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再会(1)

 聖暦1930年、5月1日。今日は、きっと歴史に残る日になるだろう。

 総督官邸にて聞いていた国会のラジオ中継で、そう核心した。


 私の通う聖スタンフォード学園において、各科目の成績優秀者はその授業が免除される。

 私は理数系科目を除いて免除されているが、これはマチルダのこれまでの努力あっての免除だ。

 尤も、今の私はマチルダの知識の上に前世の私の知識が乗っかっているから、次のテストですべての科目で成績優秀者になるでしょうけど。

 そんな訳で、今日は平日であるにも関わらず授業には出ずに国会中継のラジオを聞いていたのだった。


 総督官邸にいるのは、いつもの私、ローランド様、ミモザ、モーリス様の4人の中でラジオが家にあるのはローランド様だけだったので、総督官邸に集まろうという話になり、ついでに皆で件の感想文を書こうという話になったからだった。


 で、本題。国会のラジオ中継だ。

 法学者による干犯反対演説。

 元海軍大将であるリンドバーグ伯爵による軍部批判演説。

 そしてロニー首相による首相続投演説が立て続けに行われたのである。


 演説が終わると議会は拍手の音に包まれた。

 翌日の朝刊によれば、与党の面々が拍手喝采でこの3人を見送ったが、野党は完全に意気消沈して拍手もできなかったという。

 法学者の演説内容の要点は次の通り。


“確かに憲法第十二条には「女王ハ陸海軍ノ編制及常備兵額ヲ定ム」とあるが、陸海軍の編成、常備兵額の決定は、国家予算の一部である。よって、女王の統帥権の範囲と兵力量の決定は、内閣が輔弼する事項であり、当該条約は何ら憲法に違反するものではない”


 尚、ルナマーレには女王が国内に不在の場合には総督がその任を代行する、という法律があるため、ここで言う女王とは実質ローランド様の父親のウィリアム総督のことだ。

 リンドバーグ伯爵による演説内容の要点は次の通り。


“軍縮条約は、現役の海軍大将にして全権委任を受けた海軍大将の締結した条約である。これを公然と批判するものが軍務を離れた予備役であるならばいざ知らず、現役の軍人が公然と批判している。これはつまり、海軍内で統制が取れていないということである。そしてその統制を乱しているのは大臣ではなくそれに従うべき軍人の方だ。これは恥じるべき状況である。この干犯問題は陸軍が言い出したらしいが、本来海軍はこの意見に対し、海軍をバカにするなと一蹴するべきであったのに、それをできなかったことも恥じるべきである”


 それに加えてロニー首相の持病回復と首相続投宣言。


「ローランド様」

「いや、俺もここまでのことは聞いていない。法学者の演説とミモザのお爺さんの演説が一緒の日になるかもしれないとは聞いていたが。首相が無事回復していたことまでは寝耳に水だ」

 ローランド様の目が零れそうなほど大きく開かれている。

「だが、これで一気に政局は動くぞ。陸軍も忙しくなる」

「お爺様も、いよいよ公然と軍部を批判しましたから。軍部からの風当たりは強くなりますわね」


 ミモザの顔がいつものふんわりとした顔と打って変わって覚悟の決まった顔をしている。

「少なくとも、我がミルズ家はリンドバーグ伯爵に賛同するからな」

「ありがとうございます、モーリス様」

 そう言うとミモザが顔を和らげる。


 翌日の朝刊は、お爺様の工作通り3人の演説が一面を飾った。




 翌日から、野党は条約批准そのものへの非難ではなく、地方へのインフラ整備等、先にやるべきことがあるという、時期尚早路線で与党を批判する立場に回った。

 しかし、この批判の声も小さく、いよいよ議会は批准待ったなしかと思われていた矢先。


 聖暦1930年、6月11日。

 ロングフィールドとクラウドホースの間にある火山が爆発した。

 前世で言うところの浅間山にあたる火山だ。

 その爆発は大規模なものとなり、数日おきに噴火を繰り返し、小規模噴火も含めれば、最終的に3ヶ月噴火が続いた。

 噴火による地震で近隣地域に多くの被害をもたらし、そして火山灰がロングフィールドの一部と、クラウドホースのほぼ全域に降り注いだ。

 私の知っている歴史にここまでの大規模噴火はない。お陰で国は災害復興に注力しなければならず、条約批准の採決が先延ばしになってしまった。


「歴史の修正力だとでも言うの」

 噴火の初日、夕刊で被害を見てつい、そう呟いたしまった。


 野党が災害対策の遅れを批判している。これでは野党が首相を非難しているという構図が全く変わらない。インフラ整備の遅延がここに来て農村部の政府への不満をさらに掻き立てる結果になってしまった。

 陸軍の復興支援派遣が決まったようだけれど。さっきお兄様から電話があって派遣団に参加することになったらしい。

 驚いたのが、あのトックヴィル少佐の指揮下に入っていること。

 そういえば、ノトセレではお兄様が途中で主人公の側につくルートがあったのを思い出す。


 なるほど、作中で主人公との接点が余りないのに不思議だったけれど、主人公の父親であるトックヴィル少佐と深い関りがあったのなら合点がいく。

 トックヴィル家のことはお爺様達にはまだ伝えていない。だって、何の目的があって、婚約者がいる王族やその側近たちにアプローチをするのよ。

 ゲームならそこまで深い理由はいらないけれど、私たちは実際に物事を考え行動するための意思がある。


 普通の見識があれば、実際にそんなこと、恐れ多くて出来やしないわ。

 つまり、そこには何らかの政治的、あるいは、他の計略的な意図があると考えるのが妥当。

 安易に他人に話して向こうに警戒心を持たれるのも厄介。

 どこかでもう一度トックヴィル少佐に会えないかしら。いっその事、主人公に会ってしまうのも一つの手ではあるのだけれど、この時主人公はまだ孤児だったのよね。


 トックヴィル少佐は大地震の影響で妻と幼い主人公を見失っていたけれど、数年後に主人公が災害孤児院にいたところを見つけてたって設定だったはず。

 大地震は関東大震災として……でもその時の震災孤児院は解散しているし、今のルナマーレに災害孤児院なんか……。


 いや、ある!

 噴火被災地だ。

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