二度あることは三度ある
二度あることは三度ある。日本では有名なことわざである。小学校低学年の子でさえ知っているようなだれしもが知っていることわざであり、けっこうな割合で使われる言葉である。さもあろう。それを身をもって体感したことのある人も少なくないはずである。日常における些細なことから、人生に影響するような大きなことまで、大小様々な場面でこのことわざはその真価をいかんなく発揮してくる。時には人々の爆笑を誘い、場の雰囲気を大いに盛り上げる。時には周囲の人間を唖然とさせ、人間関係を醜悪にさせる。時には全く必要ないような偶然をKY的ノリで乱発する。
もし人にたとえたら、なんて気まぐれな奴。そう言ってしまえばそれまでである。だが、しかしこの気まぐれが今現在、とんでもなく迷惑な状況である。簡単に言えば、ものすごい迷惑な気まぐれを連発させられたのだ。
「マジで、ふざけんな!!!」
オレは叫び声を上げつつ森の中をひた走る。
「ニャー! ニャー!」
「ちょっと、なにミカちゃんは嬉しそうにしてるの」
きっと、遊園地のアトラクションにでも乗っているような感じなのだろう。必死に逃げるオレの頭の上に乗り、追いかけてくる敵から逃げる。何かの乗り物に乗って、敵から逃げる。まるで本当にSFをテーマにしたどこかのアトラクションにありそうである。
だが、オレはそれどころではない。もはやおなじみと化したアイツから逃げ延びねばならないのだ。そう、みんなはもうわかるよね。
「なんで、オーガばっかりでてくるんだよ」
向こうにしてもかなり迷惑させられているに違いないだろう。また、こいつか! みたいな。とは言っても、オーガはたくさんいるから、今まで出合ったオーガとは違うと思うんだけどね。
……とは言ったものの。しかし、なんだな。勢いよく逃げ始めたはいいが、はっきり言って余裕である。ちょっと拍子抜けである。後ろを振り返ると、はるか後方にオーガが追走してきていた。心なしか息も絶え絶え、苦しそうである。
……おかしいな。まさか、身体強化の魔法を覚えたおかげで、こんなに常識外れの力を手に入れているとは。もはや逃げることに関してはなんら問題はない。むしろ、オーガと戦ってみても勝てる……と思う。多分。以前、別の魔物であったが森の動物たちや魔物を手当たり次第に襲っている奴がいるということで、エノーミさんと供に退治に言ったことがあった。まあ、実際は主に見学しているだけであったが……。
エノーミさんによると、そいつはルベガンと呼ばれる熊みたいな魔物で、ランクはオーガと同じBランクであるということだった。Bランクということで異世界トリップ早々の嫌な記憶を思い出したオレは、その時それはそれは緊張していた。だってやられる=死ぬってことだからね。魔法こそ使わない魔物と聞いていたが、いざ相対すると平和な地球に暮らしていた自分にとってはやはり怖いと言わざるをえない。しかし、そんな緊張もすぐにばかばかしくなってしまった。ルベガンには気の毒ではあるが、エノーミさんが魔法を一発放つと、跡形もなく消え去った。文字通り瞬殺である。圧倒的なまでの力、いやむしろルベガンがかわいそうだと思えるほどの光景。なぜだかその様子を見ていたオレは心底面白おかしくなってしまった。緊張していたのがあほらしいほどに。その時から魔物相手でも、ある程度であればオレでもどうにかなりそうな気はしていた。
そして今は駆け出しであるが魔法を使うことができる。それなりに強力な魔法もいくつかは使えるようになっていた。すげーよ、オレ。あらためて思う、オレって本当に魔法使いになっちゃったんだな。
というわけで、あの時とは状況がまるっきり違う。さてどうしようか。ここは男らしく逃げるのをやめて、正面から立ち向かうべきか。いや正面は危ないからちょっとずれて斜め45度くらいからにしよう。……別に怖いからじゃないよ。ただ論理的に行動した方がいいと思っただけだからね。つまり、選ぶべき選択肢は二つに一つである。
「にゅ~!!」
オレ頭の上から力強い鳴き声が聞こえる。どうやらミカちゃんは逃げないで戦えと言っているようだ。さすが、神獣。勇ましいことこの上ない。確かに、そうだ。成り行きとはいえ、世界のトップである神の名付け親であるオレがオーガごときから逃げ回っているようでは、ミカドの面目丸つぶれである。それにここで逃げていたらミカドにかっこ悪い姿を見せることになってしまう。ミカドの声を聞いたらなんかいける気がしてきた。
「よし、やるか!」
オレは逃げるのをやめると(実際はなんら変わらず逃げているように見えるが……)、魔法を使うのによさそうな場所がないか森の中を見渡す。
「にゃ~~~」
ここらなしかミカちゃんの声も嬉しそうに聞こえる。オレが戦うことにしたのを歓迎しているかのようだ。
「さて、どうするか」
オレはこの場で使えそうな魔法を頭の中で反芻する。森の中であるし、地の利を有効に使って戦うべきだな。
「よし!」
だが、それにしても、一つ言いたいことがある。
「痛い……」
先ほどから興奮しているミカドがバシバシとオレの頭の上をたたく。嬉しそうなのはよくわかるが、いい加減頭の上で暴れないでほしいな~。マジで爪刺さって痛いから……。まあ、かわいいから別にいいけど。オレはミカドを精いっぱい甘やかして育てているからしょうがないことではある。だってもうフサフサ、モフモフしててかわいいんだもん。アクナさんに怒られそうだが、躾なんて最早どうでもいい。こんなに嬉しそうなミカちゃんに怒るなんてことは死んでもできない。ミカちゃんにはこのままミカちゃんらしく育ってもらったら、それで満足である。多少わがままに育っても、女の子はそれぐらいの方が可愛いんだもん。
……なんか、オレキャラ変わってきたな。むしろ本当はこういうキャラだったのか?
オレは複雑な気分で頭の上の白い塊に思いをはせるのであった。
いつもいつも、話の切り方がよくわからない作者のにくきゅうです。