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幕間

 二日後、お父様が来た翌日。朝食を伯爵夫妻、お父様、私、ミモザの5人で摂ってから私達は伯爵邸を後にした。彼らとの朝食は本当に楽しくて、彼らを失いたくないと改めて実感した。

 私とナタリアはお父様の車に。ミモザはお父様の執事の車に乗りこむ。

 その道中、伯爵邸でのトックヴィル氏による聴取のことを反芻していた。

 屋敷の一室、トックヴィル氏と私、ミモザが長机を挟んで座る。


「本当に、何も覚えていないのか? 人数も? 何を食べていたのかも?」

 メモ帳とペンを持つトックヴィル氏の口調は威圧的だが声色は優し気だ。私達を迎えに来たときはいかにもな学者然とした格好をしていたが、今は陸軍の軍服を着ている。階級は少佐。

 私の左隣に座るミモザは軍服を見て恐怖からか、若干身体を振るわせて私の左手を握っている。指も大分冷たい。緊張も大きいようだ。


 私はというとそこまで動揺していない。この軍服はノトセレでよく見たものだったし、寧ろ、ああここってこうなってたんだ、という意匠の方に関心が行く。けれど、表情はミモザと同じように強張った演技をしていた。

「はい、すっかり気が動転していて」

「その割には、洞窟前での君の所作は毅然としていたと思うがね? マチルダ嬢」

 何のことかしら? そんな表情で顔を傾ける。

「わかった。そういうことにしておこう」

 溜息混じりに少佐が言う。

「少佐、何故軍人さんがそのキョクジツジン? という人達を調べているの?」

「知ってどうする」

 私の問に少佐の眉がピクリと動くが、気付かぬ振りをする。

「兄が陸軍士官学校にいるので。家族の仕事を知りたいと思うのは当然のことではなくて? 特に、得体のしれないものならば、尚のこと」

 少佐が眉一つ動かすことなくメモ帳をパタンと音を立てて閉じる。


「国家の機密に関わることだ。それは言えんな。聴取は終わりだ。ああそれと、旭日人という言葉は他言しないように。もし知れたら君たちのご家族にご迷惑がかかるからね」

 家族に迷惑。不気味な笑顔で少佐にそう言われたミモザが顔をぶんぶんと縦に振っている。

 だがしかし、なるほど。これで旭日人の立ち位置が分かった。彼らは表向き存在しないのだ。それが知れたら国家運営に大きな問題が生じる。政治的か、あるいは。外交的問題か。

 いずれにせよ、彼らの存在が明らかになるのは避けねばならない。事件が起きれば世間にバレる。

 だからこそ、軍人が彼らの生活を把握し、蹶起に必要な武器や食糧を備蓄していないか管理する必要があるのだろう。


 彼らがいたらまずい理由。外交的問題ならば、思い当たる理由は民族自決だ。世界大戦はこの世界でも起きた。参戦国は違うけれど。で、戦後処理で提唱されたのが民族自決。端的に言えば、少数民族に自治を与えよというもので、東欧の大国はそれでバラバラになった。

 今のアルビローズの覇権を潰すには旭日人という存在は格好の材料だ。アルビローズの覇権はこの世界にある極東海洋、南大海洋、西長海洋の三大海洋すべてに影響力を持っているからだ。

 そのうち極東海洋という一つを失う可能性。これは明らかに看過できない事実だろう。

 気付けばミモザは私の左腕に抱きついていた。彼女の頭をそっと撫でてあげると、身体の震えが和らいだ。

「大丈夫よ。わかりました少佐」




 そう言って、マチルダ達が部屋を後にしたあと、トックヴィルが小さく呟く。

「一体……どこにおられるのか」

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