発覚(1)
私達が首都の屋敷に戻ると、祖父母に抱きしめられ無事な帰還を喜ばれた。母も泣いて喜び、ハワード兄様も士官学校から駆けつけてくれて頭を優しく撫でられたりもした。
私の屋敷で到着を待っていたミモザの父親なんか泣きながらミモザを肩車し、それをミモザの母親が写真に収めていた。
凱旋か何かと錯覚しそうなくらいの祝われようだったけれど、悪い気はしなかった。
その日の夜はひどい雨だった。お手洗いの為に起きて廊下を歩いていると、ふと、お爺様の書斎の扉の鍵がいつもとは違い施錠されていないことに気付く。
辺りをぐるりと見まわすが誰の気配もない。
好機! これでこの世界の情報をもっと集められる!
部屋に入り本棚やお爺様の机の引き出しを漁っていく。ごめんなさい、お爺様。これもこの家のためなの。
この世界のルナマーレの歴史は、西暦が聖暦に、日本人がルナマーレ人になっているだけで、ルナマーレは前世の日本史の大きな出来事が概ねそのまま起こっている。世界大戦然り、首相暗殺も、大震災も、その後の恐慌も、前世の歴史と同じ年、同じ日に起きている。
そして今は1930年3月23日。
ならば、今年の11月には現首相の暗殺事件が起きる可能性が高い。その対策も考えなくっちゃ。
6年後、私達が殺されるであろう年、1936年に前世では何が起きたのだったらかしら。それが分かれば対策も取りやすいはず。お爺様は6年後、作中の設定では確か蔵相だったわね。
お爺様は首相経験もある。元総理、時の大臣一家が殺されるってよっぽどよね。1936年に起きる政変や事件が何か思い出せればいいのだけれど。
ん? 1936年? 何か、語呂合わせがあったはず。
書類を捲る指が止まる。
「いくみろ? いくさむ? うーん、いまいちピンと来ないわ」
1936年の日露戦争は“ひとくれよ”だったわね。1は“い”ではなくで“ひと”だったかしら?
「ひどくみろ? ひときゅう、さん……む」
ひどくさむいひ……に、に、ろく。
「226!」
刹那、背筋が凍る。作中の悪役令嬢の屋敷が降りしきる雪の中燃える様がすぐさま思い起こされて。
ああ、ああ! なんてこと!
思わず天を仰ぐ。が、すぐに目当ての資料を探すために動き出す。
1936年、2月26日、その二二六事件で蔵相は殺される! そしてその蔵相を殺すのは……。
「陸軍だ」
見つけた陸軍の資料を広げる。誰だ。誰が私達を殺すんだ。
「陸軍?」
「お父様……と……ナタリア」
声のする方を見ると、そこにはお父様が立っていた。資料に夢中で書斎に人が入ってくるのを気付けなかった。怪訝な顔をして、暴漢対策だろうか、デッキブラシを握り締めている。
「夜中なのに書斎から物音がするから。てっきり盗人かなにかかと。マチルダ。そこで何をしているんだ? こんなに散らかして。ここには国家の機密に関わる資料もあるんだぞ」
知っている。だから入ったのだ。
机の上には陸軍の資料だけではなく、色々な契約書類や数週間分の新聞が開かれている。恐ろしさではなく、露見した焦りと身内に知られた後ろめたさで冷や汗をかく。
「いくら子供のやることとはいえ、これは見過ごせないな」
お父様が机の上の資料を畳んでいく。
「マチルダ、答えてくれ。隠れて何をしていたんだ。でないと、私はこのことを父に報告しなければいけない」
お父様の声がいつもより低い。怒りによってではなく、これは恐らく、これまで親の言いつけに逆らったことなど一切なかった、寧ろ言われた以上に節度を保ち、努力をしてきた私に対する落胆の感情の所為なのだろう。
「ごめんなさい、お父様、でも、お爺様とお父様に、内密に、話さないといけないことがあるの」
「どんな内緒話をしようと言うのかな?」
お父様の言葉に怒気がこもる。
もう、家族にも隠すのはよそう。私のため、家族のために、堂々と、子供の化けの皮を剥ぎ取りましょう。
お父様の瞳をしゃんと見つめ、言い放つ。
「陸軍が、クーデターを起こすわ」
ここから始まる。私の挑戦。
私が、私達が、殺されないための、世界に対する反逆が。




