切ることのできないような太い幹を持った木々がそれはもう見事に乱伐されていた。

 まるで台風の後か!

 そう突っ込みたくなるほど、ちょっと前からは想像もできない、ありえない光景である。もちろん、そのエリアにはちょっと前までの森の面影など全くと言っていいほど存在していなかった。今は森林伐採後の山のように、根元だけの木々がきれいに残っている。


「あ~あ……。どうしたものか」


 オレは事の元凶であるこの生き物。地面に寝転ぶまっ白い生き物を見やる。

 

 ……なんてかわいい。


「…………」


 じゃなかった。馬鹿かオレは。かわいいなんて、そんなのあたりまえじゃないか。……そっちじゃないか。そんな悠長なこと言っている場合ではない。今はこれからどうするか考えなければ。


 ここでとりあえず、簡単にでも何があったか説明してみたい。

 ざっくりと言えば、ミカドがズガーンと魔法でやってしまったわけだ。


 はい、おしまい。めでたし、めでたし。

 というのが、今の状況である。


 今度はもうちょっと詳しく説明することにしよう。オレは自身の計画通り、開けた場所にオーガを誘導。予定通り、地の魔法を使うべく魔力を身体に循環させようと身構えた。ここまでは、計画通りだった。そうここまでは。しかし、ここから思いもよらない出来事が起こり始める。偶然にもオーガの周りを飛んでいた蝶々を一匹、オーガが握りつぶしてしまったのだ。確かにオーガにとっては周りを飛ぶ蝶々は目ざわりであり、特に意味もない何でもない行動だったのであろう。もちろん、オレにとってもなんらおかしくのない光景に見えた。しかし、若干一名、いや一匹。この行為に対して非常にお怒りになったお方がいたようだ。そういえば思い返すと、蝶々と遊ぶの好きだったなミカちゃんは。よくいっしょに戯れていたのを思い出す。つまりオーガはミカドを怒らせてしまったようである。


 そして、ミカドが思いもよらない行動に出る。たいそうお怒りになったミカドはオレが止める間もなく頭の上から飛び降りると、状態を反らし反動をつけ、空中で勢いよく両前足を振りおろす。当然ただ前足が空を切っただけではない。そこには恐ろしいほどの魔力が込められていた。瞬時に魔力が解き放たれ、風の魔法が炸裂する。


「ズガーーーン!」

 

 そして、ウィンドカッターよろしく風の刃が木々を真っ二つにし、現在のような状況になったわけである。魔法に関してはオーガをぎりぎりかすめるだけにとどまった。しかし、それだけで効果は十分である。オーガは一目散に逃げて行った。



「にゃ~、にゃ~!」

 

 実にミカドは満足そうだ。もう目がキラキラしてるし。


 しかし、どうやらミカドも未だ自分の力のコントロールができていないようだ。魔法はオーガに当たらなかったし。もしくは、わざと外したのだろうか。確かにそう考えることもできるな。


「にゅ~?」


 真相はミカドにしかわかるべくもないが、今はどっちでも構わない。


 まあこれがさきほどの出来事の全容である。


 結局この場をどうしようか……。オレはじっくりと考える。


「別にこのままでもいいかな」


 よくよく考えたら、やったのはオレでなくミカドである。オレがやったのであったら、某エルフさんと、某神獣さんに半殺しの刑にされても文句は言えないだろうが、ミカドなら大丈夫であろう。なんせ神なんだし。神なら何してもオールOKじゃない? それにミカちゃんはかわいいし。かわいければ多少のことがあっても許される。世界とは不平等この上ないな。かわいく生まれたミカちゃんが羨ましい。


 という訳でこのことは気にしないことにしよう。いや、むしろすっぱり忘れよう。


 オレは再びミカドを抱き上げると、心なしか早足でその場から立ち去ったのだった。


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