運動は重要?
後ろをちらりと振り返る。
オーガは変わらず追ってくる。
もうそろそろヤバいな。マジでどうするか。
疲れた体で、なんとか頭の中を落ちつけ、思いつく限りの手立てを考える。
まず、逃げる。それはもうすでにやっている。ド○クエで言えば戦闘コマンドで逃げるを選択しまくっているが、素早さが足りず逃げられない状況だ。
そして次に考えられること。じゃあ、戦う。考える余地も無く瞬殺されるのがおちだ。俺はRPGでいったらレベル1の人間である。スライムでも倒せるかどうか。そくゲームオーバーである。
なら、道具を使う。今現在オレの手持ちは一万円の入った財布と、腕時計。
一万円渡せば見逃してくれるだろうか。オーガに一万円を渡している俺を想像してみる。
「…………喰われた―――!」
俺が差し出した一万円もろとも、無残に喰われるイメージが浮かぶ。
バカか俺は。何を考えてんだ。金(日本円)を魔物に渡して見逃してくれるわけないだろ。
バカなことを考えていたら余計疲れた。
足が重い。腕が痛い。
俺は昨日以上にあまり運動をしていなかった自分を恨んだ。
逃げるのは無理。戦ったらゲームオーバー。使える道具はない。
将棋なら完全に詰んでる。こっちは飛車・角・香車・桂馬落ちでやっているようなもんだ。いや、絶対にそれ以上だな。最早同じ土俵で戦うのが間違っている。
結局、有効な手立ては浮かばない。
「はー、はー、はー」
もう息もかなり上がってきた。体力的に限界である。
「うわっ」
やばい…。俺は足をもつれさせると、地面から伸びていた根に足を引っ掛ける。なんとか足を動かしバランスを戻そうとするが、疲れた体ではそれも不可能だった。
俺は前のめりになって激しく地面にダイブした。
こいつだけはなんとか助けないと。
とっさに子猫(仮)を俺の体でつぶさないよう、瞬時に目に飛び込んできた草むらに向かって投げる。
アイツは?
すぐに子猫を確認する。どうやら柔らかい所に落ちたようで、衝撃は少ないようである。俺は安堵した。しかし、すぐに駆け寄ろうとしたが身体はうまく動かなかった。酷使した身体は一度動きを止めてしまうと容易には動いてくれない。必死に身体を起こすが、状況は最悪な方向へ向かっていた。
オーガを確認する。
「グハッ!!」
こけていた間に目の前まで迫っていたオーガに蹴り飛ばされた。視界が急激に回転する。
ぐるぐると回転しながら地面を転がった。
いってー!!
どうやら鎖骨と上腕骨が折れたようだ。腕を動かそうとすると、身体に激痛が走る。動かすことはできるから、完全骨折ではないな。あ~あ、骨が太くなっちゃうな。無駄な考えが瞬時に頭をよぎる。
そうだ、オーガは?
オーガはすでに子猫の手前まで到達しており、勝ち誇った顔を醜く浮かべていた。無防備であったオレに襲いかかって来ることはなかった。オレの存在など見向きもしていないように思える。やはり、あの子猫(仮)は特別な存在だということなのだろうか。
オーガは低い声で叫び声をあげると、子猫をつかもうと前に出る。
「させるか!!」
俺は何の考えもなしに、オーガに向かって突っ込む。身体の痛みなど、頭の中には認識されていなかった。ただ、子猫を助けるという気持ちだけが、身体を動かしていた。俺はオーガに体当たりをかます。もう、計画も何もない。ただ突っ込んでいった。
不意を突かれたオーガはバランスを崩し数歩よろけるが、ただそれだけであった。走っていった勢いと捨て身という俺の切り札を持ってしても、魔物との体重差には全く太刀打ちできなかった。
オーガはすぐに体勢を整え、手にした棍棒を俺に向かって振り下ろす。
捨て身で突っ込んで行ったため、俺はバランスを崩していた。もうよけられない。
これまでか…。
俺は思いの他あっさりと自らの生をあきらめることができた。死への恐怖は驚くことに全く感じられない。もうだめだという危機的状況が、感覚を麻痺させているのかもしれない。きっとそうだ。後悔の気持ちは微塵もなかった。俺の力は出し尽くした。あれほどの怪物に対して、かなりの時間善戦したのだ。まあ、主に逃げるだけだったが。
そして最後にやっぱり思う。もう少し運動しておけばよかったなと。
俺は目を閉じこの世に別れを告げた。
願わくばこれが夢で、 元の世界に戻れますように。
実は明日プロ野球開幕なのを今知った……。
期待のルーキーたちはどうなるのかシーズン終了後が楽しみだな。