イッツ シュール!
「朝か……」
いつもより沈んだ気持ちで目が覚めた。見慣れない木目模様の天井がここはどこだろうと、一瞬疑問に思わせる。
そうか、ここはエノーミさんがオレに貸してくれている部屋だ。
オレは徐々に頭の中を覚醒させていく。
残る眠気を振り払い、改めて部屋の中を見渡す。余計な物は一切ない。……と言いたいところだがそんなことは決してなかった。物は有りすぎるほどある。
本やら分厚い本やら古ぼけた本やら破れている本。
ここは書庫か! と突っ込みたくなるほどに本があふれ返っている。なぜならエノーミさんの物置きと化していた部屋(本人曰わく客間)を使わせてもらえることになったからだ。見る限りぎっしりと本の山ができている。本当に文字通り山だ。いったい何冊ぐらいあるのだろうか。見当もつかない。強いて言えば、う~ん……やっぱわからん。ちなみにちらっと本をめくってみたが全くわからない文字で書かれていた。どの本でさえ全く読むことができない。文字はギリシャ文字に似ているようにも思えるがアルファベットというより、記号的雰囲気のほうが強いようだ。どうやら読むことに関してはできないようで、会話とは別口のようである。ちょっと残念。でも言葉が通じるだけ暁光である。
他には貴重そうな絵画や重工そうな箱がやたらと目についた。その辺に転がっている物も多々ある。軽い気持ちで中を確認してみようものなら、漫画やアニメに出てくるようなきらびやかな短剣がでてきたり、赤や青の宝石で彩られた超高級そうなブレスレットなどが入っていた。ちゃんと管理しろよな、おい。オレはそう思いつつ蓋を閉めもちろん中を見なかったことにした。当然だろ。こんな貴重そうな物がこんな乱暴に置いてあるわけがない。いや転がっているわけがない。そんなずさんな管理をする人はこの世にいないと信じたい。というわけで、昨日1日でなんとか住めるぐらいの空間には仕上げた。
ふ~。疲れたな昨日の掃除は…………。もうこのことは忘れよう。
ベッドから起き上がり昨日走り回ったせいで重たい身体をゆっくりと伸ばしていく。筋肉痛が辛い。主に足よりも腕のほうに痛みが走る。
がんばって腕振って走っていたんだなオレ。昨日の頑張りを称賛したくなる。それと同時にモヤモヤとした気持ちも振り払えないかと頭を空にしてみた。こういう時は身体を動かし、何も考えないのが一番。丹念に柔軟を繰り返す。しかし、やはり身体とは違い気分は複雑なままだ。全く改善される気配がない。むしろ意識しないようにすればするほど、時間と伴に気分は重たくなってくる。
「なんでなんだろうな…」
そうは言いつつ、自分の中で理由ははっきりとしている。それはどんどんとオレの頭の中をかき乱していく。
理由は簡単だ。なぜオレはこのような気分になっているかというと昨日エノーミさんの治療もとい真剣な様子にショックを受けたからだ。少なくともそう思っている。間違いはないはずだ。その時からこんな気持ちになったからだ。普段のさばけた感じとは違うまじめな表情と雰囲気に当てられたからだと思う。命に対して真剣に向き合う様子。他者に対して真剣に何かをするということ。自分の中で求めているものにたどり着いたような感覚。一種気後れした感じは否めない。尊敬と言ったら違うような気もするが何かこうモヤモヤとした気分が晴れない。いったいなんなんだろうか。オレは微妙な気持ちを引きずったまま部屋を出た。
「やあ、おはよう。ようやく起きたか」
(コタローは起きるのが遅いの~)
[……]
「なんだそんな口を開けたまま突っ立って、まあ遠慮せずに座りなさいよ」
(そうじゃの。もしや腹が減りすぎて動けんのか? 飯ならエノーミが作ったから
座って食べるがよいぞ、我も今食べ終わって食後のお茶を飲んでいるところじゃ)
……それは見たらわかる。確かにわかる……が、何かおかしくないか? オレはとりあえず言われたとおり手じかな椅子に腰を下ろし、もう一度考えてみる。やはりおかしい。これはオレの気のせいではないようだ。
まず状況を確認しよう。エノーミさんとアクナさんは食後のお茶だろうか、一服しているところのように見える。テーブルの上には食べ終わった食器とその他もろもろ。間違いはないはずだ。それは確実。そしていつもどおり散らかっている。片づけてから食えよ、汚いな。……まあそれはいい。今回はどうでもいい。だが、いかんせんおかしいところがある。まずこの人。エルフ族のエノーミさん。彼女はといえば椅子に腰をかけ足を組み優雅にお茶を飲んでいる。うん。これはおかしくない。とても絵になっている。だが、こいつ。この神獣ことアクナさん。勢い余ってこいつとか言ってしまったが心の中でなので問題なかろう。そう、こいつが原因だ。
『そんなに我のほうを見てどうしたんじゃ?』だと。なんだ、まるでこのオレがおかしいみたいな流れ。この中になじんでいるのはいい。おかしくはない。だが、
「カップ持てるんですね…」
アクナさんは床にべったりと腹をつけ、いつも通りのリラックスした体勢である。が、なんと器用にも前足でカップをつかみお茶を飲んでいるではないか。それも流れるように優雅な動きで。オレの違和感を感じさせないほどに洗練された動きである。一瞬騙されかけた。これが普通のことのように。
虎って指あるの? まさしく疑問である。
(なんか文句あるのか?)
どうやらアクナさんのご機嫌が悪いほうにむかっているようだ。よし、このことは全力で忘れることにしよう。
それにしても
「イッツ シュール!」
虎がカップを持ってお茶を飲むとかありえなさすぎる。あまりに平然としているので自然と和んでしまった。不思議の国なのかここは。まあ、よくよく考えると間違ってはいないが…。という訳で突っ込みを入れようか迷ったが止めておくことにした。おそらく無駄なことだろうから。
(落ち着いたか?)
チッ。わかっててやったんかいこの人は。
してやったりという風なアクナさんである。どうやらこの人にまんまとはめられたようだった。
久しぶりの投稿です。
活動報告書いてみました。