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星界の手記  作者: ハド
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3話:旧要塞防衛戦


テラピ旧要塞、放棄されたこの要塞は海港都市テラピの内陸部にある統一イリュシオン時代に建造された堅牢な要塞だ。

そのあまりの堅牢さに破棄ができず、そのまま放置されていた。

かつて築かれたこの石造りの要塞は、今や絶望に震える民衆を詰め込んだ「石の棺桶」と化していた。

要塞の外は「悲哀の巨星」シリウス・トリスティの眷属が放つ強烈な吹雪。

そして、凍てついた空を旋回する眷属「青い鳥」の群れ。


セネトは背中で苦しむソティスを藁の上に降ろし、そっと寝かせる。

ソティスは意識を失い、弱々しく息をしている。


「はやく…治療しないとっ…」


「……もう、ダメなの? 私たち、ここで凍っちゃうの?」


隣で、泣きじゃくる子どもたちをなだめる。

孤児院の主ソティスは、青白い顔で横たわっていた。

その傍らで、親友のテオンが涙を流しながら必死にソティスの手をさすり、温めている。


セネトは拳を強く握りしめ、ソティスを救うためできることを模索する。

部屋の外に目を向けると、そこにはいつの間にか人影が立っていた。

法衣を纏ったその青年は穏やかにセネトへ語りかける。


「そちらの方、治療しましょうか?」


その青年が纏う法衣は星教ソフィアムの法衣によく似ているが、少し異なる意匠だ。

セネトにその違いははっきりとわからないが、よく見かけるものとは異なることには気がついた。

セネトは不思議な雰囲気を醸し出す青年にあっけに取られながらも治療を願う。


青年は横たわるソティスにゆっくり歩み寄り背中の傷に手をかざす。

すると緑色の光が発光し、ソティスの傷口はみるみる塞がっていった。

テオンはその様子を目が飛び出るほど凝視する。


「司祭様…これ…魔法…ですか?」


青年は答える。


「ええ、「悲哀の巨星」シリウス・トリスティの顕現により、世界の理は書き換えられました。」

「地上の理に、魔法が加わったのです。」


彼の端的な説明はテオンの混乱を急速に鎮めた。


「ここにいるセネトもさっき魔法を使いました。」

「魔法は誰にでも扱えるものなのですか?」


青年は興奮するテオンをなだめるように答える。


「…魔法についてはまだわからないことばかりです。」

「私もこの魔法が使えることがわかったのは……つい先日ですから…」


彼の手には分厚い本が握られており、見たことのない文字でびっしりと書き込まれている。

セネトは目の前の光景に、自らの右手から放った魔法を思い出す。

あれから、要塞にたどり着くまでもう一度魔法を放つことはできなかった。



「団長! 正門が突破されるぞ!」


叫び声と共に、要塞の鉄門が眷属の体当たりで大きく歪んだ。

そこへ、巨漢が滑り込んでくる。傭兵団団長、カシオスだ。


「おい、アステリア! 防御を緩めるな!お前ら準備はいいか! 門を開けたら一気にぶちかますぞ!」


「分かってますよ! カシオスさん!でも私にもなんで防げてるのかわかんないんですよ!」


アステリアは震えながらも、星書を高く掲げた。

彼女の「向日葵色の結界」が、門の隙間から入り込む冷気を必死に押し返す。


「…よし、いいな?――門を開けろッ!!」


カシオスの咆哮が轟く。

跳ね上がる鉄門。雪崩れ込む吹雪。  

カシオスは旗槍を構え、魔法を発現する。

カシオスと傭兵団の体を朱色の炎が包み込む。


「喰らえッ!!!!!」


カシオスは旗槍で突撃する。

槍は青い鳥の胸に命中し、羽を朱色に燃やしながら吹き飛ぶ。

傭兵団もカシオスのあとに続き、眷属との激しい戦闘が始まった。



セネトは外の戦いの音に気づき、駆け出す。

避難してきた民衆の悲痛な顔をみて、動かずにはいられなかった。

中庭に飛び出すと、女性司祭が魔法で青い鳥の侵入を必死に防いでいた。


「黄色い…魔法だ、あれは盾なのか」


セネトはソティスが眷属に襲われた瞬間を思い出す。

その時、一羽の眷属が盾を躱しこちらに急降下してくる。

セネトはこの瞬間、自分の後ろで怯える避難民の命を背負っていた。


「まずい……くっ…来るなッ!!!!」


手の先から放たれたのは、暴力的なまでの蒼い衝撃波。

空間を塗り替えるその光は、目の前に迫った眷属を後方を飛んでいた眷属もろとも霧散させた。


アステリアは後ろから突如放たれた衝撃波と光、それを放った素朴な少年に驚愕する。


「あなた…何者なの…」


その後も激しい戦闘は続いたが、カシウス・アステリア・セネトの活躍により、やがて眷属達は退いていった。

セネトは荒い呼吸で呆然と震えて立ち尽くしている。


(終わった…守れたのか……)


「やるな坊主、よくやった!」


血まみれのカシウスと傭兵達がセネトの震える肩を叩く。


「ほんっと助かったわ!」

「私はアステリア…テラピの山の集落で司祭をしているの、この人は傭兵団のカシウスさん」


全身泥だらけのアステリアがふらふらと歩いてくる。

三人はお互いの健闘を称え合った。


「怪我人は私が治療しましょう」


先程の青年が要塞の奥から姿を表す。


「私はフィロ、司祭です。治癒の魔法が使えます」




■アステリア

28歳の女性。星都ロゴリスで信仰の厚い家庭に生まれ、司祭になる。子供の頃に父から託された星書をいつも持ち歩いている。テラピの山間部に赴任してからは、小さな集落で教会を運営していた。言葉遣いは強気だが、神経質で打たれ弱い性格。テラピ旧要塞でセネトと出会う。


■カシオス

32歳の男性。イリュシオン山間部で生まれ育つ。元イリュシオン正規兵。決断力の無い正規軍を見限り、仲間とともに傭兵団を立ち上げた。教会や民間から依頼される治安維持を生業にしている。結成当初から使用している旗槍を愛用している。正義感が強く、無骨な性格。テラピ旧要塞でセネトと出会う。


■フィロ

黒髪の青年司祭。色白で線が細い。法衣を着用している。テラピ旧要塞に民衆を避難させ治療を施していた。


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