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雪山(1)

 一昨日、私の邸宅で私とお父様の誕生日パーティーがあった。私が12歳、お父様が53歳だ。どうやら片付けを手伝っている際、階段で足を滑らせて頭から落ちて気を失っていたらしい。で、起きたのが昨日。


 私の名前はマチルダ・キャベンディッシュ。キャベンディッシュ公爵家の養女。養女だがキャベンディッシュ家の男系の血筋だ。

 この家は祖父母と両親、兄と私の六人家族で、陸軍士官学校の寮に入っている兄を除いて、皆この邸宅で暮らしている。だが、唯一の肉親は母だけだ。


 少しややこしいのだが、私の父は私が生まれてすぐに他界し、父の兄である伯父の好意で母と私は厄介になることに。で、早くに妻を亡くしていた伯父は母との共同生活の中で親しくなり結婚。

 とまあ、そんな理由で、私の家族は義祖父母、義父、実母、それと、ハワードという年の離れた18歳の義兄が一人いるのである。祖父ジェイソンは元首相で蔵相だったこともある現貴族院議員。父アーサーも同じく貴族院議員。


 誰も彼もノトセレの世界と同じ名前だ。マチルダのこの世界の認識と、私のこの世界の設定の知識は、概ね合致している。やはり、この世界はノトセレの世界で間違いないみたい。ということは、このまま時が進めば、最悪のルートでは私の家は、家族も親友もみんな私より先に死んで、私の最期は屋敷の下敷きになってお陀仏という訳だ。

 今はどうしたら少しでも最悪なルートから外れることができるか模索中。二度も誰かに殺されるなんて真っ平御免よ。


 とは言え、情報を集めようにもこの家の書庫は常に施錠されていて、なかなか入れさせて貰えないし、読ませて貰える本は小説や童話ばかり。この世界のお話も新鮮で、それはそれで面白いんだけれども。

 この世界の設定はうろ覚えでしかないし、詳しいところはどうなっているのか皆目見当もつかない。私が今いる国がルナマーレという、超大国アルビローズ帝国の従属国である極東の島国だということはマチルダの知識である。

 尤も、従属国化したのは約60年前の話だ。世界地図は元いた世界の地図とは似て非なる形をしているが、マチルダの知識と、前世での知識と照らし合わせてこの世界の歴史の大筋は把握できる。


 因みに、私達の言語は日本語ではなく英語だ。まあ、私達の風貌は見るからに西洋人だし、当然と言えば当然か。元は日本人の私が違和感なく生活できるのも、マチルダの12年の経験によるものだ。

 マチルダの記憶も経験に持っているけれど、小学6年生の知識じゃあ、前世で得たこの世界の知識があっても直ぐに限界が来てしまう。未来を予測するためにももっと情報が欲しい。どこで探せばいいかしら?


「行ってらっしゃいませ、お嬢様」

 車のドアを開けるメイドによって現実に引き戻される。どうやら聖スタンフォード学園初等部に着いたようだ。聖スタンフォード学園は私が通っている学園で、幼小中高大一貫校であり、私は初等部に通っている。

「ありがとう、行って来ます」

 メイドに手を振り校門をくぐる。

「おはよう、マチルダさん」

 私と同じ様に家の車で送って貰ったミモザが私に声をかける。学園は広大な敷地を有するため、敷地内に鉄道が走っているが、学校へは家の者が送り迎えをするのが慣例となっている。尤も、自家用車はかなり高価なため、家が裕福でない者は馬車での送迎が主流だ。

 と言っても、馬車を出せるだけで庶民からしてみたら裕福なのだが。


「おはよう、ミモザ」

 ミモザはリンドバーグ伯爵家長女、私の親友だ。

 作中ではマチルダに最後まで味方した。けれど、とあるルートでは彼女は主人公に助けられ、その恩義からマチルダを裏切る。義理と恩義を天秤にかけ、彼女は恩義を取ったのだ。だから、その恩義に勝るだけの義理を彼女と結ばなくては。私が死なないために。


 彼女の祖父であるリンドバーグ伯爵はお爺様の親友で、海軍大臣まで登りつめた元軍人である。因みに、ミモザと私は同窓ではあるが、比較的身体の小さいミモザはクラスでは皆の妹分みたいなポジションにいる。当人もそれを不服とは思っておらず、寧ろ喜んでいるようだった。


「よっ、お二人さん。今日も仲良しだな」

「おはようございます、ローランド様」

「ローランド様、おはようございます」

 私達の背後から声をかけるのはアルビローズ王位継承権第7位のローランド王子。現ルナマーレ総督の息子である。ノトセレの攻略対象であり、私の婚約者。そう、最終的にはこの王子に婚約破棄を言い渡されるのだ。尤も、それは6年後の話なのだけれど。

「おいおい、婚約者なのだから、マチルダは敬語など使うものではないぞ」

「まだ実感が沸なくて……申し訳ないです」

 私がローランド様の婚約者となったのは一昨日。私の誕生日パーティーはローランド様との婚約御披露目も兼ねていたのだった。


 この婚約はローランド様の要望らしい。所謂、一目惚れというやつだ。財界に強い影響力を持つ元首相の孫と、現ルナマーレ総督の子の結婚。ローランド様が十中八九、時期総督となられるのだから、これはルナマーレ統治をより強固なものとするには十分な材料となる。お爺様も、キャベンディッシュ家の力を強くすることができるために断る理由もなかった。

「はは、ゆっくり俺のことを知ってくれればいいさ。手を繋ぐのも嫌、というわけでもないのだろう?」

 そう言ってローランド様が私に手を差し出す。まあ、イケメンに惚れられて悪い気はしないのだけれど。ローランド様の手を握ると、ローランド様がたちまち嬉しそうに満面の笑みを浮かべる。


「あらあらまあまあ」

 ミモザが顔を赤くしながらニヤニヤと私とローランド様の繋がる手を見つめる。

「何よその目は」

 ジト目でミモザを睨むも、構わずニヤニヤを続ける。

「いいじゃない。減るもんじゃなし」

「私の精神力が減るのよ。あなた達も! 見せ物じゃないのよ!」

 気付けば衆目の的になっていた状況に声を荒げるが、結局教室に入るまでローランド様と手を繋いだままだった。彼は隣のクラスだから。

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