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森の入口


 空は青く澄み渡り、心地よい風が木々の葉を揺らしている。どこまでも突き抜けていきそうな透き通った空には、かすかに小さな雲が流れていた。



 オレはというと現在エノーミさんに出された課題を勇敢にも中断し、ミカドとのお散歩をするため、小屋裏の森に分け入っている。人が歩くために舗装されているような道などはなく、でこぼことした地面がとぎれとぎれに続く。けもの道と思しき道もそこかしこにあり、少しでも奥に入っていこうものなら、さまざまな生き物の気配を色濃く感じさせる。しかし森の中といえども日中はそこまで暗くはなく、以前エノーミさんが遊びがてら作ったという目印や標識が立っており、深くまで行かなければ迷ったりする心配はなかった。



 そして時々ではあるが、オレは山に自生している茸や山菜、その他木の実などをエノーミさんと取りに来たりしていた。この周辺だけでしか採れないというラロ茸は非常にうまいのだ。オレも初めて口にしたときはそのおいしさに感動したものだ。いや本当にうまかった。特にあぶりにして食べたときの香ばしさと言ったら……。地球にいたときに松茸を食べたことはなかったが、こういうものなのかなと思ったりした。



 そして治療師になる勉強の一環として、そしてこの世界で生きていく知恵として、森の中で何が食べられ、何が食べられないか。そして森の中の歩き方や危険な動物、魔物などそのあたりはしっかりとエノーミさんからレクチャーを受けていた。まあ、実際は食事当番をつかさどることになった手前、そのあたりを知っておく必要はあったということもあるのだが……。なので森の中に来ることに関してはもう大分慣れていた。


「ニュー! ニュー!」


 ミカドは生まれ故郷である自分の森に、さっきからはしゃいでばかりいる。言い忘れていたが、ここはアクナさんの森である。文字通りアクナさんの支配する森。神獣と呼ばれている神が暮らす森。呼び方は場所によっていろいろと違っているらしいが、いわゆる神域というやつだ。広大な森の外側にはアクナさんによって作られた強力な結界が張られており、人間の立ち入りは容易に許さない。人間とドワーフだけに限って言えば、この森に入ることのできた人間はほとんどいないらしい。そのため、現在森の中には動物と魔物以外だとエノーミさんと自分しかいない。だからこそ、エノーミさんはここで暮らすことにしたらしいが……。

 いったいふたりはどうやって知り合ったのだろうか。尋ねてもきっと教えてくれないだろうが、考えれば考えるほど謎は深まるばかりだ。



「にゃ~!」



 ミカドはよほどうれしいのだろうか。先ほどからずいぶんご機嫌である。かわいいな~、もう。なんかオレまで嬉しくなってくる。はしゃぐ姿もまた一段とかわいい。どれだけこの子はオレを萌えさせれば気が済むんだ。近いうちに萌え死ぬことも覚悟しとかなければいけないかもしれない。だけど頭の上であまり暴れないでほしいな。ミカちゃんのお手手にはそれはもう鋭い爪があるんだからね……。


 ちらほらとではあるが、森の中心に向かうにつれて猿や鹿のような小動物が目に入ることも多くなっていきた。魔物などにはまだ遭遇していないが、ただ動物に関して言えばこちらを見てはすぐに逃げて行ってしまう。ミカドとしてはそれがたいそう納得がいかず、不満のようである。動物が現れる度においでとばかりに声をあげるが、向こうはすぐに逃げて行ってしまう。



「よしよし。ミカちゃんはお友達を作りたいんだよね」

「ニュ~……」


 ミカドは落ち込んだ様子で、切なそうな声を出す。


「ミカちゃん、それはしょうがないことなんだよ。なにせ君は動物たちにとっては恐れ多き存在なんだからね」

(にゅ~……?)


 ミカドはよくわからないよ、と言うように首をかしげる。


「何でもない。いいんだよ、気にしなくて」


 オレはミカドの頭をなでなでする。

 ミカドは全ての生物の頂点に立つ神獣である。この世界のヒエラルキーの頂点に位置するもの。だから動物が怖がるのもしかたがない。姿かたちこそモフモフしていてかわいいが、向こうは本能的に理解しているのだろう。近づきがたい存在だと。


 オレは幾分悲しそうに鼻を鳴らしているミカドをなだめつつ、さらに日光浴でもしようかと森の奥へと進んでいくことにした。


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