テンプレ
あえて言わないようにしていたが、もう無理だ。PVおよびユニーク数の伸びが以上過ぎる。なぜだ、何があった。それに日刊ランキング2位だと……。うれしい気持よりもむしろ怖い。何か事故などに遭わなければいいが……。
「なんだあれ?」
未だ猫ちゃんのマナ循環はオレの目に見えている。傷口を中心に身体中のマナが集中している。しかし、さっきは気がつかなかったが、猫ちゃんのマナの流れの中にうっすらとした黒い点のようなものが流れている。なぜ今まで気がつかなかったのかはわからない。焦っていて、気がつかなかったのかもしれない。もしくはさきほどまでは無かったのか。現状確認できるもので2個、いや3個か。左後ろ足と左前足、そして腹部中央あたりを流れていた。
そして黒い点の一つが左前脚に沈着した。まるで何かに引っかかるようにマナの流れを寸断する。大きさ的にはおよそ米粒のようなものだが、マナの流れは一時的に細くなっているため、そこの部分ではマナの流れが制限されている。当然先の部分にはマナが行き渡らずより流れが細くなっていく。また、一か所だけならまだしも傷口付近からぽつぽつと、岩から石が削れるかのように黒い塊が流れ出していた。いかんせんオレ自身マナについて何も知らないわけだが、もしすでに細くなっている箇所に塊が詰まったらどうなるだろうか……。
おそらく、マナの流れがせき止められてしまうだろう。この世界の生き物がマナなしでどうなってしまうかわからない。しかし到底いいことであるとは思えない。
マナとはこの世界を構成するもの。エノーミさんの言っていたことだ。地球に置き換えて考えてみると、水のようなものだろうか。だとしたら人間の体の約8割は水で出来ている。水が身体に行き渡らないとすると最早それは脱水症状だ。もっと行けばミイラ確定である。ってことは魔力が無くなると……。
これはひょっとしてまずいんじゃないか?!
再び焦りの気持ちが音を立てて近づいてきた。もういい加減ご勘弁願いたいものである。
オレは考える。話は少し違うがこれは血管でいうところの脳梗塞や脳塞栓、エコノミークラス症候群といった疾患と似ていた。様々な原因によって狭くなった血管の先に血液が行き渡らなくなり、虚血状態の末梢組織が壊死してしまうものである。進行すれば簡単に死につながる恐ろしい疾患である。
このケースは血液ではなく魔力を対象としているが原因的には似通っており、おそらく放置しといては確実にまずいのものではないかと思う。
「うん、確実にマズイ」
オレは黒い塊が詰まっている部分、左前脚の上に手を置く。身体に循環させていたマナに集中し、強く自分の望む結果をイメージする。
頼む! 成功してくれ!
するとどうだろうか。一瞬身体から力の抜けるような感覚と伴に、黒い塊が砕け散った。マナの流れをせき止めていた塊は消え去り、またマナが循環を始めた。俺のマナが猫ちゃんの身体に入り込み、イメージ通りの仕事を働いた。
魔法スゲー!!
オレは自分の起こした結果をマジマジと観察した。自分でやったことであるが、実感はまるでない。まさか本当にできるとは……。魔法…魔法か~。やっぱり反則級のものである。アインシュタインもビックリするだろうな。不可能を可能にすると言う意味で浮かんだ人物であるが、誰がこの場にいても驚くだろう。
オレは残りの塊も同じ方法で破壊していった。
試しに直接的に傷口も治せないかどうやってみたが、そううまくはいかなかった。
「まあ、それは無理か」
別にいいけど。もしかしたらできるんじゃないかなと期待していたけど、そう都合よくはいかないみたいだ。よく考えれば少しでも魔法を使えただけで、思っていた以上の結果である。予想以上の出来に自分でもびっくりした。欲張りすぎはよくない。こういうところはケチくさい器の小さな自分が現れる。
しかし実際のところ、この処置がいいことであるかどうかは分からない。
もし余計なことだったらどうしようか…。でもいまさらそんなこといってもしょうがない。きっと必要であった。そうであると信じたい。
オレは最後に塊のようなものがもうないかどうか、全身をしっかりと確認する。
「ふ~」
オレはゆっくりと体を伸ばし立ち上がる。なんとなく強い脱力感を感じるな。
おっと…。足元がふらつく。近くにあった幹に手をかけ何とか身体を支えた。
今のは……?
軽いめまいが尚も続く。予想以上にマナを使ったということだろうか。思った以上に強い魔法になってしまったようだ。魔法を使いすぎたりするとめまいのような症状が現れるみたいだ。
しばらくすると徐々に身体の調子は戻ってきた。どうやら今度の魔法もうまくいったようだ。猫ちゃんを見てそれを確認するとほっとした。
今度こそ行こうか。
オレは身体の動きを確認し、問題がないと分かると猫ちゃんを抱え上げた。エノーミさんの家からここまで走って来るのにおよそ10分くらいだったから、歩いて行けば1時間くらいかな。抱えた猫ちゃんに衝撃を与えないよう慎重に歩きだす。
ガサゴソ。
オレは背後から何かの気配を感じた。生き物が動くような音がする。嫌な予感マックスである。確か昨日もこんなことがあったような気がした。デジャブーか? いや確実に覚えがある。でもまさかな。二日続けてはないだろう。
オレは恐る恐る後ろを振り返った。
「……」
もう何も言うまい。オレはすぐにエノーミさんの家に向かって走り出した。
「グガーーーー」
この世界でのオレはどうやらこういう運命にあるらしい。オーガいや魔物から逃げ続ける運命に。