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異世界で治療師  作者: にくきゅう
プロローグ
10/47

やっぱりスゲーな!


 目を閉じ、自分の中の力を探す。 


「……」


 一秒、一分と時間が経過する。焦りはない。不思議ともう少しで何か変わりそうな気がする。するとオレは身体の中にうっすらと魔力と呼ばれるものが満ちていくのを感じていた。


 こういうことかな……?


 軽く試してみたが、全身に循環させるということもできそうだ。おそらく自分の中の循環という概念が明確にイメージできているからだと思う。



 両親に感謝しないとな。オレは秘かに思う。何故かと言えば、両親が鍼灸師をしていたことに関係していたからだ。



 良く言う鍼灸の世界にある“ツボ”とは一般の人々に深く浸透しているが、“経絡”と呼ばれるものはほとんど知られていない。簡単に言うと、ツボとは点を表し経絡とは線を表す。点の集まりが線となり、ツボの集まりが経絡となる。全身にある約400個のツボは必ずどこかの経絡に属し、経絡は頭から手の先、腹部、背部を通り足の先まで巡る。文字通りその流れは身体の表面から、深部、内臓、筋肉にまで及ぶ。全身を巡る経絡は、文字通り魔法の循環と酷似していた。



 至極イメージしやすい。

 抱えていた猫ちゃんを地面に下ろし、身体にゆっくりと魔力を循環させる。やはり問題ない。身体の中をぐるぐると未知の力である何かが流れているのを感じる。ぼわっとして少し暖かいような、そしてくすぐったい。まだ慣れていないのでかなり違和感はあるが、やれるという期待感がオレの身体を満たしている。これが魔力を循環させるということか…。


 よし、いける!

 そして改めて猫ちゃんの怪我の様子を確認してみた。


「うん?」


 なんか違和感が……。

 気のせいか猫ちゃんの傷が少し浅くなっているような気がする。いや、絶対気のせいではないはずだ。そして、さっきは見えなかったが猫ちゃんの身体に何本もの光る線が見える。それこそ無数に。まるで血管のように全身を駆け巡っている。



 ……何だこれ? さっきまでこんな模様はなかったはず……。



「そうか、マナか!!」 


 おそらくマナの流れが眼に見えるようになったらしい。猫ちゃんの全身をあふれるような光の流れが隅々まで埋め尽くしていた。レントゲン写真の影の部分がマナに置き換わったようなものだろうか。見え方としては身体の輪郭の中に光る線がいくつも流れている。例えれば首都圏の鉄道路線みたいな物か。見る限り主に大きな流れが十本、全身を走っていた。



 猫ってマナを持っているのか? 

 ふと一瞬疑問に思ったが、猫ちゃんもこの世界の生き物なので当然あるのだろう。猫ちゃんがこの世界の素であるマナを持っていたとしてもなんら不思議ではない。むしろその恩恵を受けるのは当然と言える。しかし、今はこの幸運を最大限に利用しなければ。



 俺は猫ちゃんの身体を再度よ~く観察してみた。

 猫ちゃんの傷口には眩しいほど、マナの流れが密集していた。比較するに身体の他の部分の魔力がそこに集まっているかのようだ。身体が防衛的に組織の再生を図っているのだろうか。とにかく集まっているマナの量が半端ない。

 他にはどうだろうか。この影響で他の箇所のマナがおそらく半分くらいだろうか、細くなっているように見える。しかし細くなっているであろうマナの流れも滞りなく全身を流れていた。頭の上から足の先まできれいに続いている。



 眼につくものはもうないかな。オレは一度猫ちゃんから視線を外した。冷静になって考えてみると、そもそも流れが見えたところで何の知識も無いオレに何かできるとは思えない。俺は思うに、猫ちゃんはこのまま置いといても自然に回復するのではないか。現に傷口もすでにふさがってきているような気さえする。信じられないことではあるが…。実際目にすると唖然としてしまう。



 スゴクね、マナって…。こんな万能すぎる力があっていいのか? まあ、猫ちゃんが無事助かればいいけど。

 よく考えたらオレいらないじゃん!? なんとなく悲しくなるので考えないようにする。さっきまで焦っていた自分が馬鹿らしくなる。なんか無性にテンパっていた自分が恥ずかしい。


 

 ああ~、なんか疲れたな、精神的に。

 俺はもう魔力を循環させる必要はないので、いいかげん力を抜いた。

 未だくすぐったいような慣れない感じが落ち着かない。


 

 とりあえず猫ちゃんはエノーミさんの家まで連れて帰ろうかな。

 ここに置いて行くのもためらわれる。まさかこんなかわいい猫ちゃんを森の中に置き去りにするなんてオレの良心が死んでも許さない。でもあまり人の手で関わってはいけないものかもしれないとも思う。いや、でも待て。もし、猫ちゃんがこわいおじさんに襲われたらどうするんだ。こんなかわいい子だ。敵は嫌でもよって来るに違いない。きっとそうだ。許せん。そんな親父はオレがぶっ飛ばしてる。


 

 まあ、冗談はさておいてホントにどうするか。



「やっぱり、連れて帰ろう」

 

 再度猫ちゃんを抱き上げた。


「そいじゃあ、ぼちぼち行こうかな」


 そんなことをつぶやいた時、俺の目には妙なものが映りこんできたのだった。


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