1話:青年セネト
あまりに眩しすぎるひとときを目撃しました
もし、誰かがこの手記を読むことがあるのなら
この冒険の物語を通して感情というものの正体を知ることを祈ります
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その街は真珠のように白かった。
星教連合「イリュシオン」の南端に位置する海港都市テラピ。
断崖にへばりつくように並ぶ白亜の家々は、陽光を反射して眩いほどに輝いている。
海沿いの高台に建つ孤児院のテラスで、セネトは潮風を吸い込んだ。
海港都市テラピの朝は、いつものようにソフィアム教会の清らかな鐘の音で始まった。
ソティス司祭「さあ、みんな。星の慈悲に感謝して、朝の祈りを」
礼拝堂で朝の祈りを終え、セネトは子供たちの手を引いていた。
白い壁には、ソフィアム教会が配給する小麦の袋が積まれ、司祭たちが貧しい人々に無償の医療を施している。この光景こそがイリュシオンの「正義」であり、セネトが愛する平穏だ。
いつものように子どもたちを裏庭で遊ばせていると、ソティス司祭が慌てた様子で歩いているのが目に入った。
「ソティス様、どうしたんですか?」
「セネト、孤児院に新しい子を迎えることになりました。寝台を運ぶのを手伝ってください。」
海沿いのこの街では海難事故や海賊の襲撃で親を失い、孤児になる子供も珍しくない。
セネトは子どもたちの世話を親友のテオンに任せ、ソティス司祭と一緒に倉庫へ向かった。
倉庫に向かう途中、連れてこられた少女が怪我の手当を受けている姿が見えた。
(あの顔立ちは、アメンティア人だ…。)
セネトは目を細め、幼い頃の記憶を思い出す。
セネトと両親は神星帝国「アメンティア」の辺境で親子3人で暮らしていた。
集落の人々は前の皇帝の圧政と重税によりみな貧しい暮らしをしていた。
ある日、重い税に耐えられなくなった両親はセネトを連れ「ハツォール」諸島共和国に向かう商船に紛れ密航した。
激しい海流を船の中で耐え一晩が過ぎると、朝には商船は港へ錨を降ろし始めていた。
新興国であるハツォールへの入国は難しくなく、港では多くの密入国者が協力して生活をしていた。
両親はしばらくの間、港で働いていた。
一家は安全で福祉の手厚いと噂のイリュシオンを目指していた。
港で蓄えた資金を海賊に渡し、家族はイシュリオンへ渡った。
両親が夢見たこの国での暮らしは、想像とは真逆のものだった。
港町で家を探したが、アメンティア人の両親に家を貸す人はいなかった。教会に行っても国民である証明ができない者に福祉を受ける権利は無いとして弾かれた。職もなく家族は路頭に迷った。
街を転々とする中で父が倒れ、母はセネトを抱き歩き続け、この孤児院の門の前で力尽きた。
夕立の降る日だった。
セネトと母の亡骸を見つめるソティスの顔はいまでも鮮明に覚えている。
その日、セネトはソティス司祭に引き取られた。
ソティスはセネトを愛情深く育て、その後姿は父親のように見えた。
セネトはソティスと同じ道を歩きたいと心の中で決心していた。
…
午後の優しい光が部屋を照らし、埃が舞っていた。
ソティス司祭は少女を休ませると、ゆっくりとセネトの方を向いた。
「この子のこと、あなたに任せてもいいですか?」
セネトは強く頷き、少女の世話を引き受けた。
看病を続ける中で、セネトは拙いアメンティア語で彼女と打ち解けていった。
ある日、
その静寂は海の向こう ハツォールの方角から届いた地響きによって破られた。
全身が痺れる感覚、それは一瞬で消えた。
セネトはテオンと顔を見合わせ海岸へ走る。
「……青い…炎?」
海はいつものように穏やかに波打ち、陽に照らされ輝いている。
しかし、その向こうに見える島々の様子は違った。
セネトが目を凝らす。
テオンは青ざめた顔をして膝から崩れた。
親友のテオンは司祭を志しており、セネトと同い年だがすでに星々の神話に詳しい。
なにか思い当たることがあるのだろうと、セネトはテオンの様子に息を飲む。
貿易の中継地として栄えるハツォールの島々から、霧のような青い火柱が天を突いていた。
空を見上げれば、白昼だというのに五つの星が禍々しく明滅している。
その中の一つ、氷のような蒼光を放つ星が、不気味に脈動した。
【悲哀の巨星】シリウス・トリスティ
神話で語られる星の化身が、地上に姿を現した。
■セネト
15歳の青年、アメンティアで生まれイリュシオンで育つ。5歳のとき両親を失い、ソティス司祭に引き取られ孤児院で生活している。ソティスを父のように慕っており、将来は自分も孤児院で子どもたちを救いたいと思っている。精神面はソティスから大きな影響を受けており、目の前に困っている人がいれば進んで助ける。孤児院では最年長で、懸命に子供の面倒を見ており、子どもたちのまとめ役になっている。来年には星都ロゴリスで司祭になるための教育を受ける予定だ。褐色の肌に青い瞳を持つ。




