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意外に・・・・・・


「ふと思ったんですけど、魔物と動物の違いはなんですか?」


 オレは不意にエノーミさんに訊いてみた。


「違いか……。どうしたんだ急に」


 エノーミさんは興味深そうに笑っている。


「特に意味はないんですが、よくよく考えたら魔物と言っても極めて動物っぽいものもいますし、そのあたりはどうなっているのかなと思いまして」

「ふふ。なんだ。別に実際、その通りだよ」


 エノーミさんは面白そうに笑った。


「魔物とは種の数が多すぎて分類できない物を、私たちが単に魔物と呼んでいるにすぎない。だから見た目、動物にそっくりな種や、似ている種はたくさんいるから外観で決定することはできないな」


 コタローの考えていたこととそう違わないな、とエノーミさんは言う。


「でも決定的な違いもある。魔物は魔力を使うことができる」



 この世界、グアスには多種多様な魔物が生息している。人型を保ったものから、はたまた想像もつかないような奇抜な形をした魔物まで。オレ自身まだそんなにお目にかかったことがないので、ぜひとも見てみたいなというような、見てみたくないような微妙な気分ではあるが、この森でさえもたくさんの魔物が生息している。しかし、一口に魔物と言ってもいろいろなタイプがいることがわかった。



 思い出したくもないが、異世界トリップ初日and二日目、あろうことか二日連続で追われる羽目になったオーガ。肌は緑で目が一つ。初め見たときは気持ち悪かった。今でこそ慣れたが、最初は戸惑ったものだ。


 

 オーガは基本的に人間やドワーフ、エルフなどに対して好戦的であり、自分たち同種族以外には排他的である。このような魔物を人間およびエルフ、ドワーフの間でランク付けすることにした。ランクによって報奨金をつけ、人々に視覚的に危険であることをわかりやすくした。それは過去の被害や魔物の純粋な力、個体数を含めて総合的に判断されたものである。



 Eランクから始まり、D・C・B・A・Sと魔物の危険度によってランクが分かれている。実際オーガはランクではBランクになっており、魔法を使えない者にとっては相手にできない魔物である。なぜかといえば、Cランク以上の魔物にはほとんど物理攻撃が効かないからである。厳密に言うと、魔法を使うことのできない一般人には、ということだが。というのも、身体強化の魔法を自身にかけているため、Cランク以上の魔物は物理攻撃が効かないほどの防御力を持っているからである。程度の差こそあれ、常人の力程度では到底かなわないのだ。物理ダメージが与えられないとなると、普通の者、主に人間にとっては脅威である。その上魔法を攻撃に使ってくるようになる。魔物とはけっこうやっかいな相手なのであった。



 一般的にE・Dランクの魔物であれば、魔法を使えない人間でもなんとか相手にできる。C・Bランクになると、魔法を扱える人間なら相性等もあるが、きちんとした人数がそろい、その中で経験さえしっかりしていれば、なんとかなると言ってもいい。しかしAランク以上となると話は違う。BとAの間にはかなりの隔絶した力の差があり、実際Aランク以上の魔物を相手にできるのはかなりの実力者でなければできない。Aランクの魔物を倒すことができれば、その名前は国中に瞬く間に知れ渡ると言っても過言ではない。それぐらいAランクの魔物は強力なのだ。



 そしてSランクの魔物。これは存在数自体が少なく、滅多に見ることがない。まあ、頻繁に見ることになったら大変な事態であるが…。基本的にSランクの魔物は人間に干渉してこないものが多い。定説としてひっそりと人の踏み込めないような奥地に住んでいるということだ。なぜかはわからないが……。人間にとっては非常にありがたい話である。よって実際はランク付けをする必要はないのだが、ごくたまにSランクの魔物が人前に現れることもないわけではないので、その力が確認された魔物に関してはとりあえずSランクとしてしまっているらしい。他にもこのようなタイプの魔物は多く、好戦的な魔物は全体の10パーセントであるということだ。


「ふ~ん……」

「なんだ、なんか納得してなさそうな顔だな」


 オレは無意識のうちに唸るような声を出していたようだ。


 確かにエノーミさんの言うようにオレはあまりしっくりときていない。魔物は人を襲う凶暴な生物だと勝手に想像していたオレは、大半の魔物がいわゆる普通に暮らす生き物だと知って何か違和感のようなものを感じている。多いか少ないかは個人の考え方にもよると思うが、魔物=凶暴というイメージを抱いていた自分にとっては、少々拍子抜けさせられる割合ではある。つまり全体の90パーセントの魔物は人に対して、基本的に無害であるということになる。なんとなく魔物が普通に暮らしていることは想像しにくい。さらに人型に変化することのできる魔物は人間に混じって生活しているものもいるということだ。


「では、人間の中に混じっている魔物とは魔物として人間の中で暮らしているんですか? それとも人間になりすまして暮らしているんですか?」


 う~ん、とエノーミさんは遠くを見ながら少し考え込む。


「……そうだな。どちらもありえる。だが基本的には後者のほうが圧倒的に多いと思う」

「まあ、普通に考えたらそうですよね。それで実際、人間に混じっている魔物の正体がばれたりはしないんですか?」


 オレは素直な疑問をぶつけてみた。


「どうだろうな。だが、自ら言わない限り99パーセントばれることはないと言っていい」

「ふ~ん。そうなんですか。ちなみに魔物だと正体がばれたときはどうなるんですか?」

「たいていは、人間たちが排他的な行動をとるか、魔物自身が姿を消すかどちらかだな。まれにそのまま受け入れられるケースもあるようだが、それは本当に稀有な場合のみだな」


 まあ。確かにその通りであろう。この世界の種族や人間がどのような性格をしているかは、地球に暮らしていたオレにとってわかるべくもないが、一つの意思を持つ個体として生物が存在している限り、どんな世界においても大なり小なり問題は起こるはずである。ましてや、違う種族同士。いかに他種族が暮らす世界であると言っても、問題が起こらないはずがない。


「私の友人の一人に人間の中で暮らしている魔物がいるが、そいつは一部の者には自ら正体を明かしていたな」


 もちろんその中の一人に私は含まれているが。エノーミさんはそう付け加えた。


「ちなみに、どんな魔物さんなんですか?」


 オレは特に考えることなく、思ったことを訊いてみた。


「ほ~。気になるか。まあ、コタローにだったら教えてもいいかな」


 予想に反して、エノーミさんは思いのほか、もったいぶった様子である。

 なぜだか、いいたくてしょうがないような顔をしている。


 なんだか嫌な予感しかしない。まさか、聞いてはいけないことだったか。オレは急に不安になる。知ってしまったら最後、どっかの組織から刺客が襲ってくるようになるとか、夜うなされるようになるとか、そんなことだったらノーサンキューである。


 ぎゃー、どうしよう。どうするべきか。やばい……、自ら地雷を踏んでしまったか……?


「あいつはSランクに属する魔物だ」


 うん? 気のせいか今Sランクという声が聞こえたような。


「どうした、どうした。驚きすぎて声も出ないか?」


 嬉しそうなエノーミさんをよそに、いまだ混乱中のオレ。ゆっくりと思考回路を整理する。いい加減、モデム回線を卒業して光回線に移行したい。そこまでいかなくてもせめてブロードバンドくらいには……。


 Sランクの魔物か……。なんだそんなことか。ようやく、頭の中の整理が付き落ち着きを取り戻す。よかった。なんだSランクの魔物って程度か。こちとら、それよりも将来の身の危険を考えてしまったぜ。


 でも、まあわかったことがある。


「魔物って以外に普通なんですね」


 エノーミさんには『いったいお前はどんなイメージを持っていたんだ』とからかわれたが、地球に暮らしていた自分にとっては、そういうものなのかと思わざるを得ない。


 グアスにおける魔物とは、広い意味で人間やエルフ、ドワーフとなんら変わらないものではない。そう自分の中で割り切るようにする。考えを改めることにした。今までのイメージは脳内のメモリーから消去しよう。


 今度、魔物にあったらちょっと違った風に見ることができるかな? オレは自問する。オーガに出会ったらどうなるだろう。怖いとか思わないかな?



 ……オレは一人苦笑する。いや絶対に無理だ。オーガはオーガだもん。

 まあ、いつも通りオレはオレらしくマイペースにしていればいいか。オレは自分の中でそう結論付けたのであった。









 


「え―――――――――、Sランク~~~!?」

 30分後、オレの悲鳴がその場に響き渡ったのだった。 



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