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幕間

 聖暦1930年、3月26日。ローランド様が私の屋敷にいらっしゃった。

「よ、元気にしてるか? 新学期まで待てずに来てしまったよ。まあ、あんなことがあった後だからな。身体は大丈夫でも心は大丈夫じゃないかもしれん。大事を取って正解だろう」

 そう言ってニカッと笑う。嬉しい。正直、ここ数日ナタリア以外の笑顔を見れなかったから少し心がまいっていたのだ。


「ナタリア、紅茶を用意して頂戴。客室への案内は私がするわ」

「はい、お嬢様」

 一礼してナタリアが厨房へ向かう。

「ミモザのところも見舞ってきたが、正直、マチルダが一番心配だったんだ」

 客部への道すがら、ローランド様がポツリと呟く。

「あら、どうして?」

「ミモザは、ほら。常に周囲から可愛がられていただろう。少しでも落ち込んでいるのを見たら、そいつらがほっとかないよ。でもマチルダは違うだろう?」

 歩みを止めてローランド様の方へ振り返る。


「お前はいつも周りを気にして、自分の事は二の次、三の次。だから、周りが勘違いする。お前は強い子だと」

「何それ。つい先日、初めて会った癖に」

「初めてじゃない」

 ローランド様が若干頬を赤らめ、横目で私を見る。

「お前を初めて見たのは幼稚舎の時だ。その時から常にお前を目で追っていた。先日まで言い出せなかったのは俺にその勇気がなかったからで……」

「え」

 更に顔を赤らめるローランド様。


「と、兎も角、誰の目もないところでのお前は、純粋で、もっと泣き虫なんだ。あんな事件があった後で、元気でいるなら、それは無理をしているってことだ」

 何故か目頭が熱くなる。頭の中の私は冷静なのに。まるで、心の中のマチルダが泣きじゃくっている様な感覚に襲われる。

「少しは、誰かに頼ることを覚えてくれ。俺が嫌なら、あのナタリアってメイドでもいい」

 鼻を啜り精一杯涙を我慢する私に静かにローランド様が近付いてくる。そして一瞬戸惑いながらも、抵抗しない私を見て、ゆっくり、優しく私を包み込む。

「よく頑張った」

 途端、嗚咽と共に私の瞳から涙が溢れ出した。堰を切ったように、止め処なく。


 頭の許容量は三十路でも、心の許容量は12歳なのだ。このちぐはぐさが、私を恥ずかしく、嬉しく、戸惑わせる。けれど、何故か悪い気はしなかった。

 私の泣き声に駆けつけたナタリアが、初め驚愕した顔を見せたが、やがて安堵に変わる。それは、彼女が初めて私の感情の吐露を見た瞬間だった。




 その日の夕食。ローランド様も一緒だった。

 お爺様とお父様は普段お忙しいために夕食が一緒になることは殆どない。けれど、この日はほぼ奇跡的にその二人が揃っていた。

 あの雨の日の一件があるとは言え、二人が夕食の時までそれを持ち込むことはない。寮にいるお兄様を除いた家族5人が揃った晩餐。普段は私とお母様とお婆様の3人だけの食事。だから本来ならば、楽しい晩餐になるはずだった。

 問題があった。なんと、ローランド様が私が自分の胸で泣いたことを皆に自慢したのだ。

 思わず赤面して立ち上がる。

「ローランド様のばかぁ‼」

 そう言ってローランド様の肩をポカポカと叩く。

 それを見て笑う皆。お父様なんか涙を出しながら腹を抱えちゃって。お爺様は胸のつかえが取れたように静かに笑う。

 お母様はあらあらまあまあ、なんて言って細かいシチュエーションまで聞いてくる始末。お婆様は……いつも通りのニコニコだ。

 ああもうなんなのよぉ!

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