幕間
マチルダが机の上の議事録を見て打ちひしがれていた頃。
キャベンディッシュ邸にて。アーサーが電話をしていた。
「リチャード様、今後の議会運営については承知しましたが。クーデターを防ぐに当たり、旭日人の対処はどうお考えで?」
リチャード邸、書斎。
リチャードが書類に判を押しながら受話器の向こうのアーサーに問う。
「今、推測される旭日人は全部で何人だ」
「約5千です」
若干口ごもりながらもアーサーが伝えると、思わずその言葉にリチャードが天を仰ぐ。
5千という数字は無視できる数ではない。老幼婦女子を除いても、戦闘員は2千程度にはなる。
束になれば都市一つは占拠できる。
それは、陸軍の蹶起による一時的政治の空白をついて全国的に旭日人が蜂起した場合、旭日人の国が出来上がる可能性も秘めているということだ。
「彼女は未来での旭日人の動きについて何か言っていたかね」
一呼吸置いてからリチャードが問う。彼女と言うのは当然マチルダである。
「少なくとも、未来の自分は見ていないと。ただ、分散しているならば、極力旭日人の反感を買わない方が良いだろう、と。確かに、纏まれば脅威ですが、最も大きい集団でも多くて100。1個大隊を送ればすぐにでも殲滅できます。ですが、個人的には、それが旭日人を滅ぼさない理由にはなりません」
ピクリとリチャードが眉をしかめ、声が低くなる。
「まさか、彼女に旭日人をどう排除するか聞いたのかね。君は。それ以上、その件は彼女に聞かない様に」
「ですが、旭日人の存在が問題を生んでいると言ったのは彼女自身です。それに、彼女の知見は、旭日人の排除のためには有用です」
リチャードが顔を覆いながら言う。
「アーサー君、君は……12歳の少女に、ましてや、実の娘に、人をどう殺すか考えさせる気かね」
頭からすっぽり抜けていた事実に、アーサーがハッと頭を手で押さえる。
「彼女の精神が成熟しているのは認めるが、だとしても、軍人でも、官僚でも、政治家でもない人間に、それを強いるのは罷りならん。これは元老としてではなく、一大人としての判断だ。私は間違っているか?」
「いえ」
アーサーは頭を掻きむしりながら苦虫を噛み潰したような顔をする。
「彼女の言動や思考は確かに通常の12歳とは隔絶している。彼女の精神は、恐らく齢2、30に近いだろう。けれど、それでも、マチルダは社会的に見れば12歳の子供以外の何者でもない。それを忘れてはいかん」
リチャードが受話器越しにアーサーに優しく語りかける。
「はい」
「今日はここまでにしよう」
「分かりました。本日はありがとうございました」
そうアーサーが言うと、リチャードが静かに受話器を戻した。
「さて、ロニー君の復活劇。劇的なショーになるな」
そう小さく呟き、にやりと笑うリチャードだった。




