あ、そうなんだ……
「それでなんなんですか?」
(昨日から何やら落ち込んでいる様子じゃったからな、我なりのギャグのつもりだったんじゃが、どうじゃ?)
ギャグかよ!
なんてたちの悪いギャグ。まあ、悔しいが確かに今ので気持ちが心なしか軽くなったことは否めない。どうやら余計な気を遣わせてしまったようだ。
「それは助かりました。ありがとうございます」
(そうか。それはよかったの)
それからは終始沈黙が続く。アクナさんを見ると、前足の上に頭をのせそのまま目を閉じ軽い眠りに入っているようだ。エノーミさんはというと飲み物片手に黙々と本を読んでいる。どちらもマイワールドという感じだ。オレは朝ごはんを無言で食べ終えると、頭の中で整理していたことをエノーミさんに話すことにした。昨日の夜からずっと考えていたことだ。
「それで、私に何か言いたいことがあるんじゃないのか?」
どうやら、オレの考えなどお見通しだったらしい。エノーミさんはちらっと本から目をあげると、こちらを覗きこんだ。
そんなにわかりやすかったのかなオレ? まあ、それにしてもさすがエノーミさんということか。
「それじゃあ、お言葉に甘えまして、簡潔に言わせてもらいます。実は昨日エノーミさんの治療の様子を見ていまして、正直感動しました。自分は元の世界で目標もやりたいことも何もない人間でした。でも昨日の治療を見ていまして、これが自分のやりたいことではないかと直感しました。お願いします。治療術をオレに教えてください!」
深々と頭を下げる。
「断る!」
「返答はやっ!!」
まさかそう来るとは。オレも断られることは当然想定の範囲内であったが、ここまですっぱり言われるとは思っていなかった。予想以上に敵は強いようだ。これは某RPGⅥに出てくる序盤のボスキャラ、ム○―並みの強さだ。こいつには昔相当に手こずらせられた。しかもセーブがしょっちゅう消えるから途中で嫌になるんだよなあのゲーム。なんか懐かしい。
「それにしても、もうちょっと考えてくれてもいいんじゃないですか?」
「だってめんどくさいだろ。わざわざ私がこんな森の中に住んでいるのも、他人との煩わしさから離れるためなんだ。なのになんでその必要がある」
おっと。当然の切り返し。確かにそれはそうだ。ごくあたりまえの主張である。だがしかし、これは予想していた答えであり、オレもしっかりと返しは考えておいた。
「この家の家事はもちろん、雑用でもなんでも言われたことはやります。迷惑はかけません。だからお願いできませんか?」
見るからにこの家の散らかりようだ。この手の需要は絶対必要に違いない。それと、オレは料理に関してもかなり自信がある。エノーミさんはめんどくさがりそうだから、ここを強く推していくことにした。
「う~ん、それは確かに魅力的だな。でも、私はゆっくりと落ち着いた生活がしたいんだ…」
「それなら、無駄な雑用とかめんどくさい家事はオレがやりますんで、エノーミさんはそのぶん楽できるじゃないですか。治療術は息抜き程度で教えてくれればけっこうですし」
「そうだな~……。どうしようか」
よし!
作戦成功。かなりの効果あり。エノーミさんは明らかに悩んでいる様子である。これはもうひと押しでいけるかもしれない。
「この家に掃除する人は絶対必要です」
なんせこんな汚いんだから。
「おい最後の聞こえてるぞ!」
やべ! 声に出してのか。しまった。思わず心の声が出てしまったか。あ~失敗、失敗。
「今のも聞こえてるぞ。まあいい。なんかその言われようはえらい頭に来るな。でもそういわれると、そういう人がいてもいいかもしれないな」
(エノーミじらすのも、もうその辺でよいではないか)
不意に、今まで眠っていたアクナさんが話に割り込んでくる。そして、なぜかあきれた様子をしているように見える。
(やれやれ。そういう所は昔からのお前の悪い癖じゃぞ。ベスクの件もお主が余計なことをしたせいでややこしくなってしまったんじゃろうが。よもや、あの時の被害を忘れてはいないだろうな。コタローも真剣な様子であるし、もう意地悪もその辺でいいではないのか。そもそもコタローには治療術を教えるつもりだったのであろう)
「まあな、あっさり教えるって話になってもおもしろくないし」
「……」
うわ~、あっさり……。なんていうか、なんか今日ははめられてばっかりな気がする。こっちは真面目に話してたのに…。昨日から悩んでいたのが馬鹿みたいじゃん。
「悪かったな。別に悪さをしたかったわけじゃあないんだ。まあ、それも少しはあったが……」
そっちも心の声聞こえてるし!
エノーミさんはボソッとつぶやく。
最後は小さな声であったがしっかりとオレの耳には届いていた。エノーミさんに悪気がないのは明らかだから別にいいんだけど。オレもやったし。
それにしても疲れた。そもそもオレは大学時代からあんまりいじられるキャラじゃなかったから余計にこういう感じは慣れない。
「それじゃあ、治療術を教えてくれるってことでいいんですか?」
「ああ。そのかわり、さっき言った家事のことは忘れるなよ」
「……」
ちゃっかりとその部分は聞き逃していなかったようである。
「なんだそのじと~っと目は。さっき自分で言ったことだろう?」
「……別に」
オレは意図した訳ではないが、某女優並の名言が自然と口から出ていた。
まあそれではあっても結果として教えてくれるなら大成功である。そもそも家事・雑用程度で家に住まわせてもらって、その上に技術を教えてもらおうなんて虫のいい話はどこにもない。十分感謝しなければいけないことである。
「それで、そもそもなんで治療術を教えてくれることになっていたんですか?」
(それはお主の魔力が娘の魔力と信じられないくらいに混ざりあってしまったせいじゃ)
予想に反してアクナさんから答えが返ってきた。
「まあ、そう意味のわからなそうな顔をするな。順を追って説明していこう」
エノーミさんは淡々とした様子で話し始めた。
「まずはアクナの娘であるがもうなんともない。すぐに目も覚ますだろう。と言っても少々特殊な状況だから思いのほか時間はかかってしまうかも知れないがな…。でも昨日のコタローが治療をした時点ですでにもうなんともない状態ではあったから心配はない」
「そうだったんですか」
それはよかった。
うん? でもそれなら昨日のエノーミさんの必死な治療はなんだったんだ。少なくとも2~3時間は治療をしていた。それを見てオレはやる気になったわけだし……。まさか遊んでいたわけでは……。
「まあそれは当然の疑問だな。それは今から説明する」
エノーミさんはこちらの考えを読んでいたかのように話を続けた。
「その話の前にまずコタローには知っておいてもらいたいことがある。それは一般的に言う魔法だが。一昨日私が火をつけたり消したりする簡単な奴を見せたよな。あれと昨日コタローが行った魔法もしくは私がおこなった治療が前者と別物であると知っておいてもらいたい」
あ、そうなんだ。せっかく魔法を使えたと思ってたのに……。
オレはちょっとした、いや重大な事実にショックを受けたのだった。
書くことも特にないので、とりあえずたまたま今頭に浮かんだ、自分の小説を書きながらよく聞いている曲を紹介しようと思います。
Inspiration/Gypsy Kings
私自身が敬愛してやまないあの時代劇のエンディングテーマにもなっている曲で、言わずと知れた名曲ですね。本当に何回聞いても癒されます。