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オレもなでたい!

ものの数分で目的地に到着した。実に速いことこのうえない。

よかった……。

 家の前にはすでにエノーミさんが立っていた。

 その顔には疲労が色濃く残っているように見えるが、やはりよほど急いで帰ってきたのだろうか。


「それでアクナの子は大丈夫なのか?」


 走って近づいてくる仕草からも、らしくなくとても焦っているようだ。声にはいつもの落ち着きが感じられない。白虎とは、神とはよほど重要な存在であるらしい。友人の娘であるからとも考えられるが。


(大丈夫だ。今のところ魔力塊の影響もそれほどない。後はエノーミがマナをうまい具合に調和させてくれれば問題ないはず)

「そうか。それはよかった」


 エノーミさんはあからさまにほっとした様子で長々と息を吐く。そしてゆっくりと丹念に虎ちゃんの傷を確認する。


「だが神獣であってこの年齢。そしてこれほどの傷。よく魔力塊の影響が出なかったものだな。お前には悪いが正直助からないと思っていたが」

(ああ。まさにその通りだ。我も覚悟はしていた)

「ではなぜだ? 単に運が良かっただけなどと非現実的な事を言うのか?」


 アクナさんはオレに会ってからの一部始終をエノーミさんに語った。

 

 ふむふむ。自分がしたことではあるが改めて聞いてみると何か無性に恥ずかしい。そして申し訳ない気分になって来る。いや~、若い。オレって意外に若かったんだな。よくわからんが、良かった良かった。


「コタローがしたのか……晶壊術を?」



 エノーミさんは驚きよりも先に疑いの目を向けてくる。

 まあ、確かに疑ってかかって当然だと思う。なんせ自分でも嘘ではないかと疑っているくらいだ。



「本当にコタローがやったのか?」

(我も最初は信じられなかったが、聞くところによると魔力塊がその目で見えるらしい)

「なんだと……」



 今度こそエノーミさんはその綺麗な目を見開き、驚きで固まった。しばし、オレを見つめる。またこの流れですか…。この短期間でなんどめだろうか? 人に見つめられるのもいい加減慣れてきたな。そしてエノーミさんは手をあごに当て何かを考え始める。


「聞かせてくれ。見えるとは具体的に言うとどういう状態なんだ?」

「どういう状態ですか…。ええっと…、説明するとなると難しいんですけど。なにかマナの流れの中に…、じゃなかったまずはマナが急に全身を流れているのが見えるようになったことからかな。光り輝くマナの流れらしきものが身体中に見えるようになって、そして、その中を黒い点のようなものが流れているのを常に目で見えるようになりました」

「信じられん。それに黒い点か……」

(おそらく魔力塊のことであろう。我も信じられなかったがそれしか考えられん)

「だろうな。それで黒い点のようなものを破壊したと」

「はい……」



 なんだこの沈黙は。重たくはないがかといって心地よいものではない。怒られているわけではないが反省しなければいけないような空気でもある。

一つ確認してもいいよね。けっしてオレは悪いことした訳じゃあ無いよ……。



「まあ、いい。それはまずは置いておこう。それよりも重要なのはコタローは魔法が使えないということだ。厳密にいうと晶壊術は魔法ではないのだが、それは今はどうでもいい。現に昨日は魔法を初めて目にした様子であったな。なのにいったいどういうことなんだ?」


 どういうことと言われてもなぁ~。


「正直に言っちゃうと、自分でも何をしたか全くわかっていないんですよ。初めに昨日エノーミさんが魔法を見せてくれた時に身体の周りを光るものがおおっていたのを思い出して、それを参考にマナを身体に循環させてみました。魔法言語はひとつも知らないので、とりあえずイメージを代用でなんとかならないかと。後は見えている黒い点の上から自分の魔力を流し込んで破壊するイメージをしたって言う感じなんですけど…」



 また沈黙ですか。なんでもいいんで何か反応してほしいんですけどね…。



(感じなんですけど…か。エノーミ実に面白いではないか)


 アクナさんが獣の方の声で笑う。いや、唸る? なんて言っていいのかわからん。

 確実に爆笑しているのはわかるのだが、そっちの声で笑われるとかなり恐いんですけど。なんせ虎だから。グルル~という音がアクナさんの口から響き渡る。



「ああ、実に面白いな」


 エノーミさんもその表情を崩し、昨日並みに笑ってらっしゃる。美人と虎。美女と野獣。こんな非日常的なツートップの爆笑。いくら平常心を心情としているオレのメンタルポイントであっても最早限界寸前である。いい加減勘弁してほしいものだ。RPGならすぐ回復アイテムが必要かもしれない。なんならすぐにでもエ○クサーをくれ。何回も言うがオレはこの世界に来てまだ一日もたっていないんだぞ。



「それでオレのしたことは結果的にはどういうことだったんですか?」


 エノーミさんは笑い終えると、抱えている虎ちゃんをナデナデしながら答える。


「コタローがしたことについては恐らくコタロー自身が考えていることとほぼ大差ないと思う。おそらくコタローの目には魔力塊がマナを寸断し、その先の魔力枯渇によって起こりえる何かしらの悪影響を推測したのだろう。実際その通りだ」



 やっぱりそうだったのか。予想道理。……超不安だったけど。それよりもオレも虎ちゃんをナデナデしたい。うらやましすぎる。



「魔力塊は文字通り魔力の塊で、高純度のマナが必要以上に集まりすぎると濃縮されて塊となって現れるものだ。一般的にはマナが集中しすぎることによって身体に負担を掛けないようにするための防衛反応と言われているが、実際のところはどうだかはわからない。私自身実際は違うと思っているからな。詳しい説明は省くが、なぜならコタローもその目で確認したと思うがこの世界の生物は怪我をすると必然的に身体中のマナが局部に集まって傷を自然に治療しようとするからだ。アクナの娘もそうであっただろう。だから人間、ドワーフ、エルフ、神獣に限らず、この世界のすべての生き物に共通することだが、魔力量の多い者は魔力塊ができやすくなる。特に身体の大きくない幼い時分。子供の時に魔力塊が出来ることは非常に多い。幼い時はまだ魔力量に対して身体の大きさが付いていけてない場合が多いから必然的にそうなってしまうことが多いと思われているのが通説だ。今回のケースもそれに当たると思う」



「なるほど……。それで結局のところ魔力塊によって、どのような症状が表れるんですか?」


「それはだな…。」


 エノーミさんは虎ちゃんをナデナデするのを止める。

 そして一拍間をとり、真剣な顔を作ったのだった。


今まで忘れていました。大変申し訳ありません。

それでは改めまして、お気に入り件数900・PV28万・ユニーク4万、本当にありがとうございます。

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